切迫性尿失禁の本質
過活動膀胱の代表的な症状が「切迫性尿失禁」です。尿意を感じたと同時に尿意切迫感になり、急にオシッコが漏れてしまうのです。切迫性尿失禁のメカニズムについて解説します。
男女問わず、排尿機能障害が存在すると、膀胱出口周辺に物理的負担がかかります。膀胱出口が排尿時に十分に開かないでオシッコする訳ですから、腹圧が膀胱出口に必要以上にかかるのです。すると膀胱出口は細かく振動します。ちょうど、空気を吸って口から吹く時に口を閉じ気味にすると、唇(くちびる)がブルブル振える現象と同じです。結果、膀胱出口周辺の平滑筋(内臓筋)が振動します。この現象が長期間にわたって何度も繰り返し起きることで、平滑筋が次第に増殖して過敏になるのです。
膀胱出口周辺の平滑筋は、膀胱括約筋と膀胱三角部なのです。これら平滑筋は尿意のセンサーでもあります。膀胱に尿(オシッコ)が十分に溜まると、その圧力が膀胱出口周辺の平滑筋を刺激するので、尿意が生じてオシッコをするようになるのです。ところが、排尿機能障害によって、膀胱出口周辺の平滑筋が予想以上に敏感になると、わずかな尿の圧力で尿意を感じてしまうのです。
脊髄神経回路を介して、尿の圧力情報が脳中枢に伝達されます。脳中枢は、情報の回数を蓄積します。時間の経過とともに情報はかなりたまります。仮に例えば、3時間で20パルスの情報が脳中枢に伝達するとします。(イメージで言うと、トン・トン・トン・・・と3時間です。)一定のライン(閾値)を超え、20パルスが溜まると「尿意」を感じます。個人差がありますが、200〜300mlです。さらに時間が経過すると次のライン(閾値)を超え、50パルスが溜まると「尿意切迫感」として感じます。400〜500mlです。膀胱に尿が溜まると、膀胱内の圧力が高まるので、3時間かけて20パルスで尿意を感じてから、さらに2時間ほどで、30パルスが溜まります。結果、20+30=50パルスになるのです。すぐにオシッコに行くのです。これが基本的な生理反応なのです。
ところが、排尿機能障害のために膀胱出口周辺の平滑筋が過剰に敏感であると、膀胱内の水圧(尿圧)に関係なく情報パルスが短時間で脳中枢に伝達されるのです。当然ですが、脳中枢の情報の蓄積速度も速くなります。例えば、1時間で20パルスの速さです。(イメージで言うと、トトトトトト・・・)そのため、短時間20パルスの情報刺激で尿意を感じます。膀胱内のオシツコの量は少ないけれど、平滑筋が敏感なので、さらに短時間で情報パルスが等比級数的に増加するのです。短時間で正常と同じ20パルス回数になるので尿意を感じるのです。さらに短時間で30パルスの追加があり尿意切迫感も感じるのです。これが過活動膀胱の裏の仕組みなのです。この状況が繰り返し起きると、生体内は無駄な時間やルートを省こうとします。それが、いわゆる条件反射です。この条件反射によって、初めの尿意と尿意切迫感が近接し、さらに時間が経過すると、尿意切迫感と排尿近接して、結果、切迫性尿失禁になるのです。
❶【初めの尿意→我慢→尿意切迫感→我慢→排尿】(1枚目のイラスト)というルートを省略して、
❷【初めの尿意→尿意切迫感→我慢→排尿】次第に、
❸【初めの尿意≒尿意切迫感→我慢→排尿】(2枚目のイラスト)そして最後に、条件反射が完成されて、
❹【初めの尿意=尿意切迫感→排尿】すなわち、切迫性尿失禁になるのです。
治療としては、尿意情報の速度を抑えるために、β作動薬(ベタニス・べオーバ)や抗コリン剤(ベシケア・トビエース)を使用するのです。これだけで、症状が軽快する患者さんもおられます。しかし、膀胱出口周辺の平滑筋が過敏になった原因である排尿機能障害を治療しなければ、難治性過活動膀胱になってしまうのです。
これまでの解説は、全て私のオリジナルです。教科書的な内容ではありません。教科書的な解説では、過活動膀胱を完璧に理解出来ないので、私の想像力で、矛盾のない整合性を得られました。膀胱の情報は常に神経で伝達されます。その神経情報が、私たちのようにスマフォで話しているとは思えません。また、症状が激しいから、神経のエネルギーが倍以上に強くなったとも思えません。生命エネルギーですから、常に一定(フォメオスターシス)の筈です。そう考えると、一定のエネルギーで情報を伝達するためには、単位時間当たりのパルスの数で表現するしかないでしょう。脳中枢は単位時間当たりのパルスの数で判断するように、おそらく作られているのでしょう。
皆さん、いかがですか?切迫性尿失禁について、素人でも理解できたでしょう?単なる膀胱の過敏さだけが、過活動膀胱→切迫性尿失禁を作っている訳ではないのです。生命の幾重にも重なる複雑なシステムが病気を作っているのです。ひとつひとつの症状・現象を正確に考察すれば、複雑な現象も理解出来るようになります。
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