【概念と疫学】
淋菌によって感染する病気を淋病と呼びます。
淋菌(りんきん)【写真1】はナイセリア属のグラム陰性双球菌です。ナイセリア属に入る菌は全部で11種類あり、その内病原性を有するのは、この淋菌と髄膜炎菌です。 その他の9種類のナイセリア菌は全て口腔内に存在する常在菌(日本人の5~10%に常在)です。
その感染率は約30%です。1984年をピークに減少しましたが、1990年代半ばから増加しつつあります。クラミジアとの同時感染(淋病患者中20%~30%)している場合も多いと報告があります。
淋は「淋しい」という意味ではなく、雨の林の中で木々の葉からポタポタと雨がしたたり落ちるイメージを表現したものです。淋菌性尿道炎は尿道の強い炎症のために、尿道内腔が狭くなり痛みと同時に尿の勢いが低下します。その時の排尿がポタポタとしか出ないので、この表現が病名として使用されたものと思われます。
古代の人は淋菌性尿道炎の尿道から流れ出る膿を見て、陰茎の勃起なくして精液が漏れ出す病気(精液漏)として淋病をとらえ、gono=精液(semen)、rhei=流れる(flow)の意味の合成語gonorrhoeaeと命名しました。
淋菌の大きさは0.6μm~1.0μmで線毛のある型と線毛のない型に分けられます。線毛は電子顕微鏡【写真2】で確認できるが、光学顕微鏡では確認できないほど極細の構造です。生きている淋菌は、この線毛を活発に動かし粘膜上皮に付着、粘膜下に浸入するものと思われる。患者さんから採取した淋菌を血液寒天培地で培養すると、この線毛は消失します。病原性にはこの線毛が重要な鍵を握っていると考えられます。
淋菌は人とチンパンジーだけに感染し、白人は蒙古人(日本人も含む)よりも淋菌に対して感受性が高く、B血液型と関係するといわれています。
近年、淋菌の抗生剤耐性菌が増え、新しい抗生剤や抗菌剤に対しても短期間に耐性を獲得します。その理由として、首都圏でのオーラルセックスを主体とした風俗サービス(ファッションマッサージ・ピンサロ・キャバレーなど)が原因と思われています。
無害のほとんどのナイセリア菌は口腔内・咽頭内で常在菌として存在しています。これらナイセリア菌は、宿主の人が気管支炎や風邪などの感染症に罹患する毎に、医師から処方される抗生剤の被爆チャンスを頻回に受けます。その結果、様々な抗生剤に対して耐性を獲得し、オーラルセックスで浸入した淋菌は、親戚である口腔内のナイセリア菌と遺伝子組み換え(交差現象)を行い、容易に抗生剤耐性を獲得すると考えられます。
【写真1】淋菌・位相差顕微鏡像この写真は、淋菌性尿道炎の男性患者さんから膿を採取して、位相差顕微鏡で観察・撮影したものです。黒い細かいゴマのような粒は全て淋菌で、輪郭が白く光っているのは淋菌を一生懸命に食べている白血球の姿です。

【写真2】電子顕微鏡で観察した淋菌です。病原性の原因と思われる線毛を確認することができます。

【症状】
男性は尿道炎の症状で女性は膣炎の症状になります。
●尿道の膿(うみ)
●排尿痛
●亀頭包皮炎
●膣炎
【写真】尿道口から膿が出ています。また亀頭全体がほんのり赤くなっていて亀頭包皮炎状態です。
