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PSA値が高いまま無事に6年間

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平成23年10月に来院した73歳の男性患者さんです。
PSA値が8.4と高く、虎の門病院で前立腺針生検を勧められましたが拒否して、当院に来院しました。
前立腺触診や超音波エコー検査では、前立腺癌とおぼしき所見は全くないので、定期的に検査することにしました。
平成24年、25年、26年、28年、29年の今年10月にチェックしました。現在79歳です。その間、PSA値が9.0を超える時もありましたが、前立腺癌の所見はまったく確認できませんでした。
写真は、一番最近の超音波エコー検査所見です。前立腺肥大症と排尿障害の証拠は認められますが、前立腺癌の陰影は認められません。触診も異常ありませんでした。
PSA値が高いと言われて針生検を勧められも、6年経過しています。前立腺癌の予後は、まずは5年ですから、この観点からも、この患者さんには前立腺癌が無いかラテント癌と考えて良いでしょう。
これからも毎年1回のペースで定期的検査で過ごせるでしょうね。

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幻臭症、尿臭に悩む若者

遠方から、お母さんと一緒に若い男性が来院しました。
3か月前に突然尿漏れと頻尿(1日16回)が発症しました。その後、症状は軽快しましたが、その代わりに、今の悩む症状が出現したのです。
排尿後、しばらくしてから、自分の尿臭を強く自覚し、気になって授業に出れなくなりました。そのため、現在、保健室登校していました。地元の医師を受診しましたが、特に異常を認めませんでした。

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超音波エコー検査の所見です。
❶赤い矢印で示す部分が、前立腺周囲の静脈瘤です。排尿障害を示唆する所見。
❷青い矢印は膀胱括約筋の方向を示す。本来は黄色の矢印に向かっていなければならないのに、尿道括約筋の方向に向かっている。これも排尿障害を示唆する所見。
❸その結果、膀胱三角部が厚くなる。その結果、頻尿になる。

しかし、現在は、1日5回と頻尿は消失しています。超音波エコー検査所見と矛盾します。つまり、出現すべき頻尿症状が出なくなり、その代りに頻尿情報が、脳中枢の臭い中枢を刺激したために、自分が尿臭がするようになったのです。いわゆる「幻臭」です。幻臭は鼻の嗅神経で感じているのではなく、中枢そのもので感じているので、臭いが消えないのです。

そこで、排尿障害の治療薬であるエブランチル(αブロッカー)と頻尿治療薬であるベタニス(β刺激剤)を処方しました。そして、水分摂取を控えるように指導しました。
1ヶ月経過して、保健室(まだ保健室?)からお母さんと患者さん本人2人から電話がありました。それまで毎日保健室登校だったのですが、現在は授業に短時間ではありますが授業に出席出来るようになりました。感じている尿臭も50%になったそうです。今後も、お薬を続けるように指導しました。また、幻臭の原因が排尿障害だという事を実感してもらいました。
その後、再度電話連絡がありました。尿臭は完全に消失したが、今度は下腹部の痛みと尿漏れ感覚が出てきたと言うのです。治療していくうちに、症状は変化します。それを症状の変遷と言います。そのまま治療を続けると、次第に様々な症状が軽快するとお答えしました。

6950618da61e4ce1b3ad5ac9e9ae1f6c尿意感覚➡︎尿臭感覚への転換理由がある筈です。私は以前から脳の海馬に興味を持っていました。海馬は脳内のインターネットのような存在です。
【膀胱三角部➡︎脊髄➡︎海馬➡︎尿意中枢】が本来のルートなのですが、脊髄に流れて来る情報が多過ぎて、恐らくは海馬が混乱したのでしょう。その結果、
【膀胱三角部➡︎脊髄➡︎海馬➡︎嗅覚中枢】のルートが形成されたのでしょう。
この海馬の混乱を修正する治療法が、将来発見できることを希望します。

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過剰診療(過ぎたるは及ばざるが如し診療)

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PSA値が高くなると、医師から前立腺針生検を勧められる患者さんがとても多くなりました。多くの患者さんを拝見すると、前立腺針生検には、実はメリット、デメリットがあることが分かります。
このグラフを使って解説しましょう。

【メリット】
前立腺針生検により、癌細胞の組織象(=悪性度)が判別できます。上のグラフは、癌組織の悪性度別の予後(生存率)を表したものです。
5年生存率で比較すると、高分化(正常の前立腺細胞に近い顔をした良性型)が95%に対して、低分化(正常の前立腺細胞とほど遠い顔をした悪性型)が30%と、かなり生存率が低くなっているのです。したがって、悪性度の高い癌組織を早期に発見して、積極的に治療しなければならないと、普通に考えたら分かりますよね。……でも、ここに盲点があるのです。

【デメリット】
上のグラフをよ~く観察してみると、低分化(悪性型)のあまりにも急激な生存率の低下(=死亡率の上昇)は、不自然に思えませんか?
その疑問を解くために、このグラフ使って解説します。
各悪性度の死亡数を合計し、死亡率を計算すると、38.5%の前立腺癌の患者さんが5年でお亡くなりになっています。
①高分化(良性型)5年:161人×5%=8人、10年:161人×15%=24人
②中文化(中等度悪性型)5年:550人×30%=165人、10年:550人×50%=275人
③低分化(悪性型)5年:320人×70%=224人、10年:320人×80%=256人
④5年死亡数合計397人、5年間死亡率397人÷1031人=38.5%
⑤10年死亡数合計555人、10年間死亡率555人÷1031人=53.8%

ところが、厚生労働省発表の2015年統計の前立腺癌では、
罹患数: 93,400人
死亡数: 12,200人です。
単純計算で、前立腺癌患者さんのうち13%(12,200人÷93,400人)の人が前立腺癌で亡くなられています。
ここで、疑問が出てきます。上記のグラフから割出した死亡率38.5%と、日本全体で割出した実際の死亡率13%の数字のギャップの原因は何なのでしょうか?

上のグラフの高分化(良性型)が少な過ぎるのです。実際には、高分化の患者さんは、最と多く存在する筈です。
つまり、全国レベルで考えると、予後の良好の高分化の前立腺癌を必要以上に発見しているという事です。前立腺癌と一度診断されると、患者さんは、前立腺癌で亡くなることはないのですが、何十年も精神的トラウマになるのです。患者さんを救うはずの医師が、患者さんを不幸にするとは、何という事でしょう!
前立腺癌の組織を確認し確定診断するのは、泌尿器科医として常識です。医師が病理組織を観察したいという気持ちの結果です。しかし、前立腺癌を発見しようとする余りに、過剰診断・過剰治療(過ぎたるは及ばざるが如し診断・診療)が問題になっていますが、場合によっては、命に危険を伴う診断と治療になる可能性があります。

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最近、話題になっているが、アオリ運転による交通事故や交通トラブルです。大人しい人間が、ひとたび車運転をすると、横柄で横暴な気の短い人間に変身して交通トラブルを起こすのです。
長い年月、人の前立腺の中に潜んでいた癌細胞を針生検により刺激して、突然として横柄で横暴な気の短い前立腺癌に変身するのかもしれません。

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オシッコの出し方

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頻尿や残尿感で苦しんでいる人には、共通点があります。
右の解剖イラストは、骨盤底筋を下から眺めた所見です。このイラストは男性のものですが、女性もほぼ同じです。
正常であれば、排尿の際に前の部分の丸い穴が開きます。しかし、排尿障害のある人は、前の穴部分が閉じながら排尿するのです。当然、力を入れている膀胱に物理的負担がかかります。この状態を毎日何回も排尿すれば、膀胱はだんだん疲れてきます。その結果、膀胱は過敏になり、頻尿や残尿感や過活動膀胱の症状が出現するのです。

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では、どのようにすれば、負担が軽減出来るのでしょうか?
お通じ、すなわち排便の時にイラストの後ろの穴、つまり肛門が開きます。解剖イラストで容易に理解できるように、膀胱出口と肛門が8の字に繋がっています。肛門が開くと、8の字が連動して膀胱出口も開きます。この連携プレイが、膀胱の負担を軽減してくれます。

その証拠が、排便する時にチョロチョロとオシッコが出る反応です。ですから、排尿に問題ある人は、男女無関係に座って、肛門を開くような動きをするのです。別に排便してなくてもいいんです。本気で息むのではなく、な〜んちゃっての息みやオナラをする感じです。そして、次いでにオシッコしようという感じです。イラストにように、少し前かがみで、カカトを少し上げるような姿勢を取りましょう。

過活動膀胱、間質性膀胱炎、慢性前立腺炎、前立腺肥大症の患者さんに、この方法をお勧めしています。

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