ヒトパピローマウィルスHPVと人間との攻防
尖圭コンジローマの臨床上には問題点がいくつかあります。
まず、尖圭コンジローマで潜伏期間が長いこと(教科書的には潜伏期間は、4週間~8ヶ月)が特徴で厄介な一面でもあります。なぜ厄介かというと、現代社会の不特定多数の異性間・同性間のセックスが、長期の潜伏期間によって感染源が特定できないことです。実際の臨床現場で、診察した患者さんに8ヶ月間の性行為相手を聞き出しても、複数存在するので断定できないことの方が多いのが現実です。
次に、包茎でない男性の場合、ヒトパピローマウィルスHPVに感染していてもイボが出現しないことがあることです。尖圭コンジローマの女性患者さんと問診を行い、性交渉の相手の方が特定できた場合(潜伏期間最長8ヶ月として、その間にセックスした相手が一人の場合)、男性側に尖圭コンジローマのイボを見つけることが出来ないことがしばしばあります。私の印象では、包茎でない男性がほとんどです。日本性行為感染症学会の掲載された報告によると、ご婦人の尖圭コンジローマの患者さんの場合、異性配偶者にイボを確認できなかったカップルの事例で、男性の精液あるいは尿中のヒトパピローマウィルスHPV検査を行ったところ、約70%の男性にHPVの検出ができたそうです。(注:一般病院・開業医レベルでは、この検査は出来ません) この報告から想像できることは、男性ウィルス保菌者でイボの発症はないが、他人には十分に感染させることができるバイオハザード男性が、実はウヨウヨ存在するということです。
悪徳包茎手術専門クリニックが包茎の男性は尖圭コンジローマになりやすいというのはある意味で事実ですが、包茎でない男性は、尖圭コンジローマのヒトパピローマウィルスHPVに感染してもイボになりにくいというのが真実です。包茎の男性は尖圭コンジローマに感染すれば、直ぐにイボとして発症しますから、包茎でイボがなければ安心といえます。逆に包茎でない男性は、尖圭コンジローマに感染してもイボが出にくいですから、イボがなくても安心とはいえません。そういう意味で包茎万歳!といえるかも知れません。(泌尿器科医が包茎を賛美しておかしいですが...。)
上記の問題点を理解するためには、あなたが尖圭コンジローマの原因ウィルス・ヒトパピローマウィルスHPVそのものになったと仮定すれば、容易に理解できます。
ヒトパピローマウィルスHPVである貴方は、人間男性に感染しました。それまで一人の可愛い若い人間女性の膣の中にいましたが、やっと順番が回ってきて他の宿主に引越しすることができました。前宿主の女性は性に関してはとても奔放でしたから、今までにも多くの仲間が巣立っています。貴方も大勢の仲間たちに見送られ旅立ちました。自分の仲間を「産めよ増やせよ」の大きな命を受けての旅立ちです。
貴方は感染した男性が気がつかない内に、ペニスの表皮細胞に感染、細胞内の核に入り込み、ウィルスである貴方の情報を核内の遺伝子に入力しなければなりません。そして次々に表皮細胞に感染して貴方のコピー仲間が増える増える、無限連鎖のように増え続けます。都合の好いことに新しい宿主のこの男性は、人間の価値観でいえば「イケメン」であり、オスとしての本能にも敏感で、可愛い子ちゃんに出会っては手当たり次第にセックスをしてくれるので、ヒトパピローマウィルスHPVにとってみれば好都合で神様のような存在です。
しかし残念ながら、我が世の春もいつまでも続く訳ではありません。遂に終わりを告げる事態が起きました。ある時、仲間のひとりが感染した表皮細胞核内の遺伝子入力に手違いを起こしてしまいました。あれ程注意していたのにもかかわらず、ミスったのです。
本来人間の細胞はウィルス感染すると、その感染の拡散をくい止めるべく、宿主の体にイボ・良性腫瘍や癌を作ろうとします。イボ・良性腫瘍は他の人間固体に注意を喚起する役目がありますし、癌の場合は宿主の死をもって感染をストップしようとするのです。あろうことか仲間の一人が遺伝子入力操作中にその宿主側のトラップに引っ掛かったのです。遂にイボを作ってしまったのです。入力のミス(イボを作ってしまった)無しにいられるのは8ヶ月が限界なのでしょうか?
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コメント
コンジロームだと思って婦人科で診察を受けたところ、細胞診で将来、子宮けい癌になる可能性のある CIN 1と診断されました。コンジロームのような疣は電気で焼き、コルポ診の結果待ち中です。自分のことは婦人科に頼るのですが、感染元とでは?思われる男性(コンドームなしで性交)のことで相談です。告知すべきだと思うのですが、相手が友達で、将来恋人になる可能性が全くないわけでもないという微妙な関係のため、どう告げたらいいか悩んでいます。彼には疣はなかったので、ウィルスを持っていても治療することはできないですよね。彼の将来の結婚のためにも、その人に告げた方がいいと思うのですが、この人は一生コンドームしないと性交できない(つまり子供が作れない)のでしょうか?それとも自然治癒するのでしょうか?泌尿器科で検査してその後どうなるのですか?
【高橋クリニックからの回答】
ほとんどの人が自然治癒するので、相手が微妙な立場の場合には放置すべきでしょう。
投稿: クロエ | 2006/06/15 11:26
子宮頸癌のウイルスは男性には無害とのことですが、感染しないということですか?
【高橋クリニックからの回答】
感染はするでしょうが、無害ということです。
投稿: たつじ | 2008/03/04 11:59
感染した場合は治療したほうがいいのですか?
それとも感染してもすぐにウイルスはなくなるのですか?
【高橋クリニックからの回答】
感染したかどうか調べる手段がありませんから、この質問は愚問です。
投稿: たつじ | 2008/03/04 16:06
HPVのウイルスは手にあることはあるのですか?
【高橋クリニックからの回答】
ないでしょう。
現在、性行為感染症・STDの質問は受けていません。ご遠慮下さい。
投稿: T | 2008/03/05 02:04