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尿失禁と骨盤底筋体操

咳やクシャミなどで、オシッコが漏れるのを腹圧性尿失禁と言います。
前立腺肥大症の男性と比べて、女性患者さんの方が、はるかに多いのです。その理由は、一般的に何回も出産したからと言われていますが、出産経験のない患者さんもおられます。それから考えると、出産の有無は無関係です。

どうして、ご婦人に腹圧性尿失禁が多いのかを考えてみましょう。
イラストは、ご婦人の排尿の仕組みを分かりやすく描きました。
膀胱出口が開くためには、膀胱括約筋と尿道括約筋の両者が協調しなければなりません。膀胱括約筋は、膀胱出口を前後左右(平面方向)に開いてくれます。尿道括約筋は、膀胱出口を下の方向(縦方向)に引っ張ります。その2つの力学的ベクトルで膀胱出口は、ロート状(円錐状)に開くのです。
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ところが、膀胱括約筋は、内臓の筋肉=平滑筋で出来ており、尿道括約筋は、骨格筋=横紋筋で出来ています。その力は、尿道括約筋>>>>>膀胱括約筋です。更年期を過ぎた頃には、弱者である膀胱括約筋は疲れ切って、膀胱出口を十分に開けなくなり、膀胱出口が尿道括約筋に強く引っ張られてしまいます。その結果、膀胱出口が尿道側に「お辞儀」するように狭くなるのです。

「息んでリキんで」オシッコをする習慣のあるご婦人は、この現象が隠れていて尿失禁が生じやすくなります。その理由は、
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①腹圧をかけてオシッコするため、強力な腹圧のために膀胱を固定している靭帯や筋膜がゆるみます。尿道括約筋は外側に引っ張る方向にあったのが、尿道括約筋の位置が下にズレたため、内側に引っ張る方向になるのです。この状態は尿道括約筋が閉まらなくなります。
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②膀胱括約筋が、力んだ尿道括約筋に負けて、膀胱出口の本来の境界線の位置が、尿道側に下降し、二次的な膀胱出口ができてしまいます❶。本来の膀胱出口と尿道括約筋は十分に距離❷がありますが、二次的膀胱出口と尿道括約筋の距離❸は極端に短くなります。この状態にあると、尿道括約筋に膀胱内圧が直接作用するので、尿道括約筋は容易に開いてしまいます。

①+②の2つの理由で、腹圧や咳などで膀胱内圧が急激に高まると、尿道括約筋が簡単にゆるみ、尿失禁になるのです。オシッコが漏れてしまう腹圧性尿失禁の患者さんは、本質的には長年の間、オシッコが出にくいヒトなのです。結局のところ、オシッコが出にくいから、オシッコが漏れるように身体が変身したと言うのが真実です。腹圧をかけて息めば息むほど、膀胱出口の境界線は、次第に尿道括約筋に近接するのです。

さて、腹圧性尿失禁の対策として、骨盤底筋体操があります。体操することで尿道括約筋の緊張が高まり、尿道括約筋の走行が、内側の方向→平行あるいは外側の方向へ向かうので、尿道括約筋が締まりやすくなり尿失禁が減少するのです。
ただし、尿道括約筋の位置が下方に位置していない時期に体操で骨盤底筋である尿道括約筋を鍛えると、膀胱括約筋と尿道括約筋の力の差がますます増えます。その結果、排尿ごとに膀胱出口が強く引っ張られるので、逆に尿失禁しやすくなるかもしれません。男性のように硬い前立腺が、尿失禁を防がないので、ご婦人の場合は尿失禁が多くなるのです。
ご婦人が尿失禁を作らないためには、この隠れた排尿障害を早期に発見して、αブロッカーを服用させるべきです。隠れた排尿障害の症状としては、頻尿、冷え性などがある筈です。

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