幻臭症、尿臭に悩む若者
遠方から、お母さんと一緒に若い男性が来院しました。
3か月前に突然尿漏れと頻尿(1日16回)が発症しました。その後、症状は軽快しましたが、その代わりに、今の悩む症状が出現したのです。
排尿後、しばらくしてから、自分の尿臭を強く自覚し、気になって授業に出れなくなりました。そのため、現在、保健室登校していました。地元の医師を受診しましたが、特に異常を認めませんでした。
超音波エコー検査の所見です。
❶赤い矢印で示す部分が、前立腺周囲の静脈瘤です。排尿障害を示唆する所見。
❷青い矢印は膀胱括約筋の方向を示す。本来は黄色の矢印に向かっていなければならないのに、尿道括約筋の方向に向かっている。これも排尿障害を示唆する所見。
❸その結果、膀胱三角部が厚くなる。その結果、頻尿になる。
しかし、現在は、1日5回と頻尿は消失しています。超音波エコー検査所見と矛盾します。つまり、出現すべき頻尿症状が出なくなり、その代りに頻尿情報が、脳中枢の臭い中枢を刺激したために、自分が尿臭がするようになったのです。いわゆる「幻臭」です。幻臭は鼻の嗅神経で感じているのではなく、中枢そのもので感じているので、臭いが消えないのです。
そこで、排尿障害の治療薬であるエブランチル(αブロッカー)と頻尿治療薬であるベタニス(β刺激剤)を処方しました。そして、水分摂取を控えるように指導しました。
1ヶ月経過して、保健室(まだ保健室?)からお母さんと患者さん本人2人から電話がありました。それまで毎日保健室登校だったのですが、現在は授業に短時間ではありますが授業に出席出来るようになりました。感じている尿臭も50%になったそうです。今後も、お薬を続けるように指導しました。また、幻臭の原因が排尿障害だという事を実感してもらいました。
その後、再度電話連絡がありました。尿臭は完全に消失したが、今度は下腹部の痛みと尿漏れ感覚が出てきたと言うのです。治療していくうちに、症状は変化します。それを症状の変遷と言います。そのまま治療を続けると、次第に様々な症状が軽快するとお答えしました。
尿意感覚➡︎尿臭感覚への転換理由がある筈です。私は以前から脳の海馬に興味を持っていました。海馬は脳内のインターネットのような存在です。
【膀胱三角部➡︎脊髄➡︎海馬➡︎尿意中枢】が本来のルートなのですが、脊髄に流れて来る情報が多過ぎて、恐らくは海馬が混乱したのでしょう。その結果、
【膀胱三角部➡︎脊髄➡︎海馬➡︎嗅覚中枢】のルートが形成されたのでしょう。
この海馬の混乱を修正する治療法が、将来発見できることを希望します。
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