オシッコがゼロの患者さんの頻尿
頻尿を訴え、千葉から40代の男性患者さんが平成28年8月の初めに来院されました。症状は3月頃より発症し、膀胱炎の診断で、抗生剤と抗コリン債を処方されましたが治りません。頻尿の程度は、1時間に1回のペースです。
実は、この患者さんは、私と同じで慢性腎不全が原因で、血液透析を実施しており、尿が1滴も出ない人でした。それでも、頻尿と残尿感が出るのです。不思議でしょう? 膀胱内に尿がたまっていないので超音波エコー検査ができません。そこで患者さんに許可を得て、尿道からカテーテルを入れ、水を100ml注入し、超音波エコー検査を実施しました。膀胱と前立腺が描出され、診断のための貴重な判断材料が確保できました。
すると、膀胱三角部が肥厚し、膀胱三角部の粘膜の硬化像がハッキリとしていました。この所見は、膀胱三角部の過敏さを示唆しています。つまり、過去において排尿障害が潜在していたことが予想できます。過去の既往をお聞きすると、膀胱尿管逆流症で、両側の尿管膀胱再吻合手術をされていました。そのため、両側の腎臓がダメになり、その後、慢性腎不全になった経緯がありました。
このことから、実は排尿障害が以前からあって、そのために膀胱内圧が極端に高くなり、膀胱尿管逆流症になったと推察もできます。もしかすると、過去の主治医は、形態学的な異常に目を奪われ、膀胱尿管逆流症のみを治し、膀胱内圧の上昇の原因である排尿障害に手を付けなかったために、腎臓がさらに悪くなったのかも知れません。ある意味で、医療による被害者かも知れません。
前立腺の過敏さを抑える意味でαブロッカー(エブランチル・ハルナール・ユリーフなど)を、膀胱三角部の過敏さを抑える意味でβ3作動薬(ベオーバ・ベタニス)を処方しました。1か月後患者さんが来院しました。予想通り、頻尿は改善し、2時間に1回のペースになったと大喜びです。
余談がありました。地元の薬局で処方箋を渡したら、そこの薬剤師の先生が、「おしっこが作られないのに、何故、おしっこの出やすくする薬を処方されたのですか?」と質問されたそうです。腎臓内科の主治医にも同じ質問を受けたそうです。私の説明をその患者さんは、しどろもどろにしましたが、「???」と分かってもらえなかったそうです。
薬剤師も医師も、クスリと表面的な適応病名のことしか考えないのです。クスリの薬理作用とその対応する生体反応を詳細に考えれば容易に理解できる筈です。ユリーフをはじめとするαブロッカー(エブランチル・ハルナール・ユリーフなど)は、前立腺肥大症の排尿障害のクスリですが、実は膀胱出口の膀胱括約筋や膀胱三角部の緊張と興奮を抑える薬剤です。緊張がゆるめば、おしっこが出やすくなり、興奮が収まれば頻尿が改善するのです。β3作動薬は主に膀胱三角部の興奮を鎮めて頻尿を改善するのです。クスリの作用機序の本質を考えないで、病名とクスリの保険適応で薬剤を決める悪しき慣習があるのが、治療を妨げるというエピソードです。
コメント