【概念と疫学】
最近よく耳にする病名に前立腺肥大症という言葉があります。
高齢者の病気だと思っておられる方がほとんどでしょう?実は若い方にも出てくる病気です。
私のクリニックでは30代後半~40代前半の方の手術をすることが時々あります。
ところが、多くの医師、内科医ばかりでなく泌尿器科医も若い方の前立腺肥大症はないと思っておられるので、排尿障害や頻尿などの症状が出現しても気のせいにしてしまい、患者さんが苦しむ事例が比較的多くあります。
近年、日本人にも前立腺肥大症になる男性が増加傾向にあります。統計予想によると、日本人男性が80歳までに80%の方が前立腺肥大症になるそうです。残りの20%は前立腺肥大症の逆で前立腺が萎縮してしまうのです。
なぜ高齢者になると、前立腺が肥大するのでしょう。これには食生活の欧米化によるところが大です。なぜ食生活の欧米化が前立腺肥大症を造るのかを説明しましょう。
戦後の復興で食生活は豊かになり、また欧米食を国も目標としてきました。事実、欧米食は旧来の日本食に比べてはるかに高カロリー・高タンパク・高コレステロールです。これら栄養素は男性ホルモンの材料です。欧米食により男性ホルモンの分泌は高齢になっても盛んです。男性ホルモン分泌が盛んであることは、性行為が高齢者になってもできるということです。
生物学的にいえば、年を取ったオスにいつまでも生殖能力があるのでは若いオスにとっては死活問題です。種の繁栄から考えれば、若いオスの生殖活動を自然界が支えなければなりません。そこで、年を取ったオスの精液を亡き者にすればよいと自然、ここではDNAがある意志を持つのです。
前立腺は前立腺液を分泌する臓器です。前立腺液は精液の3分の1を占める構成成分です。その役目は精子を保護し精子にエネルギーを与える役目をします。つまり、射精で女性の膣内に発射された精液中の精子をいつまでも生かし続けさす役目を担っているのです。前立腺液が少なくなれば体外に出された精子は生きていけなくなります。前立腺液が出ないようにするには、前立腺組織内の分泌腺を他の組織で置き換えてやればよいのです。その他の組織こそ前立腺肥大症の組織なのです。この現象は自然が作ったパイプカット、男子不妊手術と呼べる組織変化です。本来なれば年齢と共に男性ホルモンは低下し前立腺はそれと呼応するように萎縮していました。それとは逆に男性ホルモン分泌がいつまでも盛んであればあるほど、前立腺はそれと呼応するように前立腺肥大症になるのです。
下の写真は前立腺肥大症の内視鏡写真です。6時の位置にある小さな半球状のドームは精液が噴出する「性丘(せいきゅう)」呼ばれる直径3mmの尿道内の構造物です。
この性丘から膀胱に向かって覗いているシーンですが、本来ならば膀胱が見えなければなりません。
ご覧のように、前立腺肥大症によって尿道が圧迫されて膀胱を見ることができません。
上記の症例の前立腺肥大症の手術(TUR-P 経尿道的前立腺切除手術)直後の内視鏡写真です。
先ほどまで確認できなかった膀胱内腔を見ることができます。前立腺肥大症による尿道圧迫が解除されたからです。
【症状】
症状の発生原因は前立腺肥大症による尿道閉塞と膀胱刺激が主な原因です。
●オシッコが近い(尿道閉塞)
●息み時間が長い、すぐにオシッコが出ない(尿道閉塞)
●切れが悪い(尿道閉塞)
●尿が散る、便器を汚す(尿道閉塞)
●トイレに間に合わずに漏らしてしまう(膀胱刺激)
●途中で尿が止まる(尿道閉塞)
●残尿感がある(膀胱刺激)
●いつまでも尿意が残る(膀胱刺激)
●寝てから何度もトイレのために目が覚める(膀胱刺激)
●水に触れたり水の音を聞くと尿意が出る(膀胱刺激)
【検査】
●尿検査
●尿流量測定ウロフロメトリー検査
●残尿量測定検査
●内視鏡検査
●尿道造影レントゲン検査
尿検査
尿路感染を調べます。
尿流量測定ウロフロメトリー検査
下図は、正常な排尿状態の男性の検査結果です。縦軸の高さが尿の勢い(ml/秒)の良さです。横軸がオシッコにかかった時間(秒)です。
下図は前立腺肥大症の男性の排尿状態です。正常の方と比べてオシッコの勢いの悪さは一目瞭然です。
内視鏡検査
内視鏡検査で前立腺肥大症による尿道閉塞状態を実際に確認して、手術の適応を決めます。前立腺肥大症と思っていたら、前立腺癌や膀胱癌の場合があります。
下の2枚の写真は、膀胱出口から前立腺部尿道にかけての内視鏡写真です。膀胱出口は大きく丸く開いているのが正常ですが、前立腺肥大症で左右から圧迫されていて十分開いていません。
下の2枚の写真は、前立腺肥大症で圧迫された前立腺部尿道の内視鏡写真です。6時の位置に確認できる半球状のドームは「精丘(せいきゅう)」と呼ばれる精液の発射口です。正常であれば、この位置から膀胱が見えなければなりません。
下の2枚の写真は、精丘から尿道にかけての内視鏡写真です。「くびれ」は尿道括約筋が圧迫している部分です。
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