前立腺ガンの死亡者数増加の理由
このグラフは何回も提示しています。前立腺ガン患者さんの発見数(罹患数)と死亡数の推移です。
発見数と死亡数の乖離現象が問題になっています。発見数の増加の伸びに比較して、死亡数の増加はわずかにしか見えません。実は、ここに問題が隠れているのです。
このグラフは、国立がん研究センターの情報データを元に私が作成したグラフです。前立腺ガンの死亡者数の推移だけをグラフにしてみました。
初めのグラフの印象と随分と違うでしょう?1990年位から急激に増加しているのが分かります。
1960年には480人だった前立腺ガン死亡者数が、2016年には11803人にもなっています。実に24.6倍にも増加したのです。
1960年から1980年までの増加率の角度と、1980年から1990年までの角度と、1990年以降の角度とだんだん急な角度になっています。これを理解するには、時代背景を調べると判明します。
まずは、1980年頃から、前立腺腫瘍マーカーのPAP検査が泌尿器科医の世界では一般的になりました。前立腺肥大症の患者さんについでに検査して、高ければ針生検を行ったのでしょう。
1990年頃から、アメリカで開発されてPSA検査が普及して、泌尿器科医のみならず一般内科医にも広まったのです。当然、針生検の件数は増えます。
1993年に排尿障害の治療薬として画期的な薬ハルナールが発売されました。それまでの前立腺肥大症の治療薬に比べ物にならない程速効性のある薬です。服用すれば数日で効果が出るので、それまで処方されて来たプロスタールの売上げがガクッと落ちました。プロスタールは、効果が出るまで長期間かかりました。当時、前立腺肥大症の大きさは触診のみでした。触診のみでは、前立腺の大きさがどのように変化したかは不明瞭でした。現在は、エコー検査で前立腺の大きさが、逐一確認できるようになりました。今現在、プロスタールの効果が実感できるようになりました。プロスタールを開始して、半年間で前立腺の大きさが、何と1/2〜1/3までになる患者さんがいるのです。そういう患者さんの前立腺を触診所見では大きさが変化していないこともあります。
2002年頃から、泌尿器科学会が前立腺ガン撲滅キャンペーンを始め、さらに呼応するかのように行政検診・人間ドック・会社健診でPSA検査が導入され、一気に針生検の件数が増えたのです。
まとめると、医師が良かれと思って企画・政策したPSA検診によって、針生検の急増をバックに前立腺ガンの死亡者の数が増えたように思えてなりません。
プロスタールの処方は、ある程度、前立腺ガンを抑えてくれていたのです。
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