前立線

前立腺ガンの発見数(罹患数)の推移

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国立がん研究センターの1975年から2013年までの前立腺ガンの罹患数(発見数黒い線グラフ)と死亡数(赤い線グラフ)の推移をグラフにしました。
❶前回、前立腺ガンの死亡者数の増加について解説しました。増加の要因は、PSA検診・検査の普及と、前立腺肥大症の治療がプロスタールからハルナールに取って代わった事が原因だろうと思われます。
罹患数の増加の要因もPSA検診・検査が深く関わっている事が、グラフから予想できます。特に、泌尿器科学が先導して行った前立腺癌撲滅キャンペーンが、強力に働きかけたと思われます。
ここで、問題になるのが、罹患数と死亡者数の乖離現象です。定点で比較すると、下記の通りになります。

【年代】・【罹患数】・【死亡数】・比率(罹患数/死亡者)
1975年・・・ 2412・・・1267・・・・・1.9倍
2003年・・・40062・・・8418・・・・・4.8倍
2011年・・・78728・・10823・・・・・7.3倍

❷PSA検診・検査が普及すればする程、無駄な寿命に影響しない前立腺ガンの発見が増えているように見えます。前立腺ガンの治療法が飛躍的に進歩している訳ではありませんから、罹患数と死亡者数の開きは、単に発見しなくてもいい前立腺ガンを見つけてしまったという事になります。

❸この背景には、近年の前立腺肥大症の増加が原因です。私が研修医の頃には、80歳までに2割の男性が前立腺肥大症になっていました。ところが最近では、80歳の男性の8割が前立腺肥大症になるのです。前立腺肥大症では、前立腺の密度が高く、さらに排尿障害が生じるので、当然PSA値が高くなります。PSA値が高い→前立腺ガンの疑い→針生検というルーチンで、寿命に影響しないラテント癌(潜伏ガン)が発見されてしまうのです。これが罹患数と死亡者数のギャップの原因です。

❹PSA検査を導入した健診・人間ドック・地域検診が前立腺ガンの患者さんを増やしたことになります。健診によって『俺は前立腺ガンなんだ❗️❗️❗️』と精神的に追い詰めたことになります。健康を維持するために受けた健診によって精神的不健康に、生活のQOLを低めたことになります。医師のやることは、もしPSA値が高ければ、前立腺肥大症・排尿障害を認め、かつ触診とエコー検査でステージⅡ・Ⅲ・Ⅳが否定出来れば、針生検を実施してはなりません。その際、念のために半年〜1年毎に定期的にチェックすれば良いでしょう。

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前立腺ガンの死亡者数増加の理由

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このグラフは何回も提示しています。前立腺ガン患者さんの発見数(罹患数)と死亡数の推移です。
発見数と死亡数の乖離現象が問題になっています。発見数の増加の伸びに比較して、死亡数の増加はわずかにしか見えません。実は、ここに問題が隠れているのです。

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このグラフは、国立がん研究センターの情報データを元に私が作成したグラフです。前立腺ガンの死亡者数の推移だけをグラフにしてみました。
初めのグラフの印象と随分と違うでしょう?1990年位から急激に増加しているのが分かります。
1960年には480人だった前立腺ガン死亡者数が、2016年には11803人にもなっています。実に24.6倍にも増加したのです。
1960年から1980年までの増加率の角度と、1980年から1990年までの角度と、1990年以降の角度とだんだん急な角度になっています。これを理解するには、時代背景を調べると判明します。

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まずは、1980年頃から、前立腺腫瘍マーカーのPAP検査が泌尿器科医の世界では一般的になりました。前立腺肥大症の患者さんについでに検査して、高ければ針生検を行ったのでしょう。
1990年頃から、アメリカで開発されてPSA検査が普及して、泌尿器科医のみならず一般内科医にも広まったのです。当然、針生検の件数は増えます。
1993年に排尿障害の治療薬として画期的な薬ハルナールが発売されました。それまでの前立腺肥大症の治療薬に比べ物にならない程速効性のある薬です。服用すれば数日で効果が出るので、それまで処方されて来たプロスタールの売上げがガクッと落ちました。プロスタールは、効果が出るまで長期間かかりました。当時、前立腺肥大症の大きさは触診のみでした。触診のみでは、前立腺の大きさがどのように変化したかは不明瞭でした。現在は、エコー検査で前立腺の大きさが、逐一確認できるようになりました。今現在、プロスタールの効果が実感できるようになりました。プロスタールを開始して、半年間で前立腺の大きさが、何と1/2〜1/3までになる患者さんがいるのです。そういう患者さんの前立腺を触診所見では大きさが変化していないこともあります。
2002年頃から、泌尿器科学会が前立腺ガン撲滅キャンペーンを始め、さらに呼応するかのように行政検診・人間ドック・会社健診でPSA検査が導入され、一気に針生検の件数が増えたのです。

まとめると、医師が良かれと思って企画・政策したPSA検診によって、針生検の急増をバックに前立腺ガンの死亡者の数が増えたように思えてなりません。
プロスタールの処方は、ある程度、前立腺ガンを抑えてくれていたのです。

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排尿のメカニズム

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小さな前立腺肥大症でも、あるいは前立腺肥大症がなくてもオシッコの出が良くない、排尿障害の患者さんに遭遇することは多々ある事です。
一般的に泌尿器科医も含めて医師は、前立腺が大きくなければ排尿障害はないと思い込んでいます。前立腺のないご婦人は尚の事です。しかし、物事はそんな単純ではありません。解剖学を土台に機能を考える解剖機能学=構造機能学という観点から考えると、病気の原因が見えてきます。生命の機能を漠然と捉えて病気を考えるので、正確な診断と適確な治療が出来ないのです。そこで、排尿のメカニズムを構造機能学から考えてみましょう。

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❶膀胱内に尿が十分に溜まると、排尿の命令が脳中枢から発せられます。自分の意思で出来ることは、尿道括約筋を開いて、腹圧をかけることです。尿道括約筋は、実際には開くというより前立腺を尿道側(外側)に向かって引っ張る動きをします。その動きに連動して膀胱出口が引っ張られます。(赤い点線)その際に膀胱出口の付近に接続している膀胱括約筋が膀胱全体が収縮するのと連動して緊張・収縮します。出口の内腔は尿道括約筋に引張られ、膀胱出口は膀胱括約筋に引張られた結果、膀胱出口はロート状に開き、尿が流出するのです。

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❷ところが、何らかの原因で膀胱括約筋が十分に収縮しないと、膀胱出口はロート状に開いてくれません。つまり、膀胱出口がスボまった状態状態で排尿することになります。その状態で排尿すると、膀胱出口は小刻みに振動します。このスボまりと振動を抑えるのがαブロッカーのユリーフ・ハルナール・フリバス・エブランチルです。
❸膀胱は排尿のたび毎に圧力を掛けなければならず、膀胱はダンダン疲れ疲弊します。その状態が顕著であると肉柱形成が起き残尿が多くなり、いわゆる「神経因性膀胱」と診断されます。
❹膀胱からの物理的圧力は膀胱出口に直接かかり、出口の裏側に存在する前立腺に全てかかります。その結果、その負荷に抵抗して前立腺が大きくなり「前立腺肥大症」と診断されます。
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❺膀胱出口の振動は、膀胱出口近くの膀胱三角部も振動させます。その結果、膀胱三角部は過敏になり、「心因性頻尿」、「過活動膀胱」、「間質性膀胱炎」、「慢性前立腺炎」と診断されます。男女同じです。この過敏を抑えるのが、ベタニス・ベシケア・トビエース・ウリトスです。
❻膀胱の圧力により膀胱出口部分が、膀胱側に突出して来ます。突出部に前立腺肥大症が連携すると「前立腺肥大症の中葉肥大型」に、前立腺肥大症が伴わないと「膀胱頚部硬化症」、「神経因性膀胱」と診断されます。

以上のことが理解できれば、前立腺肥大症の内視鏡手術の応用に利用できます。
大きさを二の次にして、まずは膀胱出口をロート状に開くように切開・切除します。前立腺肥大症を全て削り取らなくても排尿はスムーズにできます。

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ステージⅣの前立腺ガン患者さん

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今回ご紹介するのは、平成26年3月に来院した60歳の患者さんです。(#31455)

平成25年8月に、地元でPSA検査を実施したところPSA値が何と702!でした。
早速、大病院で前立腺針生検を含め精密検査した結果、グリソンスコア4+4=8と低分化型の悪性度が高い前立腺癌が見つかり、しかも骨転移(両側鎖骨・背骨・左大腿骨)まで病気は進行していました。いわゆるステージⅣです。
平成25年9月には、治療を開始しました。ゴナックス注射、カソデックス内服を続けました。その甲斐あって、鎖骨と背骨の転移は消失しましたが、大腿骨は残ったので放射線治療を追加して、効果が出て消失しました。そして、セカンドオピニオンで平成26年3月に当院を受診したのです。
当時は、治療を開始して半年位で、状態も落ち着いていたので、このまま治療を続けるのが最良でしょうと回答しました。

あれから、4年8ヵ月経った本日に、再び64歳になった患者さんが来院されました。外見からは、とても元気そうで、4年以上経過した前立腺癌のステージⅣの患者さんとは思えません。
現在の患者さんの悩みは、平成27年11月からPSA値1.0以下であったのが、今年平成29年9月からPSA値が1.0を越え、1.66~1.347に上昇し、主治医から再度放射線治療をやりましょうと強要されているとのこと。そこで、今後の治療について相談されました。

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まず驚くべきことは、前立腺癌ステージⅣの5年生存率は、この表で示すように43.6%です。56%以上の確率でお亡くなりになっているのです。それからすると、目の前の患者さんは、まだまだ元気で(私よりも元気!)、あと5年以上は生きれるでしょう。

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この患者さんが一番心配しているのが、ホルモン抵抗性前立腺癌(去勢抵抗性前立腺癌CRPC)です。
前立腺癌は、男性ホルモンであるテストステロンによって活性化します。
この男性ホルモンであるテストステロンを制御することで、前立腺癌を制御できると考えます。

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この患者さんの治療法のように、ゴナックスはテストステロンが作れないようにし、カソデックスはテストステロンレセプターを完全ブロックします。そうすることで、テストステロンが癌細胞内に侵入し、核を刺激して活発になるのを防ぎます。
しかし、ホルモン治療を続けていると、隠れていた生き残った既存の前立腺癌が悪化し、男性ホルモンを遮断されても癌細胞内で自ら男性ホルモンを造れるようになるのです。

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ホルモン抵抗性前立腺ガンの予防として、癌細胞の中まで効果のあるイクスタンジを毎週1回〜2回少量服用することを提案しました。イクスタンジであれば、細胞膜のレセプターとレセプターから細胞への浸入経路と細胞内の男性ホルモンが核内に浸入もブロックしてくれるのです。その結果、細胞内で男性ホルモンが造られてもブロックされるので、変身途中の前立腺ガンを押さえ込んでくれます。

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PSA値が高いまま無事に6年間

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平成23年10月に来院した73歳の男性患者さんです。
PSA値が8.4と高く、虎の門病院で前立腺針生検を勧められましたが拒否して、当院に来院しました。
前立腺触診や超音波エコー検査では、前立腺癌とおぼしき所見は全くないので、定期的に検査することにしました。
平成24年、25年、26年、28年、29年の今年10月にチェックしました。現在79歳です。その間、PSA値が9.0を超える時もありましたが、前立腺癌の所見はまったく確認できませんでした。
写真は、一番最近の超音波エコー検査所見です。前立腺肥大症と排尿障害の証拠は認められますが、前立腺癌の陰影は認められません。触診も異常ありませんでした。
PSA値が高いと言われて針生検を勧められも、6年経過しています。前立腺癌の予後は、まずは5年ですから、この観点からも、この患者さんには前立腺癌が無いかラテント癌と考えて良いでしょう。
これからも毎年1回のペースで定期的検査で過ごせるでしょうね。

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幻臭症、尿臭に悩む若者

遠方から、お母さんと一緒に若い男性が来院しました。
3か月前に突然尿漏れと頻尿(1日16回)が発症しました。その後、症状は軽快しましたが、その代わりに、今の悩む症状が出現したのです。
排尿後、しばらくしてから、自分の尿臭を強く自覚し、気になって授業に出れなくなりました。そのため、現在、保健室登校していました。地元の医師を受診しましたが、特に異常を認めませんでした。

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超音波エコー検査の所見です。
❶赤い矢印で示す部分が、前立腺周囲の静脈瘤です。排尿障害を示唆する所見。
❷青い矢印は膀胱括約筋の方向を示す。本来は黄色の矢印に向かっていなければならないのに、尿道括約筋の方向に向かっている。これも排尿障害を示唆する所見。
❸その結果、膀胱三角部が厚くなる。その結果、頻尿になる。

しかし、現在は、1日5回と頻尿は消失しています。超音波エコー検査所見と矛盾します。つまり、出現すべき頻尿症状が出なくなり、その代りに頻尿情報が、脳中枢の臭い中枢を刺激したために、自分が尿臭がするようになったのです。いわゆる「幻臭」です。幻臭は鼻の嗅神経で感じているのではなく、中枢そのもので感じているので、臭いが消えないのです。

そこで、排尿障害の治療薬であるエブランチル(αブロッカー)と頻尿治療薬であるベタニス(β刺激剤)を処方しました。そして、水分摂取を控えるように指導しました。
1ヶ月経過して、保健室(まだ保健室?)からお母さんと患者さん本人2人から電話がありました。それまで毎日保健室登校だったのですが、現在は授業に短時間ではありますが授業に出席出来るようになりました。感じている尿臭も50%になったそうです。今後も、お薬を続けるように指導しました。また、幻臭の原因が排尿障害だという事を実感してもらいました。
その後、再度電話連絡がありました。尿臭は完全に消失したが、今度は下腹部の痛みと尿漏れ感覚が出てきたと言うのです。治療していくうちに、症状は変化します。それを症状の変遷と言います。そのまま治療を続けると、次第に様々な症状が軽快するとお答えしました。

6950618da61e4ce1b3ad5ac9e9ae1f6c尿意感覚➡︎尿臭感覚への転換理由がある筈です。私は以前から脳の海馬に興味を持っていました。海馬は脳内のインターネットのような存在です。
【膀胱三角部➡︎脊髄➡︎海馬➡︎尿意中枢】が本来のルートなのですが、脊髄に流れて来る情報が多過ぎて、恐らくは海馬が混乱したのでしょう。その結果、
【膀胱三角部➡︎脊髄➡︎海馬➡︎嗅覚中枢】のルートが形成されたのでしょう。
この海馬の混乱を修正する治療法が、将来発見できることを希望します。

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過剰診療(過ぎたるは及ばざるが如し診療)

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PSA値が高くなると、医師から前立腺針生検を勧められる患者さんがとても多くなりました。多くの患者さんを拝見すると、前立腺針生検には、実はメリット、デメリットがあることが分かります。
このグラフを使って解説しましょう。

【メリット】
前立腺針生検により、癌細胞の組織象(=悪性度)が判別できます。上のグラフは、癌組織の悪性度別の予後(生存率)を表したものです。
5年生存率で比較すると、高分化(正常の前立腺細胞に近い顔をした良性型)が95%に対して、低分化(正常の前立腺細胞とほど遠い顔をした悪性型)が30%と、かなり生存率が低くなっているのです。したがって、悪性度の高い癌組織を早期に発見して、積極的に治療しなければならないと、普通に考えたら分かりますよね。……でも、ここに盲点があるのです。

【デメリット】
上のグラフをよ~く観察してみると、低分化(悪性型)のあまりにも急激な生存率の低下(=死亡率の上昇)は、不自然に思えませんか?
その疑問を解くために、このグラフ使って解説します。
各悪性度の死亡数を合計し、死亡率を計算すると、38.5%の前立腺癌の患者さんが5年でお亡くなりになっています。
①高分化(良性型)5年:161人×5%=8人、10年:161人×15%=24人
②中文化(中等度悪性型)5年:550人×30%=165人、10年:550人×50%=275人
③低分化(悪性型)5年:320人×70%=224人、10年:320人×80%=256人
④5年死亡数合計397人、5年間死亡率397人÷1031人=38.5%
⑤10年死亡数合計555人、10年間死亡率555人÷1031人=53.8%

ところが、厚生労働省発表の2015年統計の前立腺癌では、
罹患数: 93,400人
死亡数: 12,200人です。
単純計算で、前立腺癌患者さんのうち13%(12,200人÷93,400人)の人が前立腺癌で亡くなられています。
ここで、疑問が出てきます。上記のグラフから割出した死亡率38.5%と、日本全体で割出した実際の死亡率13%の数字のギャップの原因は何なのでしょうか?

上のグラフの高分化(良性型)が少な過ぎるのです。実際には、高分化の患者さんは、最と多く存在する筈です。
つまり、全国レベルで考えると、予後の良好の高分化の前立腺癌を必要以上に発見しているという事です。前立腺癌と一度診断されると、患者さんは、前立腺癌で亡くなることはないのですが、何十年も精神的トラウマになるのです。患者さんを救うはずの医師が、患者さんを不幸にするとは、何という事でしょう!
前立腺癌の組織を確認し確定診断するのは、泌尿器科医として常識です。医師が病理組織を観察したいという気持ちの結果です。しかし、前立腺癌を発見しようとする余りに、過剰診断・過剰治療(過ぎたるは及ばざるが如し診断・診療)が問題になっていますが、場合によっては、命に危険を伴う診断と治療になる可能性があります。

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最近、話題になっているが、アオリ運転による交通事故や交通トラブルです。大人しい人間が、ひとたび車運転をすると、横柄で横暴な気の短い人間に変身して交通トラブルを起こすのです。
長い年月、人の前立腺の中に潜んでいた癌細胞を針生検により刺激して、突然として横柄で横暴な気の短い前立腺癌に変身するのかもしれません。

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PSAと前立腺ガンの関係

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【PSA値が高い=前立腺癌】というのが、ちまたでは「常識」です。ただ、この常識が独り歩きしてしまい、前立腺癌が死亡リスクのない多くの人々に精神的、肉体的にも苦しめているのが現実です。

そこで、PSA値が高くなる理由について解説しましょう。
一般に信じられているPSA値が高くなる理由が、イラストで示したメカニズムです。さて、前立腺とは、PSAというタンパク分解酵素を合成して精液に混ぜる分泌腺です。合成するのが腺細胞で、その一部の腺細胞が癌化したのが前立腺癌です。

前立腺の腺細胞で造られた容器(腺腔)にPSAをヒタヒタに溜めています。PSAはタンパク分解酵素なので、漏れ出ると周囲のタンパク質でできた組織を破壊してしまう恐れがあるので、腺細胞と基底膜細胞でキッチリと防壁を築き上げています。
その防御壁の一部の腺細胞が癌に変貌すると、基底膜が破壊されPSAが漏れ出てしまい、それが、前立腺癌のPSA値が高くなる理由です。ここまでは、なるほどなるほどと思われるでしょう?

ところがです、基底膜を破るためには、前立腺癌細胞が腺腔内に増殖、増殖して隙間なく増殖してギュウギュウ詰めになる程密度が高くなければ、基底膜は破壊されません。癌細胞は、腺細胞の親戚ですから、基底膜を破壊できる能力は持ってはいません。単に物理的に基底膜が破壊されるから、PSAが漏れるのです。

ですから、PSA値が高くなる癌細胞は、増殖率の旺盛で触診やエコー検査で容易に判別可能なステージⅡ〜ステージⅣのグリソンスコア❽~❿に限ってです。増殖率の控えめなステージⅠやグリソンスコア❼以下の前立腺癌の場合は、この理論では説明できません。
すると、PSA値が高くて前立腺ガンのグリソンスコア❼以下の癌が発見された場合は、どのように考えれば良いのでしょうか?
これは、PSA値が高くなったのは、癌細胞が原因ではなく、前立腺肥大症、排尿障害(膀胱頚部硬化症)、前立腺炎が原因で、基底膜が破壊されたということです。PSAが高いと言う理由だけで、他の検査もしないで針生検を実施したということです。つまり、今話題になっている過剰診療になるのです。

一流大学の有名教授たちも、同じように【PSA高い=前立腺癌】の考え方に固執しているので、若いその他大勢の医師たちも、それに従うのは当然でしょう。知識人であるべき医師が本当に情けなし!

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超音波エコー検査で分かる前立腺ガン

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前立腺の解剖学的所見は、模式図のようです。尿道を取り囲むように前立腺内腺があり、前立腺内腺を取り囲むように前立腺外腺があります。前立腺外腺は直腸側に多く集まっています。
前立腺外腺は直腸に面しているので、触診で直腸から前立腺外腺を触れることができます。前立腺肥大症は、前立腺内腺から発生しますが、前立腺癌は前立腺外腺から発生します。ですから、超音波エコー検査も触診も前立腺外腺に集中すれば、ほとんどの前立腺癌は確認できます。95%以上の確率です。

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❶以前にご紹介した80才の男性患者さんです。自己治療でいろいろ実施していましたが、私の治療方針に賛同して来院しました。現在のPSA値は25で、一般の医師から言えば、完璧に前立線ガンです。早速、超音波エコー検査を行いました。前立線はとても大きく68cc(正常は20cc)でした。前立線の右端に前立線ガンらしき塊が検知されました。
超音波エコー検査では、前立腺肥大症は白く見えます。腺組織+平滑筋+線維組織の混成組織だから超音波が反射され白く描出されます。前立腺癌は癌細胞だけが集まる水分を多く含んだ組織なので、超音波が通過して黒く見えます。写真の赤い矢印の部分です。触診で、前立線全体が肥大症の硬さに、右端にわずかながら前立線ガンの硬い硬結が触れました。明らかに前立線ガンの初期所見です。おそらく、治療の必要のないラテント癌が大きくなっただけでしょう。
この患者さんは、80歳を超えていますから、前立腺針生検や無理な治療法を選択しなければ、天寿を全うできるでしょう。私よりも長生きかもしれません。うらやましい。

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❷50歳男性の患者さんで歯科医師の方です。
超音波エコー検査で外腺に前立腺癌らしき陰影(赤い矢印)が前立腺の右端(写真の左側の左下)に見えます。
直径が7mm前後の小さいものです。体積にして0.1ccです。
陰影の部分に一致して触診で癌の硬結が触れます。

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❸58歳男性の患者さんです。
2013年に神田のあるクリニックでPSA値6.27と高いため、前立腺針生検を実施しましたが、癌細胞を認めませんでした。最近になり基幹病院でMRI検査で陰影が発見され、またもや前立腺針生検をすすめられています。超音波エコー検査で前立腺外腺の中央部に陰影が見えます。触診でも硬結が触れますから、前立腺癌と診断しました。

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❹51歳男性の患者さんです。
2年前に会社検診でPSA値6と高く、前立腺針生検を勧められたのですが、決心がつかず当院受診した経緯があります。その際には前立腺癌の所見は得られませんでした。半年後PSA値8.5と高くなり、超音波エコー検査で疑いの陰影が発見されました。その後1年と半年ぶりに、PSA値17と非常に高いため来院しました。
前立腺外腺中央に明瞭な陰影が認められ、触診で同部に硬結を触れました。

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❺64歳男性の患者さんです。
大学病院の検査で、PSA値47.3ととてつもない高い値で当院を受診しました。
MRI検査で前立腺外腺に陰影があると診断されています。超音波エコー検査では、MRI検査の結果と同じに所見が得られました。

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❻60歳代の男性で、実は同級生の医師です。
8年前からPSA値は3~4の間を推移していましたが、超音波エコー検査で前立腺肥大症を指摘されました。
平成26年11月になりPSA値4.6と正常域を超えたので、心配になり、私に電話で相談していました。
平成27年6月になって、PSA値が5.6とさらに高くなり、心配は極致になり高橋クリニックを受診しました。
超音波エコー検査では前立腺の大きさは23㏄と正常域ですが、前立腺結石が多数認められ、強い排尿障害を認めます。通常の超音波エコー検査では一見異常がないように見えます。
通常の画像では、前立腺の正常組織と前立腺癌の組織を区別することはできません。

そこで超音波エコー検査の画像を腎臓専用の設定に変え、さらにコントラストを弱くします。
正常の前立腺組織は線維と筋肉と腺組織で白っぽく描出されますが、前立腺癌組織は線維組織や筋組織が少ないので黒く描出されます。
そこで画像のコントラストを調整すると、前立腺外腺の右側(画面では左)に丸い陰影(赤い矢印)が確認できます。

画像をさらに強調画像にすると、0.41㏄の陰影が確認できます。
前立腺触診で、前立腺右側だけに小指大の前立腺肥大症?という若干硬い組織を触れます。通常前立腺肥大症は左右均一に触れるのが普通ですから、違和感を感じます。恐らく前立腺癌の初期と思われます。

友人に前立腺癌の可能性があることを告げると、白黒はっきりさせたいと希望しました。そこで大学病院に紹介しました。大学病院では当然、前立腺針生検を実施し、結果グリソンスコア6という悪性度が中等度以下でした。
グリソンスコア6以下であれば、何にも治療しないという選択肢もあるのですが、友人は積極的な治療を希望し、放射線治療(小線源)を希望し実施したそうです。友人のサバサバした決断に感心しました。

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❼74歳男性の患者さんです。
地元の健診でPSA値55と高く、今年の4月に大学病院の泌尿器科を受診、再検査でPSA値62.4、その後何回か検査をし、7月に73.1になった患者さんです。
前立腺針生検を拒否し、当院受診し、超音波エコー検査で前立腺ガンを確認しました。
前立腺肥大症治療薬であるプロスタールを1カ月服用して、PSA値が26に低下しました。超音波エコー検査でも触診でも前立腺ガンは不明瞭です。

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❽71歳の男性患者さんです。
3年前からPSA値4を超え、地元の病院でPSA値6と高く、勧められるままに前立腺針生検を受けました。結果、12本中2本に、わずかながら前立腺ガンが発見され、悪性度がGS3+3、3+4でした。中等度の悪性度だったので、何もしないで、そのまま経過観察になっていました。
ところが、PSA値は次第に高くなり、今月の8月には、PSA値16になりました。また、前立腺針生検を勧められたのですが、前回の前立腺針生検が痛く苦しかったので、インターネットで探し、大阪から当院を受診しました。
超音波エコー検査で、前立腺右端(赤い矢印)に陰影が確認できました。触診でも同じ位置に前立腺ガンと思われる硬結を触れます。ご希望により、本日から私の治療を開始しました。
前回の針生検の所見からすると、今回のような前立腺ガンの体積は考えられませんから、針生検によって前立腺ガンを刺激したのかも知れません。
前立腺肥大症治療薬であるプロスタールを1カ月服用で、PSA値16➡4.8に低下しました。このまま継続治療することになりました。

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❾62歳の男性患者さんです。
平成27年7月にPSA値4.18とわずかに高いので、当院受診しました。その時点で、超音波エコー検査、触診で前立腺ガンは認めませんでした。
平成28年7月の1年後の定期的検査でも認めませんでした。
ところが、平成29年5月になり、触診で前立腺右端に硬結を触れ、超音波エコー検査で体積0.26ccの陰影(赤い矢印)を認めました。そこで、前立腺肥大症の治療薬プロスタールを開始しました。

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治療開始してから4か月後の超音波エコー検査所見です。
前立腺ガンの陰影は縮小し、体積は0.26cc➡0.07㏄にまでなりました。触診でも硬結は、わずかに跡が残っているかな?程度の感触でした。治療効果は、まずまずでした。

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❿71歳の男性患者さんです。
PSA値が46.6ととても高く、MRI検査でも、よく分からないので、前立腺針生検を勧められました。以前から頻尿(1日13回)があり、前立腺針生検が嫌で当院を受診しました。
前立腺は大きく116㏄(正常20㏄)です。超音波エコー検査で前立腺の右端に陰影(赤い矢印)が確認できます。
触診で同じ位置に硬結が触れました。おそらく前立腺ガンと診断し、前立腺肥大症の治療薬プロスタールを処方しました。

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治療始めて10ヵ月の超音波エコー検査所見です。
前立腺は116㏄➡97㏄と小さくなりました。
前立腺ガンと思われる陰影も2.03㏄➡0.57㏄と小さくなりました。
PSA値も46.6➡8.47まで低くなっています。

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⓫82歳の男性患者さんです。
PSA値が11.0と高い値なので、前立腺針生検を勧められて、大阪から来院した患者さんです。
触診で左右に前立腺ガンの硬結を触れます。
超音波エコー検査で右前立腺に5.2ccの前立腺ガンの陰影を認めます。

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左前立腺にも3.3㏄の前立腺ガンと思われる陰影を認めました。
男性の平均寿命の80歳を越えた男性患者さんに、前立腺針生検を勧める医師の考え方に疑問を持ちます。
前立腺肥大症の治療薬であるプロスタールの処方で、PSA値は2.1まで低下しています。

★★★腹部超音波エコー検査で確認できない前立腺癌もあります。非常に小さな前立腺癌、例えば、直径3mm以下の場合などです。また、悪性度の高い前立腺癌で、前立腺全体に散らばっている(拡散・diffuse)している場合は、体積として把握できないので確認できません。しかし、前立腺癌患者さんの5%以下です。
★★★泌尿器科の医師は、直腸に挿入する経直腸式超音波エコー検査に固執していますが、準備が大変だし、患者さんにも負担になる検査です。私は手軽に出来る腹部超音波エコー検査を推奨します。

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前立腺ガンと他のガンとの比較

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この比較表は、千葉県がんセンターの1997年〜2007年も60歳代男女の大腸ガン、胃がん、前立腺ガンの統計報告によるものです。
ポピュラーな大腸ガンや胃がんに比べて、前立腺ガンは断トツに5年生存率が良いのです。
前立腺ガンを除く、大腸癌、胃癌のステージ❶~❸の手術グループと手術しないグループでの5年生存率の差は、27%〜33%です。それに比較して前立腺ガンは、0%〜4%です。

このデータだけを見ると、ステージ❶~❸の前立腺ガンは、手術の必要があるのか疑問です。本当に手術の必要な前立腺ガンは、ステージ❹だけだと言うことになります。
ステージ❶を除いて、ステージ❷❸は、超音波エコー検査と触診で確認できます。確認した時点で、針生検をせずに、軽いホルモン治療して定期的に観察すればOKでしょう。ステージ❹の患者さんは、どのようにするかご自分で選択なさるのが得策と考えます。

日本人の3人に1人は癌で亡くなります。他のガンは早期発見が重要かも知れませんが、前立腺ガンに限っては、針生検による早期発見は無意味です。PSA検査を行って針生検に追い込まれない様にするべきです。どうしても前立腺ガンが心配なら、定期的に超音波エコー検査と触診を実施してもらえば良いでしょう。超音波エコー検査ができないクリニックでは、触診だけでも、ステージ分類は可能です。

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