女性の生理的現象である膣前庭乳頭症vestibular papillae of vulvaを尖圭コンジローマと誤診される患者さんが後を絶ちません。誤診する医師の能力にも問題があるのですが、組織検査の結果においても、臨床的に明らかに膣前庭乳頭症の患者さんに病理診断結果が尖圭コンジローマと診断されることもあり、臨床医としては頭を痛める状況です。
婦人科でもない私がご婦人の性器をたくさん見ているというのもおかしなものですが、数多く拝見すると尖圭コンジローマとの区別が容易に見えてきます。
ここで多くの症例をご覧に入れます。ご婦人でご自分が尖圭コンジローマ?と思った時にはこの写真と比較してください。
【注】写真は実物の10倍から20倍に拡大しています。
膣前庭乳頭症【1】
婦人科で尖圭コンジローマと診断された28歳ご婦人の小陰唇の内側の所見です。たくさん密に群生していますが、一つ一つが揃っていてきれいです。これは膣前庭乳頭症です。
膣前庭乳頭症【2】
入浴中に気になって覗いたら、小陰唇右内側にブツブツができていたので心配になって来院した28歳のご婦人です。ツブの揃った小さくかたまっています。膣前庭乳頭症です。
膣前庭乳頭症【3】
婦人科を受診、病理検査の結果、尖圭コンジローマと診断された32歳のご婦人の小陰唇左内側の所見です。もうお分かりですね?どう見ても膣前庭乳頭症です。病理検査の誤診です。
膣前庭乳頭症【4】
あるウィンメンズクリニックを受診して検査、病理診断で尖圭コンジローマと診断された29歳のご婦人です。形態学的に膣前庭乳頭症です。
膣前庭乳頭症【5】
婦人科の病理検査で尖圭コンジローマと診断された40歳のご婦人です。5FU軟膏の治療を行っていました。臨床所見では膣前庭乳頭症です。
膣前庭乳頭症【6】
婦人科の病理診断で尖圭コンジローマと診断された27歳のご婦人です。尿道周囲に凸凹の腫瘤を認めます。外観では明らかに膣前庭乳頭症です。
膣前庭乳頭症【7】
やはり婦人科の病理検査せ尖圭コンジローマと診断された40歳のご婦人です。小陰唇右内側にツブの集まりを確認できます。外観上膣前庭乳頭症です。
膣前庭乳頭症【8】
婦人科で尖圭コンジローマと診断されたのですが、その後消失した23歳のご婦人です。心配で来院しました。小陰唇内側に細かい膣前庭乳頭症を認めます。
膣前庭乳頭症【9】
陰部に痒みを覚え、触れてみたらイボを感じたので来院した22歳のご婦人です。私が拝見するまでに泌尿器科を1軒、婦人科を1軒すでに診察していただいています。結果は異常なしであったのですが、どうしても心配で高橋クリニックを受診しました。処女膜のわずかな突起が心配の所でした。また周囲に膣前庭乳頭症も認めます。正常で健康な性器です。
膣前庭乳頭症【10】
性交時の痛みで来院した35歳のご婦人です。膣口の下にイボを発見して怖くなったそうです。表面が滑らか色調が明るいイボが見えます。膣前庭乳頭症と判断します。
膣前庭乳頭症【11】
数年前から膣口の下にイボを発見、インターネットを見ていたら尖圭コンジローマが心配になり来院した21歳のご婦人です。【10】の症例と同じで、膣前庭乳頭症です。心配要りません。
膣前庭乳頭症【12】
3ヶ月前に、とあるレディスクリニックにて尖圭コンジローマの診断で手術した既往がある27歳のご婦人です。1週間前に膣口左にニョキッとしたオデキに気付き、また「尖圭コンジローマ?」と驚き、高橋クリニックを受診しました。ご覧のように、性状の粘膜の乳頭状突起物です。膣前庭乳頭症です。
膣前庭乳頭症【13】
総合病院に勤める看護婦(看護士)さんです。2ヶ月前に膣口の右横にツブツブを感じ、悩み続けていました。意を決して高橋クリニックを受診、経過をお話しするうちに思わず涙が出てしまったご婦人です。医療関係者といえども悩むのは同じです。生理周期に大きさや数に変化があることと、外観上きれいですから膣前庭乳頭症です。安心してお帰りになりました。
膣前庭乳頭症【14】
2軒の婦人科医を受診して、どちらも尖圭コンジローマと診断された30歳のご婦人です。診察当日の午後に手術の予約をしていたのですが、私の診断を仰ぎたいということで手術をキャンセルし、白人の彼氏同伴で来院されました。彼氏の方には尖圭コンジローマは認めれていません。早速拝見すると、確かに小陰唇の内側や膣口の処女膜に小さなツブツブが観察できます。でも、一つ一つが融合することなく独立しており、粘膜も正常の色調です。「尖圭コンジローマではありません。膣前庭乳頭症です。」と伝えると、大きくきれいなひとみからボロボロの涙です。今まで不本意に悩んでいた緊張が、私の言葉で切れて喜びの涙になったのでしょう。彼氏と喜びに満ちて帰宅されました。
フォアダイスとリンパ管拡張
平成15年10月頃に気付き、平成16年4月頃婦人科を受診したところ、尖圭コンジローマと診断され、平成17年5月の完治と診断されるまで電気メスと液体窒素の治療を続けた北海道の29歳のご婦人です。平成17年7月に再発し、10月に北海道から上京して、高橋クリニックに来院しました。
ご本人が一番気になる箇所が、クリトリスの左横、左小陰唇の上の部分です。写真の中央に凸凹の表面平滑な皮膚面と左下に細かいツブツブが透けて確認できます。凸凹の部分はリンパ管の拡張で皮下に透けて見えるのはフォアダイスです。尖圭コンジローマではないのです。
でも患者さんは期待したほど喜びません?実はご結婚なさっていて、平成16年10月の尖圭コンジローマと診断されて以来、ご主人から感染したと口論が絶えず、最後には口もきかなくなり、来年の4月には離婚予定とのこと。尖圭コンジローマが離婚の原因ですから、病気が尖圭コンジローマでないとすると・・・
尖圭コンジローマ【1】
小陰唇膣口付近にできた尖圭コンジローマです。膣前庭乳頭症と異なり、表面に複雑な模様があります。
尖圭コンジローマ【2】
膣口下付近の尖圭コンジローマです。鶏冠(とさか)状の平べったい扇にも見えます。膣口に近い部分は膣前庭乳頭症に似ていないでもありませんが、血管が透けて見え増殖の強さをイメージさせます。やはり尖圭コンジローマです。
尖圭コンジローマ【3】
膣口から会陰部にかけて見られたイボです。鶏冠状で皮膚と同じ色素沈着が認められます。尖圭コンジローマです。
尖圭コンジローマ【4】
肛門内にできた尖圭コンジローマです。鶏冠状の小さなイボが密集しているのが観察できます。
尖圭コンジローマ【5】
膣口近くにツブツブを発見し、驚いて来院した29歳のご婦人です。膣口のエッジに不整形の尖圭コンジローマを認めます。成長の方向性がなく、四方八方、勝手気ままというイメージです。
尖圭コンジローマ【6】
4ヶ月前に液体窒素治療を行いましたが、増殖したと来院した30歳のご婦人です。ご覧のように小陰唇の縁に沿って表面がブツブツで複雑な模様の尖圭コンジローマを認めます。全体的に均一でなく不ぞろいのイメージです。色調も汚れた感じです。
尖圭コンジローマ【7】
昨年の8月に大学病院婦人科で手術を行い、その後再手術を行った28歳の患者さんです。当院へは今年の4月に来院されました。膣口下に表面が数の子状の尖圭コンジローマを認めます。この直後に手術を行いました。
尖圭コンジローマ【8】
膣口の下にできた尖圭コンジローマです。膣前庭乳頭症の【10・11】の症例と似ていますが、イボの表面に模様が見られます。実は尖圭コンジローマ【5】の患者さんの再発例です。
【まとめ】
上記のたくさんの写真で大よそのイメージがつかめましたか?臨床能力は書物で得られた知識よりも、実際に観察した数が物をいいます。「百聞一見にしかず」です。
膣前庭乳頭症は、一口に言って均一でモノトーン、周囲の粘膜とほぼ同色同性状、成長の方向性・指向性が正面で、広がりが2次元的(平面的)です。生理周期に同調し、生理が近づくにしたがい増え、生理が終わると同時に少なく縮小していきます。上記でご覧にいれたように年齢的には30歳前後のご婦人に多いようです。恐らく、この年齢の微妙なホルモンバランスの変化によって、外性器に膣前庭乳頭症が形成されるのでしょう。
一方、尖圭コンジローマは姿かたちが多彩でカラフル、成長の方向性・指向性が四方八方・支離滅裂で、広がりは3次元的(立体的)です。ヒトパピローマウィルスHPV・DNAの異常さを物語っています。生理周期とは無関係に増殖あるのみです。
尖圭コンジローマと膣前庭乳頭症の外観上のこの区別を習得できれば、婦人科医・皮膚科医・性病科医の中で能力のない迷惑な医師の診察よりも、貴方ご自身の見立てのほうがはるかに確かなものになります。
アメリカでは、ヒトパピローマウィルスHPV抗体血液検査があり、その抗体価が陰性(低値)であれば、尖圭コンジローマには感染していないのだから、尖圭コンジローマの視診は必要ないというコメントが掲載されています。ご自分は日本で尖圭コンジローマと診断され治療したが、アメリカで血液検査を行ったら陰性であったので、日本で誤診されたというものです。このエピソードはアメリカ人の合理主義・データ偏重主義が作った幻想です。尖圭コンジローマは表皮・粘膜のウィルス性感染症です。人間の免疫システムに感知されにくいので、再発しやすく治り難いのです。ですからチョッとやそっとでは、ヒトパピローマウィルスHPV抗体価は上昇しません。例えば、長年水虫にかかっている患者さんの白癬菌抗体価の血液検査を行っても、データは正常です。抗体価が上昇しないから感染していないと考えるのはとても短絡的な発想です。もしもアメリカの医師が本当にそのように信じているのならば、憧れのアメリカ医学もその程度なのです。コメントなさった方の誤解であって欲しいものです。
【仮説】
「この年齢の微妙なホルモンバランスの変化によって、外性器に膣前庭乳頭症が形成されるのでしょう。」と簡単に述べましたが、人が生物である以上、膣前庭乳頭症が出来るのには、それなりの理由がある筈です。
私は次のように考えています。あくまでも私の自論であり仮説です。私の愛して止まないご婦人方を侮辱している訳ではありませんから、セクシャル・ハラスメントなどと思わないで気軽に聞いて下さい。
30歳前後に多いという事実と痒みを伴うという事実から次のように推察しています。
生物学的に哺乳類であるご婦人の30歳前後が恐らく人として妊娠する最後のチャンスなのでしょう。そのため性器が性行為を促すために、痒みを作るのです。痒みがあれば、ご婦人はどうされます?痒みのために性器に手が行ってしまうでしょう。触っているうちに発情をする可能性もあります。男性の性器を欲しくなるかも知れません。また、膣前庭乳頭症で出来たツブツブは、ご婦人の性器の摩擦係数を高めます。その刺激で男性は射精がたやすくなるでしょう。そして妊娠しやすくなるのです。大草原の中で30年間孤独にたくましく生きてきた哺乳動物のメスが1匹、子孫を残すために偶然に出くわしたたくましいオスを見て、「最後のチャンスだ!」と精子を何が何でももらおうとする光景をイメージしてみて下さい。理論的には飛躍があるでしょうが、このように考えると、膣前庭乳頭症が30歳前後のご婦人に多いという理由として理解しやすいと考えます。しかしあくまでも私個人の考えですから聞き流して下さい。
もう一つの私の仮説も紹介しましょう。
セックスの際の男性ペニスの激しいピストン運動で、膣壁の粘膜細胞がわずかながら剥離(はくり)します。剥離した細胞は男性のペニスに付着します。ペニスに付着した膣粘膜細胞は、続くピストン運動で小陰唇や膣口に付着し、そんまま移植されます。移植された場所で発育すると、それが膣前庭乳頭症になるという筋書きです。いかがですか?私の仮説は?
【注意】
女性性器に関する病気は全て婦人科の診療範囲の病気です。ですから、女性性器の病気でお悩みの時には、始めに必ず婦人科を受診して下さい。婦人科を受診しても尖圭コンジローマのように治りが悪い場合には、高橋クリニックでもご相談を受けます。
【お知らせ】
大阪方面のご婦人に朗報です。私の意見に賛同される婦人科医がおられます。堂山レディースクリニックの本間先生です。大阪地区のお住まいの方で、尖圭コンジローマと診断され、膣前庭乳頭症では?とお悩みの方、診察していただいて下さい。