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平滑筋の秘密

膀胱炎や慢性前立腺炎患者さんの頻尿や残尿感などの知覚異常の症状が、平滑筋に作用する抗コリン剤やβ3刺激剤で緩和することに疑問を感じませんか?知覚異常に対して平滑筋という筋肉をゆるめるクスリです。

一般的に人体には知覚神経の末端に特有な形状のセンサーがあります。痛みセンサー、圧力センサー、熱センサー、冷感センサー、触覚センサーなど本当にいろいろです。しかし、……しかしです、膀胱には尿意を感じるセンサーが発現されていないのです。センサーがないのに、何故、尿意を感じることができるのでしょうか?
泌尿器科学会で超有名な専門医たちは、そこに「C線維」という裸の神経線維があり、そこに膀胱粘膜から放出された化学伝達物質が、C線維という裸の神経を刺激して「尿意」を感じると説明しています。……裸の神経?そのような神経は、自律神経の末端だけです。体性神経なのにセンサーなしで、裸はおかしいだろう!膀胱だけが、センサーがなく、こんな原始的な形状とは、その考え方に絶対に無理があります。電話機がないのに、電話線に向かったしゃべると情報が伝わるというマンガの様なお話しです。

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組織学的に平滑筋は、無数にある細胞の一つ一つがつながっているのです。1つの細胞の意識➡︎無数の細胞の意識と同じなのです。それが細胞間結合(電気結合・ギャップ結合)です。その無数にある平滑筋の一部に自律神経が付着しています。自律神経からの情報・命令を一部の平滑筋が受け取ると、その情報を細胞間結合を介して、次々に無数の平滑筋に伝達します。つまり、平滑筋は動力装置としての働きの他に、伝達装置としても働くのです。

Semi2016sensorこの形状を見ていると、何かに見えませんか?……そうなんです、……知覚神経とセンサーの組合せです。実は、平滑筋そのものが「センサー」なのです。ですから、膀胱の平滑筋が緊張すると、尿意が強くなり、平滑筋が緩むと尿意がなくなるのです。教科書的な知識だけが全てだと思っている、貧弱な発想の専門医師が原因です。抗コリン剤やβ3作用剤が尿意を抑える作用があるのは、平滑筋の緊張を低下させてくれるからです。つまり、抗コリン剤とβ3作用剤の2つは、どちらもセンサーに直接作用するのです。同じ意味で、ユリーフ・ハルナール・フリバスなどのα1-ブロッカーも、平滑筋の緊張を低下させるので、頻尿・残尿感を軽快させることになります。

以上のように排尿障害し続くと、何故に頻尿・残尿感・尿意切迫感などの症状が発現するのでしようか?実は、膀胱三角部の括約筋は、圧力センサーでもあるのです。通常は蓄尿で膀胱内圧が高まると、その圧力が膀胱三角部の圧力センサーを刺激して尿意を感じるのです。ところが、膀胱三角部が肥厚したために膀胱三角部の組織密度が高まり、膀胱内圧の反応閾値に関係なく、圧力センサーが過剰に反応してしまうのです。

治療としては、膀胱括約筋の緊張を緩めて上げれば良いのです。そのために、ユリーフ・ハルナール・フリバスなどのα1-ブロッカーの処方です。ご婦人の場合は、エブランチルしか処方できません。
次に膀胱三角部に特異的に作用するベタニスなどのβ3刺激剤が有効になります。
また、膀胱内圧を下げることで、膀胱三角部の圧力センサーを二次的に刺激しないように、輪状筋の過敏性収縮を抑えることです。そのために、ベシケア・ステーブラ・トビエースなどの抗コリン剤が必要になります。
一般的に、抗コリン剤で膀胱収縮力が低下するというデータはありませんから、縦走筋には抗コリン剤の作用するムスカリン受容体は、おそらく分布が少ないのでしょう。ですから、膀胱内側の薄い輪状筋だけに抗コリン剤が作用するのです。

ところが、抗コリン剤にもβ3作用剤のも「副作用」として排尿障害が起こることがあります。抗コリン剤では服用した患者さんのうち5%未満程度、β3作用剤の場合は1%未満程度でしょう。これには、理由があります。
本来は、膀胱内側の輪状筋だけにあるはずのムスカリン受容体が、膀胱外側の縦走筋にまで及ぶ人がいるのです。同じくβ3受容体も縦走筋にまで及ぶ人がいるのです。そのため、排尿時に膀胱出口を開こうとする縦走筋が収縮できなくなってしまうからです。

縦走筋のムスカリン受容体やβ3受容体の分布が少なければ、副作用が出る確率は低いです。前立腺肥大症が大きく成長して、排尿時に縦走筋の負担が大きいと、縦走筋はとても疲弊します。そのため、受容体の分布がわずかであっても収縮しにくくなるので、排尿障害が顕著に出ます。

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過活動膀胱OABの診療ガイドライン

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日本泌尿器科学の作成した過活動膀胱のガイドラインについて問題点を解説しましょう。
先ずは、一般医のためのアルゴリズムです。



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原因不明の「過活動膀胱」
⬇︎➡︎細菌➡︎膀胱炎➡︎抗生剤治療➡︎治らない‼︎
⬇︎⬅︎抗コリン剤+β3作用剤
治らない‼︎
⬇︎
専門医へ
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問診と尿検査で感染症を否定すれば、それが過活動膀胱と診断されます。
抗コリン剤やβ3作用剤で容易に治らない患者さんを専門医に紹介する手順です。
オーソドックスの簡単な検査とすぐ手に入る治療薬で治らない場合は、過活動膀胱の専門医に紹介されます。

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2番目のアルゴリズムは、専門医の診断・治療手順です。

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紹介の治らない「過活動膀胱」の患者さん
⬇︎➡︎神経疾患➡︎神経の治療➡︎後遺症➡︎治らない‼︎
⬇︎➡︎前立腺肥大症➡︎肥大症の治療➡︎歳のせい➡︎治らない‼︎
精密検査
⬇︎……➡︎行動療法?➡︎治らない‼︎
⬇︎……➡︎神経作動薬➡︎治らない‼︎
⬇︎……➡︎電気治療➡︎治らない‼︎
⬇︎……➡︎磁気治療➡︎治らない‼︎
⬇︎……➡︎ボツリヌス菌毒素➡︎治らない‼︎
膀胱摘出‼︎
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過去に神経疾患、例えば脳梗塞・脳出血・脊髄疾患などの既往があると、神経内科、整形外科、脊髄外科に紹介するので、過活動膀胱の治療はされません。前立腺肥大症があれば、その治療に専念しますが、結局は過活動膀胱の原因をつかめないまま電気治療、磁気治療、外科手術に至るのです。究極、膀胱を摘出です。過活動膀胱の患者さんから見たら、最終ゴールは膀胱全摘?という印象でしょう。

偉い先生たちが寄ってたかって決めたアルゴリズムが、この程度なのです。
ここの問題点は、ただ1つです。過活動膀胱の発症原因を突き止めていないこと。原因の根本治療せずに、只ひたすら対症療法、頻尿・尿意切迫感・切迫性尿失禁の治療に徹していることです。前立腺肥大症や膀胱炎の際にも、過活動膀胱の症状になる理由を突き止めもしないで治療することが、対症療法に過ぎません。もっと本質的に考えなければなりません。下部尿路の多くの病気の症状で、何故、頻尿・残尿感・尿意切迫感が発症するのかということです。

こんなアルゴリズム:診断治療手順は、チョッと勉強すれば、素人でも思いつくことです。プロフェッショナルな3人以上集まって「文殊の知恵」とならないのはなげかわしい!獲得した知識の奥深さを認識しないで、ただひたすらダラダラと積んでいるだけだから、医師としての責務を果たすことができないのです。

【参考資料】
過活動膀胱の診療ガイドライン

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見えてきた排尿障害の仕組み

過去にたくさんの排尿障害の仕組みを考察してきました。
検査所見の存在に対して、疑問点が常にありました。排尿障害の患者さんには、男女問わず、膀胱出口が硬く盛り上がっていました。その理由については、排尿障害のために膀胱出口が排尿時に振動するので、次第に膀胱出口が盛り上がると考えていました。でも実際に、内視鏡手術の際に膀胱出口を切開・切除すると、そこは必ず平滑筋組織です。もしも振動エネルギーで盛り上がっているのであれば、線維組織のはずです。つまり、盛り上がった膀胱出口の組織は、膀胱括約筋の二次的な姿なのです。排尿障害の患者さんの膀胱括約筋は、必ずマッチョなのです。

マッチョになるためには、振動エネルギーではなく、筋トレによるものだと考えられます。筋トレ?……膀胱括約筋の筋トレ相手は、排尿時に収縮する膀胱出口周囲の縦走筋です。つまり何らかの理由で、排尿時に膀胱括約筋が柔らかく弛緩しないので、縦走筋に引っ張られる際に鍛えられたのでしょう。

そう考えると、α1-ブロッカーであるユリーフやハルナールなどの即効性の理由が理解できます。α1-ブロッカーは、前立腺や尿道の緊張を緩めるのではなく、膀胱括約筋=内尿道括約筋の緊張を緩めるので、膀胱出口が開きやすくなるのです。
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膀胱の構造は、大きく分けて膀胱体部、膀胱三角部、膀胱出口(膀胱頸部)に分けられます。筋肉の観点から見ると、膀胱体部は二層構造で、内側が輪状筋、外側が縦走筋です。輪状筋は、膀胱の横方向の直径を小さくするように収縮させます。縦走筋は膀胱の外側に存在し、膀胱の天辺の部分が膀胱出口に向かうように収縮させます。この2つの筋肉の働きで、膀胱は膨らんだり縮んだりするのです。膀胱出口は複雑で、膀胱出口ギリギリまで輪状筋と縦走筋が到達し、その内側に膀胱括約筋=内尿道括約筋が位置します。先ほど説明したように、排尿障害のある人は、膀胱出口周囲の膀胱括約筋が発達・肥厚しています。これは、縦走筋と膀胱括約筋の排尿時の動きがシンクロせずに、逆にバランスが悪く、縦走筋が収縮する時に膀胱括約筋が緩まないで対抗している証拠です。

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この画像は、3Dエコー検査で観察した膀胱出口の所見です。
見て分かるように、膀胱出口を中心とした同心円状ではありません。
これを分かりやすく説明したのが、次のイラストです。


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イラストで見えるように、輪状筋は、膀胱三角部を挟んでブーメランの様な形をしています。
何故この様な形状をしているかは、それなりの理由があります。
発生段階で、尿管の原基を囲むように輪状筋が発達したからです。そして、尿管の原基から膀胱三角部が形成したのです。

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3Dエコー画像を元に、下部尿路の基本的構造を左のイラスト側面像で示しました。
膀胱出口周囲に存在する赤い部分が、どちらも膀胱括約筋です。
前の部分が膀胱出口前面で、後ろの部分が膀胱三角部に当たります。
膀胱内側の肌色の部分が輪状筋で、外側の空色の部分が縦走筋です。

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健常であれば、右のイラストで示すように排尿時に、前後の膀胱括約筋が先ず緩みます。
そして縦方向に収縮した縦走筋の意のままに膀胱出口は開き、オシッコがスムーズに出るのです。
一連の動作は自律神経によってコントロールされており、人の意識は息むだけです。
この排尿に関わるいくつかのステップに支障が出ると、排尿障害になるのです。

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排尿障害の患者さんは、どう言う訳か膀胱三角部も含め、排尿時に弛緩しないでギューっと収縮します。縦走筋が収縮して膀胱出口を開こうとしても十分に開かないのです。
この経過が長期間に渡ると、膀胱括約筋が縦走筋と筋トレしていることになり、イラストのように次第にマッチョになります。排尿障害の患者さんをエコー検査で観察すると、膀胱出口前部の膀胱括約筋と膀胱三角部の膀胱括約筋が厚くなり、膀胱側に突出しています。

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この膀胱括約筋の肥厚は、イラストで表現したように、まるで膀胱出口を鍵でロックした状態になるのです。
この状態が何十年も続けば、縦走筋や輪状筋は疲れ果てて、男女関係なく神経因性膀胱と診断されます。排尿時の圧力が前立腺を刺激して、前立腺肥大症になります。膀胱三角部が突出すると、中葉肥大型と判断される形状です。
排尿障害の患者さんの内視鏡手術の際には、この固くなった膀胱括約筋の切開・切除が重要になります。ところが、前立腺肥大症だと、「肥大症」とい言葉に翻弄されて前立腺しか手術しないので、手術後も排尿障害が続くのです。

以上のように排尿障害し続くと、何故に頻尿・残尿感・尿意切迫感などの症状が発現するのでしようか?実は、膀胱三角部の括約筋は、圧力センサーでもあるのです。通常は蓄尿で膀胱内圧が高まると、その圧力が膀胱三角部の圧力センサーを刺激して尿意を感じるのです。ところが、膀胱三角部が肥厚したために膀胱三角部の組織密度が高まり、膀胱内圧の反応閾値に関係なく、圧力センサーが過剰に反応してしまうのです。

治療としては、膀胱括約筋の緊張を緩めて上げれば良いのです。そのために、ユリーフ・ハルナール・フリバスなどのα1-ブロッカーの処方です。ご婦人の場合は、エブランチルしか処方できません。
次に膀胱三角部に特異的に作用するベタニスなどのβ3刺激剤が有効になります。
また、膀胱内圧を下げることで、膀胱三角部の圧力センサーを二次的に刺激しないように、輪状筋の過敏性収縮を抑えることです。そのために、ベシケア・ステーブラ・トビエースなどの抗コリン剤が必要になります。
一般的に抗コリン剤で膀胱収縮力が低下するというデータはありませんから、縦走筋には抗コリン剤の作用するムスカリン受容体は、おそらく分布が少ないのでしょう。ですから、膀胱内側の薄い輪状筋だけに抗コリン剤が作用するのです。

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血尿で困惑したご老人

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92歳のご高齢の男性が、血尿でご家族と一緒に来院されました。
前立腺の出血か腎臓からの出血かと私は思いました。 尿検査で確認すると、尿の全てが真っ赤です。
前立腺の出血は、出始めの尿だけです。腎臓からの出血は、出始めから最後まで血尿です。膀胱からの出血は、そのどちらかです。
そこで、エコー検査をすると、排除障害があるようで、残尿が200ml以上も残っていました。すると、前立腺のすぐ後ろの膀胱に直径2センチ程のイビツな陰影が確認できました。

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側面、正面の2枚の写真に赤い影が見えますね。これは、ドップラーエコーで血流を確認したところ、イビツ陰影の中心に動脈血流が確認できたのです。間違いなく膀胱腫瘍(膀胱ガン)です。
90歳超えで、いろいろな病気をたくさんお持ちなので、地元の医科大学病院にご紹介しました。
大学病院の内視鏡検査の結果も、やはり膀胱腫瘍でした。治療をどうするかを現在検討中だそうです。

今回の膀胱腫瘍は、直径2センチくらいの大きいものでしたが、エコー検査で判別できるのは、5ミリ(0.5センチ)くらいまで確認できます。膀胱には、同じように炎症性ポリープも観察することもありますが、その場合、ドップラーエコー検査で血流を確認できれば膀胱腫瘍、確認できなければ炎症性ポリープと判定します。


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