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膀胱とと直腸は双子の兄弟

以前にも、膀胱の発生学的構造について解説しました。

前回、解説に使用したイラストは、発生学専門書から引用したものでした。医師や医学生であれば、容易に理解できる内容でしたが、今回は私がイラストを作り直しました。母体中の胎児の発達状況は、とてもダイナミックなものです。
Sohaisetu1
まずは、胎児の4週の時点で、膀胱の基礎が出来上がります。
それが、「総排泄腔」です。その形はとてもシンプルです。
総排泄腔の前に「へその緒」が繋がっています。
総排泄腔の前後の真ん中辺りにクビレが生じます。
これを「尿直腸中隔」と呼びます。イラストでは「中隔」と示しています。

Sohaisetu2
胎児の6週に成ると中隔というクビレがドンドン深くなっていきます。
深くなるに連れ、総排泄腔の前は膀胱に、背後は直腸になろうと変形します。
つまり、膀胱と直腸は、発生の途中では同じ臓器だったのです。
ですから、出産後に成長して成人になれば、別の臓器と思われますが、神経的には脊髄神経で繋がっている方もおられます。その証拠に、膀胱炎になると便意を催すヒトもいれば、下痢すると頻尿になるヒトも存在します。

Sohaisetu3
胎児の7週に成ると、尿直腸中隔は完成して膀胱と直腸は完全に分離独立します。
膀胱の末端は、体壁皮膚の外側まで通過して「尿道」になります。
胎児の11週には男性の場合は、この尿道から芽が出て、それが「前立腺」になります。
背後の直腸は、大腸(S字結腸)の末端と接続して、大腸は直腸まで連続します。

Sohaisetu
総排泄腔外反症という先天性の病気があります。
この病気は、総排泄腔が胎児の成長過程で分化せずに、膀胱と直腸が分離しなかったために起きる現象です。次回のブログで詳細を掲載します。

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針生検で発見できなかった前立腺ガンの患者さん

患者さんは50代の男性です。
平成29年11月にPSA値が26(正常値4.0)と高く、地元のがんセンターで前立腺針生検(10本)を実施したのですが、ガン細胞が発見されませんでした。その後の主治医対応に納得がいかないので、高橋クリニックに訪問されました。
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初診時の触診では、前立腺がとても大きく、前立腺全体が前立腺肥大症!の雰囲気です。
しかし、前立腺の奥の右上部(膀胱寄り、精嚢腺側)に前立腺肥大症よりも若干堅い硬結が触れます。前立腺ガンと思われます。
私の人差し指がギリギリ届く範囲の距離です。
自分の指の長さが短いと思った時が、自分の診断能力の限界を感じる瞬間です。

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そこで、エコー検査で観察すると、前立腺は114cc(正常値20cc)と5倍以上の大きな前立腺肥大症でした。さらに丁寧に観察すると、前立腺の膀胱よりの精嚢腺手前にガンと思われる陰影が確認できました。この写真の赤い矢印の部分がガン組織です。
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恐らく、前の主治医が事前に十分に下調べもせずに、PSAの値だけで大雑把に針生検した結果だったのでしょう。前立腺肥大症であれば、前立腺針生検の本数を増やさなければ、発見の確率は低くなります。前立腺20㏄で10本ならば針1本当たりの単位体積は2.0㏄ですが、前立腺114㏄だと1本当たり11.4㏄になってしまいます。同じ単位体積にするには、57本もの針生検をしなければ一致しません。しかし、現実的には無理です。なぜなら、本数を重ねる毎に前立腺がグチャグチャになってしまうからです。
この患者さんのガン発見のためには、エコー所見を参考に、イラストのように針を5センチ程先に刺入させ、その場所からパンチ刺入すればガン組織を採取できるでしょう。

エコー所見では、陰影が丸味のある形状をしていますから、悪性度は低いものと思われます。先ずはプロスタールを処方しました。前立腺肥大症が小さくなると同時にガン組織も小さくなるでしょう。

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