神経因性膀胱

膀胱・直腸の違いで分かる病気の本質

膀胱と直腸は、元々は同じ臓器だったのです。
以前にも、膀胱の発生学的構造について解説しました。そこでおさらいです。

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まずは、胎児の4週の時点で、膀胱の基礎が出来上がります。それが、「総排泄腔」です。その形はとてもシンプルです。総排泄腔の前に「へその緒」が繋がっています。総排泄腔の前後の真ん中辺りにクビレが生じます。これを「尿直腸中隔」と呼びます。イラストでは「中隔」と示しています。
胎児の6週に成ると中隔というクビレがドンドン深くなっていきます。深くなるに連れ、総排泄腔の前は膀胱に、背後は直腸になろうと変形します。つまり、膀胱と直腸は、発生の途中では同じ臓器だったのです。ですから、出産後に成長して成人になれば、別の臓器と思われますが、神経的には脊髄神経で繋がっている方もおられます。その証拠に、膀胱炎になると便意を催すヒトもいれば、下痢すると頻尿になるヒトも存在します。
胎児の7週に成ると、尿直腸中隔は完成して膀胱と直腸は完全に分離独立します。膀胱の末端は、体壁皮膚の外側まで通過して「尿道」になります。胎児の11週には男性の場合は、この尿道から芽が出て、それが「前立腺」になります。背後の直腸は、大腸(S字結腸)の末端と接続して、大腸は直腸まで連続します。

ここまで見ると、膀胱も直腸も、ほぼほぼ同じ臓器です。何が違うかと言うと、膀胱は腎臓・尿管と繋がり尿を溜め排泄し、直腸は消化器官末端の大腸と繋がって大便の通り道です。尿管の粘膜細胞である移行上皮が膀胱の粘膜として広がり、大腸の粘膜細胞の円柱上皮が広がり直腸の粘膜になるのです。最初は同じ臓器なのに、粘膜細胞は異なるのです。
さて、ここで疑問が生じます。オシッコが出なくなる「神経因性膀胱」の原因は、膀胱の力が無くなったから尿が出なくなると言われています。しかし、直腸の力が無くなったから大便が出なくなる病気は存在しません。もともと直腸には、そのような力がある構造でもなく、大便の塊を腹圧をかけて押し出す際に、便意を感じてチョコっと力を補助するだけです。直腸の筋肉はただ単に蠕動(ぜんどう)運動するだけです。膀胱もほぼ同じで、尿を溜める時に膨らみ、尿を出す時に一滴も残らず閉じるだけの力があればよく、肝心の排出力は腹圧をかけて尿が出るだけです。ではどうして、「神経因性膀胱」という病気で尿が出なくなるのでしょうか。それは、生まれは同じ双子の臓器ですが、膀胱出口の構造が直腸の出口よりもシンプルではないからです。

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ここで、先ず直腸の出口=肛門の仕組みを見てみましょう。内〇〇括約筋と外〇〇括約筋が隣り合わせで接しています。排便の際には、外〇〇括約筋が開きますが、内〇〇括約筋は軽く収縮します。なぜなら、直腸の縦走筋と協力して、直腸を漏斗状に姿を変えて大便が出やすくするのです。ここで容易に分かることは、内〇〇括約筋が頑張っても骨格筋である外〇〇括約筋には負けてしまうので肛門は容易に開くのです。

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直腸と比較すると、膀胱の出口は少し複雑です。
内〇〇括約筋と外〇〇括約筋が上下に位置しているのです。
排泄物が液体の膀胱の場合は、直腸と同じに隣接していると、尿が漏れ出てしまうからです。しかし、排尿時は、直腸と同じ動きをします。外〇〇括約筋が開こうとすると、内〇〇括約筋が収縮して同時に膀胱縦走筋が収縮します。その相互作用で膀胱の頸部は漏斗状に姿を変えて排尿しやすくなります。
ところが、直腸と違い、内と外〇〇括約筋が上下に位置していて、外〇〇括約筋の力が内〇〇括約筋に十分な伝わりません。そのため、微妙なバランスで内〇〇括約筋が開くことになります。もしも、このバランスが乱れれば、内〇〇括約筋は十分に開かず、排尿障害になるのです。

つまり、直腸は内〇〇括約筋と外〇〇括約筋が並行に位置し、膀胱は内〇〇括約筋と外〇〇括約筋が縦に位置しているのです。力の強さは、骨格筋・随意筋である外〇〇括約筋の方が、内臓筋・不随意筋である内〇〇括約筋よりもはるかに強いのです。ですから、並行に並んでいる直腸の場合は、内〇〇括約筋は外〇〇括約筋の言いなりです。そのため、外〇〇括約筋が開くと内〇〇括約筋が容易に開いてしまうのです。しかし、ある程度の距離を置いて縦に並んだ膀胱の場合は、内〇〇括約筋が自己主張するので、外〇〇括約筋の言いなりにならないのです。その程度は、歳を重ねるごとに強くなり、また男性の場合は前立腺が大きくなるほどに強くなるのです。

便秘などの大便の出が悪いのは、大便の固さに問題があるのです。しかし尿は液体ですから、出の悪さは膀胱出口の開閉だけに依存しています。内尿道括約筋(膀胱括約筋)と外尿道括約筋の連携プレイが問題になるのです。神経因性膀胱は膀胱全体の筋肉の力がないからと言うのは「嘘」です。『治らないんだ😞』と詐欺被害者になってしまいます。騙されてガッカリしないでください。ですから、神経因性膀胱などの治療には、内尿道括約筋を緩める薬や手術で内尿道括約筋をカットしてあげればいいのです。

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医療サイトの投稿原稿 「神経因性膀胱が治らないと言う誤解」

 膀胱の収縮力低下の結果、オシッコが出なくなる病気を「神経因性膀胱」と呼びます。
一般的に泌尿器科の医師は、男性で前立腺が大きくなく残尿量が多ければ、神経因性膀胱と診断します。また、女性の場合でも残尿量が多ければ、やはり神経因性膀胱と診断します。その理由は、排尿障害の明確な原因がなく、単純に膀胱の収縮力が低下しているからだとされます。そして、脊髄神経や脳の精密検査を行い、脳梗塞の後遺症だ、椎間板ヘルニアの影響だ、二分脊椎だ、馬尾神経障害だ、過去の骨盤内手術の後遺症だなどを理由に、「治りません」と結論づけるのです。
治療手段は、「生涯に渡って膀胱カテーテル留置か、毎日何回もの自己導尿しかありませんね。」と告げるのです。ここには、病気を治そうと努力する医師の姿が一かけらも見えません。
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このイラストは、排尿の際の膀胱周囲の物理的力を表現しています。
① 自分の意志で尿道括約筋が開く
② 呼応して自動的に自律神経で膀胱括約筋が開く
③ 蓄尿の重量(重力)
④ 膀胱が収縮する
⑤ 臓器の総重量(重力)がかかる。
⑥ 腹筋・腹圧がかかる
以上の6つの要素で排尿します。
この中で、物理的力が一番強いのが腹筋・腹圧です。2番目が各臓器の総重量、3番目が膀胱収縮力です。その3番目の強さの膀胱収縮力が無くなったからと言って、オシッコが出なくなるでしょうか?どう考えても、他に原因があるとしか思えてなりません。
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ここで、簡単にできる実験をお示しします。
点滴のビニール・バック溶液に着色し、点滴を全開にします。5分後、中身は空っぽになります。当たり前の光景です。点滴バックに外から圧力は掛かっていません。点滴を全開にしたので、溶液の重量(重力)で空っぽになっただけです。これから考えれば、膀胱の収縮力が欠如しても、膀胱出口が十分に開いていれば、オシッコは完全に出るはずです。まして腹筋・腹圧、臓器の重さ、畜尿の重さの三つの力が働くのですから、オシッコが出ない訳がありません。結局、オシッコが出ない神経因性膀胱の原因は、膀胱出口が十分に開かないためです。尿道括約筋は、骨格筋・横紋筋で自分の意志で開きます。しかし、膀胱括約筋は内臓筋・平滑筋の自律神経支配で自分の意志では開くことが出来ません。あくまでも尿道括約筋と連動してオートマティックに膀胱括約筋が開くのです。神経因性膀胱の患者さんは、このオートマティックが故障していると考えられます。その原因として、膀胱出口が硬くなってしまった膀胱頚部硬化症や前立腺肥大症が考えられます。
膀胱出口を開くための自律神経支配のオートマティックを直すことは出来ませんが、膀胱出口を緩めたり開くことは可能です。
① 保存的にはαブロッカー(エブランチル・ハルナール・ユリーフなど)を利用して膀胱出口の緊張を緩める。
② 前立腺肥大症の硬さを柔らかくするために抗男性ホルモン剤(アボルブ・プロスタール)を投与する。
③ 保存的治療で改善が得られなければ、外科的治療・経尿道的内視鏡手術を行い、膀胱出口を円錐状・漏斗状に開放する。膀胱括約筋と尿道括約筋は、男性で3㎝~4㎝、女性で2㎝の距離があるので、術後の尿失禁の心配はない。
神経因性膀胱を専門とする医師は、膀胱内圧測定や筋電図などを駆使して、神経因性膀胱を次のように分類します。
1弛緩性膀胱、2無抑制膀胱、3過活動性膀胱、4排尿筋括約筋協調不全
これらの分類は、ダメになり疲弊した膀胱の現状を分類しているだけで、患者さんの悩みや苦しみに対して何の解決にもなりません。
貯水タンクから水の流出がなければ、タンクの排水口が何かで詰まったと考え、排水口を点検・清掃して修理するでしょう。貯水タンクに収縮力がないから流出しないとは思いませんね。それと同じで、自己導尿して尿の排出できるのに膀胱収縮力がないからと診断するのは見当違いです。

【医療関係読者からの感想】

また、以下には高橋先生の記事の感想をいただきましたので、一部を記載させていただきます。
記事は全体の89.8%の方が満足していると回答しており、


・眼前の患者に診断をつけたら終わりではなく、病態生理を突き詰めてどうしたらその症状を改善できるかという、医療の根本姿勢を考えさせられるお話でした。
・明日からの外来で、患者への説明と頻尿への治療に役立てたいと思います。ありがとうございました。
・以前からブログを拝見し勉強させていただいてます。
・ぜひ継続してください もっと勉強したいです
・他科の医師としてとても勉強になりました。
・専門外ですが患者さんから相談されることがありますので、大変参考になりました。
・神経因性膀胱の診断でも膀胱出口が硬くなってしまった膀胱頚部硬化症や前立腺肥大症があることに今まで気づいておらず中々薬の効果が出ない人がいると思っておりました。とても参考になりました。

などのお声をいただいております。
今後の執筆のモチベーションにしていただけますと幸いです。

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神経因性膀胱の誤解

膀胱の収縮力低下の結果、オシッコが出なくなるのが「神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)」と呼ばれる病気です。
泌尿器科の医師は、男性で前立腺が大きくなく残尿量が多ければ、神経因性膀胱と簡単に診断します。また、女性の場合も残尿量が多ければ、やはり神経因性膀胱と診断してしまうのです。その理由は、単純に膀胱の収縮力がないからだということです。そして、脊髄神経や脳の精密検査を行い、脳梗塞の後遺症だ、椎間板ヘルニアせいだ、馬尾神経障害だ、二分脊椎だ、過去の骨盤内手術の後遺症だなどの理由に、「治りません!」と簡単に結論づけるのです。さらに、治療手段は、「膀胱カテーテルを一生留置するか、自己導尿しかありません!」とワンパターンの回答です。これを聞いた患者さんはお先真っ暗です。
ここには、『神経因性膀胱は絶対に治らない』という思い込みが医師にあるのです。

このイラストは、排尿の際の膀胱周囲の物理的力を表現しています。
Mechaurination排尿するまでの下部尿路のシステムを順番に説明しています。
①自分の意志で尿道括約筋が開く
②呼応して自律神経で膀胱括約筋が開く
③蓄尿の重量(重力)
④膀胱が収縮する
⑤各臓器の自重(重力)がかかる(膀胱は内臓の中で最低位置)
⑥腹筋・腹圧がかかる
以上の6つの要素が作用して排尿します。
この中で、物理的力が一番強いのが腹筋・腹圧で、2番目が各臓器の総重量、3番目が膀胱収縮力です。その3番目の強さの膀胱収縮力が無くなったからと言って、オシッコが本当に出なくなるでしょうか?どう考えても、他に原因があると思えてなりません。

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ここで、誰でもできる簡単な実験をお示しします。
ビニールの点滴バッグ溶液に着色(左の写真)し、点滴を全開にします。5分ほどで中身は空っぽになります。どう見ても当たり前の光景です。点滴パックに外から圧力は全く掛かっていません。点滴を全開にしたので、溶液の重量(重力)だけで空っぽになったのです。
この点滴バックを膀胱に例えれば、収縮力のないからと言う理由で、神経因性膀胱に残尿が認められる現象が理解できません。なのに神経因性膀胱と呼ばれる病気は、なぜ、オシッコが出なくなるのでしょうか?
膀胱はこの点滴バックに比較して、蓄尿の重量以外に腹筋・腹圧、臓器の重さの3つの出力の要素が健在しているにもかかわらず、オシッコが出ないのです。理由は簡単です。膀胱出口が開放しないからです。その原因は膀胱頚部硬化症(男女共通)か前立腺肥大症(男性のみ)です。ですから、『神経因性膀胱は治せない』病気ではなく、『膀胱出口の緊張を緩めるαブロッカーの投与や、内視鏡手術(TUR-Bladder neck)』を実施すれば治ります!

医師は目の前の現象を正確に緻密に理解し、苦しんでいる患者さんを助けるのが使命です。膀胱収縮力が低下したからオシッコが出ないなどと素人的発想で安易に臨床を済ませないでほしい。学生時代に習った解剖学・生理学を駆使して患者さんを助けろ!疲弊した膀胱を分類するために無意味な検査(膀胱内圧・筋電図など)して、データを集めて遊ぶのはヤメろ!

神経因性膀胱の患者さんが自己導尿でカテーテルを使えば、容易に排尿できます。膀胱の収縮力とは無関係です。膀胱出口が単に開放されれば、排尿できるのです。


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神経因性膀胱 導尿の後遺症「膀胱のカビ感染」

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平成25年4月に大学病院で脊髄疾患の手術を行った岩手県在住の患者さんです。その後、尿が思うように出なくて、さらに尿意切迫感と尿失禁が治らず、神経因性膀胱と診断されました。泌尿器科に自己導尿の指導を受けていました。2年後、高橋クリニックを見つけ来院しました。
初診時の所見は、自尿が90ml、残尿が98mlでした。前立腺は大きくはないので神経因性膀胱と診断されても仕方がないでしょう。超音波エコー検査で膀胱三角部が肥厚し、前立腺内に石灰化を認めます。膀胱頚部硬化症による排尿障害の所見です。まずは排尿障害の治療を優先し、ユリーフとザルティアを処方しました。

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症状は軽快しましたが、完全ではなかったので、患者さんの強い希望で内視鏡手術を行ないました。
写真は、内視鏡手術直前の所見です。予想通り膀胱出口が閉じていて膀胱頚部硬化症の予見です。

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神経因性膀胱と誤診され1日6回自己導尿している前立腺肥大症の患者さん

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栃木からご夫婦で来院された60歳代の男性患者さんです。
現在、自力で排尿は50ccほどで、残尿は常に400cc〜500ccも残っています。地元の大学病院では「神経因性膀胱」の診断で、一日6回の自己導尿を指導され実施しています。
しかし、一生自己導尿を行わなければならないことに、患者さん本人はひどく落胆していました。
いろいろお話をお聞きし、超音波エコー検査を行いました。
前立腺の大きさは32㏄と正常範囲の20㏄前後と比較しても、約1.5倍の大きさです。いわゆる前立腺肥大症の範疇に入ります。

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超音波エコー検査の所見を詳細に観察すると、右の写真の如くです。
赤い矢印の線が、本来の膀胱のラインです。この患者さんは、膀胱のラインよりも膀胱側に前立腺が突出(緑の矢印)しています。いわゆる中葉肥大型前立腺肥大症の所見です。膀胱頚部硬化症の範疇に入ります。

この患者さんが、前の主治医に前立腺肥大症の手術をすれば、導尿しなくてもよくならないかと尋ねました。
すると、主治医は神経因性膀胱になった膀胱は治らないので、手術をしても無駄だと答えたそうです。

前の主治医は試みもしないで諦めてしまう、杓子定規の応用の効かない冒険心のない医師です。前立腺の詳細な検討もしないで出した結果でした。前立腺肥大症でも中葉肥大型は、この患者さんのように強く排尿が障害されます。まずは前立腺肥大症の治療が優先です。

神経因性膀胱はダメになってしまった膀胱の状態を示しているに過ぎません。膀胱がダメになってしまった原因を追究しないで、ダメなものはダメという判断は、医学ではありません。その原因を除去することで、治るかも知れません。この患者さんは恐らく治るでしょう。まずは、排尿障害の治療薬であるユリーフと前立腺肥大症治療薬であるプロスタールを処方しました。この治療で軽快しなければ、内視鏡手術を考慮しました。

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神経因性膀胱の治療#5 41歳の男性 自己導尿1回400ml、1日2回

Nb29377letter患者さんから届いた手紙の文面です。
手紙は感謝の内容ですが、ことの経緯を順を追って解説しましょう。
患者さんは北海道から来院された41歳の男性です。
平成19年頃から、尿の出の悪さと尿意切迫感で、地元の基幹病院を受診しました。いろいろの検査を行いましたが、原因不明でした。治療はいい加減なものだったようです。
時は立ち平成25年1月になり、尿の出にくさが更に強くなり、下腹部や側腹部まで痛くなって来ました。地元の泌尿器科専門病院や基幹病院を受診したところ、膀胱壁が厚く肥厚しており、腎臓も腫れていることが判明しました。診断結果は「神経因性膀胱」でした。早速、自己導尿を1日2回するように指示されました。自尿は150ml~200mlで、自己導尿による1回の残尿が300ml~400mlとかなり多い状態でした。
Nb29377letter2患者さんは一生この状態を続けることを考えると憂鬱になり、何とか解決策はないものかとインターネットで検索している内に高橋クリニックのこのブログを発見したのです。平成25年3月に当院を初めて受診しました。

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神経因性膀胱の治療#4 69歳のご婦人 留置カテーテル生活からの解放

69歳のご婦人です。(患者番号29681)
平成24年12月に下腹部痛出現し、婦人科を受診したところ、巨大な「卵巣のう腫」と診断されました。
平成25年1月に大学病院でMRI検査を実施したところ、卵巣のう腫ではなく、パンパンに腫れた膀胱であり、「弛緩性神経因性膀胱」と診断されました。

大学病院泌尿器科で1月から自己導尿の指導を受け何回か試みましたが、なかなかうまくいかず、留置カテーテルになりました。しかし、留置カテーテルが痛く、その後も別の大学病院泌尿器科で再度自己導尿を試みましたが、挿入時の痛みが辛く、結局、留置カテーテルの状態で悶々とした生活を送っていました。

お嬢さんがインターネットで探し、平成25年5月に高橋クリニックを受診しました。

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神経因性膀胱の治療#3 82歳の男性 自己導尿1日5回からの解放

82歳の高齢の男性です。(患者番号29354)
平成24年7月に突然尿が出なくなりました。(尿閉)
地元の大きな病院の泌尿器科を受診、前立腺は大きくなく、膀胱の力が足りない、「弛緩性神経因性膀胱」と診断されました。ベサコリン、ウブレチド、フリバスを処方されましたが、排尿障害はだんだん強くなり、平成25年2月から1日5回の自己導尿の指導を受け、途方に暮れ、インターネットで高橋クリニックを探し来院しました。

来院時には自分で排尿することは出来ず、1日に5回自己導尿を行っていました。自己導尿での採尿は、1回につき200ml~250mlです。
Nb29354m82echopre前立腺は大きくなく23ccと正常範囲内です。
早速、それまでの薬剤を中止にして、排尿障害の治療としてユリーフと、前立腺を軟らかくしようとプロスタールを処方しました。私の処方薬で、尿は少し出るようにはなりましたが、それでも1日4回の自己導尿が必要で、1回あたり150ml~200mlの尿が残っています。

自己導尿から解き離れたいという本人の強い希望で、内視鏡手術をすることになりました。

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神経因性膀胱の分類(治療から見た本質的な分類)

神経因性膀胱の患者さんで問題となるのが、弛緩性神経因性膀胱の治療で1日何回もの自己導尿です。生活の質(QOL)が低下して、活動範囲がどうしても狭まります。
主治医は「仕方がない」の一点張りです。自分の母親や父親だったら、やはり同じように対処し考えるのでしょうか。

排尿の仕組みをもう一度考え直すと、治療方法が見えてきます。
排尿の為には、①膀胱排尿駆出筋、②膀胱括約筋(内尿道括約筋)、③尿道括約筋(外尿道括約筋)の3つの要素の働きが重要になります。

――――――――――――――――――――――――――――――――
   要素         正常           神経因性膀胱
              A  B        C  D   E   F  G
              ⇓  ⇓        ⇓  ⇓   ⇓   ⇓  ⇓
――――――――――――――――――――――――――――――――
①膀胱排尿駆出筋  ○  ×       ○  ×  ○  ×  ×
②膀胱括約筋     ○  ○       ×  ×  ○  ×  ○
③尿道括約筋     ○  ○       ○  ○  ×  ×  ×
――――――――――――――――――――――――――――――――

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神経因性膀胱の分類(建前上から見た分類)

下部尿路や前立腺に問題なく、排尿が円滑に制御できない状態を神経因性膀胱とされています。
神経因性膀胱の分類は、今までにも様々定義されていましたが、大雑把に下記のように定義・分類されます。

①弛緩性神経因性膀胱(低活動膀胱)
膀胱の排尿筋の力が低下して、排尿出来ない状態です。
膀胱は尿意があってもなくても、残尿はとても多くなり、腹部腫瘤と誤診されることが多々あります。ご婦人の場合、巨大卵巣のう腫と誤診されるエピソードがあります。
また、溢流性尿失禁あるいは奇異性尿失禁の状態が多く出現します。つまり尿が出ないのに尿失禁するという矛盾した現象が起きるのです。

原因として、骨盤内手術による神経損傷、糖尿病、アルコール中毒、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、帯状疱疹などが挙げられています。もちろん原因不明もあります。

治療として、エブランチルやウブレチドなどの薬剤治療か自己導尿が標準的な治療です。

②痙性神経因性膀胱(過活動膀胱)
膀胱の排尿筋が、意識的にしろ無意識にしろ勝手に収縮して、尿意切迫性尿失禁になってしまいます。最近では過活動膀胱OABとしてテレビコマーシャルで有名になりました。

原因として脳梗塞、脳出血、パーキンソン病とされています。
もちろん原因不明もあります。

治療薬はベタニスなどがありますが、どれも対症療法です。

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