世界最古の法典であるハンムラビ法典(目には目を歯には歯をで有名)は紀元前1792年(3800年前)にメソポタミア文明バビロン国のハンムラビ王によって作られたものです。
そのハンムラビ法典の石碑には、非常に具体的な内容の条文が刻まれています。
280条からなるこの法律は国民を宗教と正義によって護り統治するために作られたとされています。
超古代において、これほど強い意志を持って創られた事実に感嘆します。
さて、そのハンムラビ法典の215条~223条に医療に関する条文の記載があります。
●215条:医師がケガ人をメスで手術した時には、10シェケルの銀を治療費として請求できるというものです。
バビロン一般市民が大麦畑の収穫で1日一生懸命に働いて日当が1シェケル銀といいますから、今の貨幣価値に換算すると1シェケル=八千円くらいでしょうか?
それから計算すると、法典に記載されている医師の報酬の10シェケル=八万円くらいの金額になります。
現在の日本の保険診療では、オデキの切開排膿が初診料込みで保険点数744点、三割負担で2330円ですから、かなり高額な治療費を請求することになります。
ところが、
●218条:医師がケガ人をメスで手術したが死なせた時には医師の手を切る!という条文があります。
医師は患者さんを死なせると2度と仕事が出来なくなるというものです。
現在でこの法律が適用されたら、外科医を志す医師はいなくなるでしょう。
バビロンの支配階級であった貴族や武士が戦いに負けてもそのような罰はありませんから、医師という職業は高給取りですが社会的地位はとても低かったと思われます。いわゆる今でいう「3K(きたない・きつい・きけん)」の仕事の一つだったのでしょう。
ハンムラビ法典石碑 
病気や怪我人を治す医師の仕事は、客観的に見れば確かに危険で汚い仕事です。
伝染病の患者さんを診れば感染の危険があります。血だらけの怪我人の傷を縫合する現場を見れば、高貴な貴族・支配階級・英雄が一生をかけて行う仕事には見えないでしょう。
医師の職業としての確率は、世界中さまざまな起源があります。
しかし、ほとんどに共通することは、太古の昔では宗教と医療とは密接な関係にありました。
呪い師(まじないし)や預言者などは、それが現在でも有効であるか否かは別として、かなりの医学知識と治療手段を持っていました。
キリストはその短い人生の布教期間中に、いろいろな病人を治療したことが「奇跡」として聖書に記載されています。
弘法大師空海が創設した真言密教では、病気治療のための法術や護摩焚きなどの秘術があります。
チベットでは医師になるために、現在でも僧侶の資格を得てからではないと医師の勉強ができません。
私的見解ですが、争いが絶えなかった古代世界で、病人や怪我人を治すのがとても上手な奴隷を支配階級が重用し、身分を保障したのが医師という存在の始まりではないかと私は思っています。
医師は古代において決して不動の特権階級ではなかったことを肝に銘じて、目の前で苦しむ患者さんの診療に誠心誠意励まなければなりません。
【参考】ハンムラビ法典 飯島紀著 国際語学社