医療サイトの投稿原稿♯14 「尖圭コンジローマと誤診されたご夫人」

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この写真は、尖圭コンジローマの患者さんから採取した組織を位相差顕微鏡で観察した画像です。
尖圭コンジローマの特徴的な組織所見として、空胞細胞:コイロサイトーシスがあります。写真のように、様々な空胞細胞が観察できます。

「尖圭コンジローマ」と他の医療機関で診断されたご婦人の多くが、身に覚えがなく、いろいろ悩んだ末にお越しになります。私が再検査すると9割の患者さんが「膣前庭乳頭症」でした。
「尖圭コンジローマ」は、ヒトパピローマウィルス:HPVの感染による性行為感染症の「イボ」です。いわゆる性病、性行為感染症です。
「膣前庭乳頭症」は、膣の細胞が何らかの原因で、外陰部の皮膚から芽が出て来た状態です。中年以降のご婦人が久しぶりに性行為をすると、外陰部に微細な傷ができ、その傷に膣細胞が自家移植されたのが原因と思われます。異所性膣細胞乳頭症と言うべき病態です。

ほとんどの患者さんが、病理組織検査の結果、ヒトパピローマウィルスHPVの感染細胞であるコイロサイトーシス(空胞細胞症)の発見を根拠に、尖圭コンジローマと診断されています。
患者さんの多くが、婦人科の医師に「肉眼的には違うと思うけれど、念のために組織を調べましょう。」と言われ病理検査に出すと、結果が出て、「残念ながら、コイロサイトーシスが発見されたので尖圭コンジローマでした。」と診断されています。
ここに病理学の専門医の誤診があるのです。その原因が空胞細胞=尖圭コンジローマというワンパターン認識です。

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この顕微鏡写真は尖圭コンジローマのコイロサイトーシス空胞細胞です。空胞に見える部分にHPVウィルスがパンパンに充填されています。その他の特徴としては、細胞内の核がとても歪(いびつ)に変形しています。また、核を中心にした車輪のように見えます。
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この顕微鏡写真は膣前庭乳頭症の空砲細胞です。空胞に見える部分に膣内の乳酸菌を育てるためのグリコーゲンがパンパンに詰まっています。その他の特徴としては、細胞内の核が小さく丸くなっています。
どちらの空胞細胞も、一見して同じように見えるので、病理学の専門医が、膣前庭乳頭症の空胞細胞を尖圭コンジローマのコイロサイトーシスと誤診してしまうのです。

それぞれの空胞細胞の発生過程・工程をイラストにして示しました。
上の列が、膣前庭乳頭症、下の列が尖圭コンジローマです。
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【膣前庭乳頭症の病理組織像の観察所見】
①外陰部の扁平上皮に自家移植された膣組織は、次第に成長し大きくなります。
②膣組織の基底細胞は、膣の常在菌である乳酸菌(デーデラン桿菌群)を飼育するために、グリコーゲンを作る細胞です。膣細胞内の核が活発になり、細胞内にグリコーゲンを作ります。
③作られたグリコーゲンは細胞内で空胞として観察できます。その姿が、尖圭コンジローマのコイロサイトーシス空胞細胞症と誤診されるのです。違う点は、グリコーゲンを作り終えた核が変形せずに、相似的に小さく(廃用性萎縮)なるだけです。
④グリコーゲンは細胞内でタップリ蓄えられ完全な空胞細胞になります。核は、細胞端で扁平になるか消失します。
⑤顕微鏡の同一視野の中に、これらの成熟過程の時間的流れが確認できたら、膣前庭乳頭症です。

【尖圭コンジローマの病理組織像の観察所見】
❶HPVウィルスが、皮膚の扁平上皮の基底細胞に感染します。
❷ウィルスは、細胞の核に侵入して、ウィルスを合成します。
❸合成されたウィルスは、核の外に放出されます。それが、空胞に見えます。これをコイロサイトーシス空胞細胞症と呼び、HPVウィルス感染の特徴的な細胞です。
❹細胞内でウィルスの詰まった空胞部分が次第に大きくなります。自然な成熟現象ではないので、本来の細胞構造の想定外の形状変化を受けます。核は、細胞膜といくつかの支持組織で宙に浮いた状態です。その複数の支持組織で区画されたスペースに、無理やりウィルスが充填されるので、核はイビツに変形し、細胞の奥の片隅に追いやられて、空胞細胞の完成型が出来上がります。
❺顕微鏡の同一視野の中に、これらの時間的流れが確認できたら、尖圭コンジローマです。

それぞれの空胞細胞の発生過程を勉強すれば、空胞細胞の微妙な違いが明確に分かりますよね?パターン認識の空胞細胞=コイロサイトーシスという思い込みが誤診を招き、患者さんを悩ませるのです。

誤診の経緯には、婦人科の医師にも問題があります。
「尖圭コンジローマとは思えませんが……」と言っておきながら、病理組織検査の依頼書に「尖圭コンジローマの疑い」と記載します。
病理の専門医は、依頼書を見ながら、顕微鏡所見を検討します。『現場の婦人科の医師が、肉眼的に尖圭コンジローマを疑っている……』と思いながら、「尖圭コンジローマ」と診断するのです。
婦人科の医師は、「病理の専門医が『尖圭コンジローマ』と診断したから、間違いありません。」と言うのです。……無責任ですよね?

【備考】
これで「医療サイトの投稿原稿」シリーズはお終いです。面白かったですか?

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医療サイトの投稿原稿♯13 「治る病気、治らない病気」

患者さんとお話ししていると、病気が全て治るのが当たり前だと「誤解」されています。患者さんから、「いつまでこの薬を飲まなければならないのか?」というご質問を多く受けます。
その際に、患者さんに質問します。
「治る病気には何があるのでしょうか?」と。すると患者さんの回答は、
「風邪とか、インフルエンザとか、怪我とか・・・あとは分りません。」
「そうなのです。治る病気は、風邪とインフルエンザと怪我しかないのです。」と私は答えます。
M3naoruill一般の人がかかる病気で一番多いのが風邪、感冒、急性感染症でしょう。これにはインフルエンザも急性肺炎も腎盂腎炎も性行為感染症も入ります。次に多いのが外傷です。打撲、捻挫、骨折などがあげられます。さらに火傷があります。それ以外の病気で確実に治る病気は存在しません。例えば、高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、甲状腺炎、アレルギーなどは一生お付き合いしなければなりません。
要するに治る病気は、後遺症は別として、「外的要因」によるものだけです。例えば、ウィルス、病原菌、物理的刺激による骨折・捻挫、熱エネルギーによる火傷、凍傷は、治る病気の範疇です。しかし、内因性の病気である高血圧・糖尿病・心臓病・慢性肺疾患・痛風は治りません。この治らない病気が体のバランスを崩して、最終的には寿命に影響するから、治療しなければならないのです。
日本人の死因のトップが癌である事から考えれば、癌も内因性の不治の病ということになるでしょう。癌から生還している人が存在しているのは確かに事実ですが、マスコミで癌の告知をしていた著名人が、その後、ことごとく亡くなられた報道を見るにつけ、生還する人はごく少数であることが分かります。
例えば前立腺ガンのように比較的予後が良い癌に関しては、そっとしておくのが良策の場合もあります。しかし、癌がコントロールされているからといって油断は出来ません。長く治療する覚悟が必要になります。
一般的に病気の分類を、感染症、外傷、熱傷、代謝疾患、内分泌疾患、アレルギー疾患、心臓循環器疾患、消化器疾患、先天性疾患、癌悪性疾患、老化現象などです。また、他には感染症を除く小児疾患、耳鼻科疾患、眼科疾患、歯科疾患、精神科疾患などがあります。このような分類の仕方では、治ったり治らなかったりの区別は難しいのですが、確実に治る病気は、外的要因による疾患と考えれば、最初の感染症、外傷、熱傷だけです。他の病気で自然治癒される患者さんがいるかもしれませんが、ほぼほぼ稀です。


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医療サイトの投稿原稿♯12 「痛みで悩むご婦人」

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アメリカ在住の30代のご婦人が、2017年の9月から、夜間に突然、陰部がとても痛くて目が覚めました。陰部全体の痛みと尿道が引っ張られるような痛みです。これ以降、毎晩起こる痛みのため不眠症になってしまいました。
地元アメリカで、泌尿器科・婦人科などいろいろな医師を受診し、治療を受けましたが治りません。何回も通院すると、医師に見放されたような態度を取られてしまいました。患者さんは、そのような状況になってもくじけないで、インターネットで情報をいろいろ収集しました。その中で、私の書いているブログ記事をたまたま発見したのです。
地元のアメリカでは、私の推薦するクスリを調達できなかったので、日本にいる家族に連絡して、α-ブロッカーのエブランチルを送ってもらい服用してみました。すると、今まで自覚していなかったオシッコの出が良くなったのです。痛みには、それほど効き目がありませんでしたが、私の理論が正しいことを実感したのでした。

その後、日本に帰郷して、関東近県の地元の内科の先生に、無理にお願いして、お祖父さんにフリバスを処方して頂き、それを服用を始めました。すると、どうでしょう!あれほど苦しんでいた痛みが無くなり、夜グッスリと眠れるようになったのです。地元の内科の先生も、その話しを聞いて驚いたそうです。
日本滞在中に私の診療所へ受診しようと、2018年6月末に来院されました。
早速、エコー検査をすると、写真のように膀胱縦走筋(膀胱排尿筋)の走行が、膀胱出口に向いていません。当然、膀胱三角部が厚くなっています。厚さが約7mmです。正常は2mmです。厚さ2mmで排尿回数5回が正常だとすると、7mmだと、オシッコの回数は15回〜18回のはずです(私の自論展開)。しかし、この患者さんの排尿回数は、1日たったの4回でした。
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膀胱三角部で作られた頻尿のエネルギーがまったく表現されていません。これは、患者さんの脊髄神経回路の特性によるものです。しかし、脊髄に送られた情報(エネルギー)をそのまま貯めておくことはできません。そこで、脊髄が新たな神経回路を形成したのです。それが「痛み」症状なのです。
フリバスは、前立腺肥大症の治療薬でお馴染み、排尿障害治療薬のα1-ブロッカーです。もちろん保険適応外ですが、膀胱出口の緊張をゆるめ、男女関係なく排尿障害の治療に役立ちます。また、α-レセプターは、膀胱出口ばかりでなく膀胱三角部にもありますから、膀胱三角部の興奮もフリバスで抑えられたのでしょう。また、排尿障害のため振動して硬くなった膀胱出口も、膀胱三角部と同じくセンサーが形成されるので、膀胱出口の情報も脊髄を介して痛み症状になったのです。
このような症例に遭遇した場合、一般的には①頻尿症状がなければ、陰部疼痛症・うっ血性骨盤疼痛症候群、②頻尿症状があれば、過活動膀胱・間質性膀胱炎・膀胱疼痛症候群、③子宮筋腫があれば、子宮筋腫の関連痛、④他に症状がなければ、陰部神経症と診断されるのが「落ち」でしょう。病気の症状発現のためには、「ブラック・ボックス」である脊髄神経回路が介入していることを医師は肝に銘じるべきです。
また、この患者さんはフリバスで痛みが消失しましたが、不十分な場合、炎症による痛みではありませんから、通常の痛み止め(ロキソニンなど)は無効です。脊髄中枢の「痛み回路」抑制効果のある、リリカ・トラムセットが有効です。

フリバスは地元の内科の先生に継続して処方いただき、さらに膀胱三角部を的確に抑えるベタニスを追加で処方しました。


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医療サイトの投稿原稿♯11 「禁句:病は気から」

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私の診療科が泌尿器科ということもあって、様々な不定愁訴の患者さんが全国から来院されます。中には10軒以上の病院や医療機関をドクター・ショッピングされたにもかかわらず、不定愁訴を理解してもらえない患者さんも多くおられます。例えば、頻尿や陰部痛の症状のある人が、尿検査の結果、異常がないと、「気のせいです!」と前医に診断されてしまうのです。どこに行っても簡単な検査だけで異常が認められないと、しまいには「病は気から」と言われてしまいます。一般の人にも、さらには医師にも誤解があると思われるので、「気」について私見を述べます。
本来、漢方や中国医学で使用される「気」とは、精神的な気持ちの「気」ではありません。日本には「気」という明確な概念がなく、蒸気の「気」のように、実体のない存在、つかみ所のない物、あるいは、いい加減な存在という意味で、「こころ・気持ち・精神的」と理解され、意志・意識の強さや程度を表現しています。根気、短気、気合、気力、覇気などに使用される「気」です。
ところが中国の漢方においては、「気」という「エネルギー」が体の中をくまなく流れていて、生命活動を営でいると考えられています。その「気」を「先天の気」と「後天の気」に分けます。「先天の気」は元々その人が持って生まれた「気」のことで、「元気(原気)」といいます。後天の気は呼吸や食事によって得られた「気」のことで、「宗気(大気)」といいます。「宗気」は心肺で血管内を流れる「営気」と血管外を流れる「衛気」に分けられます。「営気」は主に内臓を、「衛気」は主に体表を流れる「気」です。漢方にもいろいろあり、流派や時代によっても考え方が微妙に違いますから、以上のことは大雑把な概念としてご理解ください。
気が五臓六腑を流れることで、心気、腎気、神気、脾気などに変化します。
気の流れがとどこおったり(気滞)、気が減少したり(気虚)、気がたまったり(気実)することで病気になると考えます。「病は気から」というのは、正にこの意味なのです。十分な「気」がスムースに流れないから病気になるのだと考えるのです。日本のように「気がおかしい」から病気になるのではありません。
病気で悩んでいる人に対して、周囲の人や主治医までもが、「気のせい」「気にし過ぎです!」、「気にしないようにしましょう!」、「病は気からと言うでしょう!」などと無責任な言葉を浴びせることがあります。この言葉は、「患者さんの病気は全て患者さん自信の精神の弱さや心のもろさが原因だ!」と言っているようなものです。医師は、このような言葉を決して発してはいけません。逆に、このような発言をする医師側にこそ「気のせい」なのです。
人間は精密機械です。それも自己修復能力のある生身(炭素系)の超複雑な精密機械です。遺伝子レベル・分子レベルの極微に至るまで合目的な仕事を担った精密機械ですから、「複雑系」理論に登場するような別次元のパターンが発生します。これは金属系・シリコン系の精密機械と似て異なる行動パターン・作用パターンを取ります。
理系の人間の考え方は、代表的なパターンのモデル(理論・仮説)を作り、それが何度繰返しても再現される(再現するといっても80%程度ですが・・・)ことで、そのモデル(理論・仮説)が正しいことを実証します。この考え方は科学そのものですし、ある意味正しいことです。しかし、そこで立証された数々のモデル(理論・仮説)同士が横のつながりや縦のつながり、前後左右のつながりへと発展しないのが、今の科学の悪い所です。
医師たる者、患者さんの「訴え」は、常に真実で正しいものと考えましょう。医師の理解できる訴えだけを信じて、理解できない訴えを「気のせい」とするのは、医師の無能をさらけ出しているようなものです。患者さんの訴えから、医師の持っているあらゆる知識や経験を総動員して、基礎医学(生物学・発生学・解剖学・生理学・病理学)や化学・物理学・地学、はたまた民族史までを考慮して整合性をとろうと理解・努力しなければなりません。そうすれば、悩める患者さんに対して、安易に「病は気から」などと口にしなくなります。しかし、どうしても理解できない場合には、プライドを捨て正直に「ゴメンなさい!分かりません!」と回答しましょう。プロフェッショナルの医師が「病は気から」と言って、素人の患者さんに丸投げする行為だけは是非やめてください。難問クイズの出題者が、患者さんだと思いましょう。医師はその難問に対するベテラン回答者です。その答えが「気のせい」では、・・・回答者として、どう考えても失格でしょう。

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医療サイトの投稿原稿#10 「更年期とコレステロール」

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更年期(45歳~55歳)を過ぎた閉経後のご婦人は、健康診断でコレステロールが高い値になることは周知の事実です。しかし、更年期になると、なぜコレステロールが上昇するのかをハッキリ解説した文献や専門書は見つかりません。そこで、私なりに考えてみました。
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更年期になると、性腺(卵巣)が加齢現象で委縮し、エストロゲンの産生機能が極端に低下します。
しかし、体全体からはエストロゲンを強く要求しますから、脳にある視床下部指令センターから、脳下垂体に命令が下り、卵巣を刺激するホルモンが大量に放出されます。ところが、卵巣そのものが加齢現象で女性ホルモン産生能力がありませんから、ホルモンは上昇しません。視床下部はさらに命令を出し続けます。その結果、脳下垂体前葉はクッタクタに疲弊し、脳下垂体前葉の機能不全を起こします。「脳下垂体前葉汎機能低下症」という状態です。脳下垂体前葉は様々なホルモン(成長ホルモン・副腎皮質ホルモン・甲状腺刺激ホルモン・性腺刺激ホルモン)の指令中枢でもありますから、他のホルモン産生も当然出来なくなります。その結果、寿命に強く影響し、原因不明の老衰となって短命につながるのです。過去の日本では昭和10年くらいまでは、ご婦人の平均寿命が50歳未満であったのは、この更年期の生理現象に強く影響していたと考えても不思議ではないでしょう。

エストロゲンという女性ホルモンの原材料は、肝臓で作られるコレステロール、特に悪玉コレステロール(LDL)なのです。視床下部は、女性ホルモンが足りないのであれば、肝臓を刺激して、材料のコレステロールを増産させようと考えます。昭和初期の日本人の食生活は貧弱なものでしたから、このルートは使えませんでした。ところが現代人の食事は高カロリー・高タンパク・高脂肪ですから、コレステロールを作るのに困りません。視床下部の命令は脳下垂体から肝臓にシフトします。その結果、脳下垂体は被害を免れ、正常に機能します。戦後食生活が戦前に比べて良くなったことから、原因不明の無駄な老衰がなくなり、平均寿命が飛躍的に伸びた理由と思われます。医療関係者は医療の進歩が寿命を延ばしたと主張しますが、実は食生活の欧米化が理由だと私は考えています。
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コレステロールが肝臓で増産されてホルモンの材料がたくさん供給されても、ホルモン産生工場である卵巣の機能低下のため女性ホルモンは作れません。材料のコレステロールは利用されずに余ってしまいます。これが血液検査で分かるコレステロールの上昇です。いわゆる高脂血症です。
コレステロール、特に悪玉コレステロールは全ての細胞に必須の材料です。肝臓で作るのに何と10工程も費やしていますから、コレステロールを肝臓→胆汁にして体外にポイッと捨て去るのは忍びないのでしょう。余ったコレステロールを体は貯蓄・貯金しようと考えます。それが血管に貯蓄・貯金されるので、その結果、動脈硬化になるのです。動脈硬化は、ある意味、高齢者の病気でもありますから、「動脈硬化=長生き」とも言えます。現代の医療ではコレステロールの産生を抑える薬剤が主流ですが、この病態生理を考慮すれば、性腺ホルモンの補充療法が、高コレステロールに対する本質的な治療だと考えます。また、大豆イソフラボンは、生体にとって疑似エストロゲンなので、大豆イソフラボンを摂取することで、女性ホルモンが増えたと錯覚して肝臓でのコレステロール産生を抑えてくれます。
この病態生理は男性にも当てはまります。卵巣を精巣(睾丸)にエストロゲンをテストステロンに置き換えて考えれば良いと考えます。

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医療サイトの投稿原稿#9 「ひとりの体に二人の自分」

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患者さんの経過は人それぞれ様々です。
1つ2つ程度のお薬の処方で、劇的に改善する患者さんもいれば、何回お薬を変えてもなかなか改善しない患者さんもいます。劇的に改善する患者さんの方がはるかに多いのですが・・・。治りが悪いと、私の誤診か治療方針の間違いなのか?と思ってしまいます。

なかなか改善しない患者さんをよ〜く観察すると、ダンダンと見えてくることがあります。何しろ、開業医になって、この29年間で3万7千人の新患の患者さんを診ていますから・・・。治療経過の特徴と患者さんの個性がとても相関しているのです。例えば、頑固な性格の患者さんは、経過も頑固です。クドクドとしつこい患者さんは、病状もしつこいのです。個性的な患者さんは、病状の起伏が激しくて個性的です。ネチネチとした人は、症状もネチネチです。

つまり、患者さんの病状は、その人の性格が強く反映しているのです。頑固な患者さんなのに病気は素直、しつこい性格なのに病気はサッパリとは考えられません。言い換えれば、1人の人間の体に、同じ性格の人間が2人存在していると考えると分かりやすいでしょう。病気に存在する人格がある日目覚めて、脳に存在するオリジナルの人格に対して自己主張したのが病気の本質と考えるのです。
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同じ人格で同じ体力の人間がいくら闘っても、どちらも永遠に勝てません。延々といつまでも闘いは続き、互いに共倒れになるだけです。それを回避するには、お互いに「折り合い」をつけることです。患者さんにとっては、症状がわずかに残っていても、それは病気の人格が自己主張を抑えて「折り合い」をつけるように努力していると思ってあげるべきです。

ちなみに、この記事を書いている私は、頑固でしつこくて、何事もコツコツと実行し、他の人が思いつかない事をひらめく個性的発想の人間です。したがって、私のかかってしまった慢性腎不全は、主治医が思いもよらない経過を取り、絶対に治らない病気です。私の個性を充分に反映しているのです。悲しい・・・。

この考えは、私オリジナルのものです。ですから、100%正しいとは言えません。でも、この考え方を利用しないと、患者さんを柔軟に診ることも出来なくなり、さらに自分の人生を否定してしまいます。
【イラスト:いらすとや フリー画像から】


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医療サイトの投稿原稿#8「前立腺針生検の弊害」

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このグラフは、1996年臨床泌尿器科に掲載された前立腺癌の悪性度(分化度)と生存率の比較を示しています。
5年生存率を悪性度で比較すると次のようになります。
・高分化型(良性型) 95%
・中分化型(中等悪性型)70%
・低分化型(悪性型) 30%
悪性度の高い低分化型の前立腺癌の生存率曲線の急勾配は、実に驚くべき状況です。前立腺癌の死亡原因の多くが低分化型の前立腺癌に依存していることが分かります。この論文を発表した医師は、悪性度が高い前立腺癌は、とても予後が悪いので、PSA検査を繰り返し定期的に行い、出来るだけ早く前立腺針生検を行い、なるべく早期に前立腺癌を発見して治療すべきだと考えていたのでしょう。
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ところが、このグラフをジッと見つめると、違う景色が見えてきます。こんなに悪性度の高い低分化型の前立腺癌であるのならば、前立腺針生検で発見するずっと前から相当数の患者さんが、既に亡くなられていたのではないかと私には思えてなりません。
5年で30%まで落ち込む生存率であれば、このグラフの前立腺癌の発見時点からさかのぼること5年前に生きていた低分化型の前立腺癌の患者さんが、この統計に出るまでに70%の人が亡くなっていた筈です。それから考え計算すると、低分化型の前立腺癌患者さんは5年前には1066人生存していたことになります。そして5年後に70%の646人が亡くなり、320人が残り、PSA検査で異常が認められ、前立腺針生検で前立腺癌が発見されたのです。
しかし、現実的には、低分化型の前立腺癌患者さんが、そんなにたくさん亡くなられたというデータはありません。実際には、発見されるまで、わずかな方がお亡くなりになっていたのではないかと推測はできますが。そう考えると、低分化型の前立腺癌の患者さんが、なぜ突然として悪性度が顕著になり、生存率が急激に低下したのかを考えなければなりません。一番分かりやすいのは、前立腺針生検をキッカケとして、前立腺癌を刺激し寝ている子を起こしてしまったと考える方が納得いきます。刺激された低分化型の前立腺癌は、その後、前立腺癌の死亡率を上げるべく悪性度を増して牽引するのです。中分化型の前立腺癌の生存率がそれなりに低いのも同じ理由でしょう。
 前立腺癌を前立腺針生検せずに、ある程度の診断で治療方針を決めれば良いのではないかと考えます。ところが最近の若い泌尿器科医師は、触診も超音波エコー検査もせずに、即、前立腺針生検をする医師の何と多い事か!こいつ等が前立腺癌の死亡率を上げているのです。
触診で分からないような前立腺癌は、ステージⅠと考えます。ステージⅠの前立腺癌の患者さんは、前立腺癌のない健常なヒトと比較しても5年生存率はほとんど変わりありません。ちなみにステージⅠとステージⅡ・Ⅲの5年生存率もほとんど変わりません。そしてステージⅡ以上は、触診と腹部エコーで容易に診断できます。
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前立腺癌の腹部エコー検査のコツをお教えしましょう。
尿が100mlほど溜まっている状態で前立腺の全体像が描出できるようにします。次に前立腺の画面を思いっきりズームアップします。そして前立腺が「白く」なるように明るさ設定を調節します。すると、癌細胞の集合体である前立腺癌が「黒く」描出されます。注目する場所は前立腺外腺、つまり前立腺の外側部分です。
この腹部エコー所見は、PSA値4.38(正常:4.0以下)とわずかに高く心配になり来院した50代男性の前立腺を示しています。前立腺の右葉(写真右側の正面像の左下)の赤い矢印で示す場所が前立腺癌です。厚さ4㎜以下で体積はわずか0.1㏄の小さいものですが、腹部エコーで十分に確認できます。触診で同じ部分(前立腺右葉)に硬結が触れました。間違いなく前立腺癌です。ですから、できうる限り前立腺針生検せずに前立腺癌を診断して治療すべきだと私は考えます。病理診断して治療するという昔ながらのワンパターンの手順をそろそろ考える時期に来ているのかもしれません。

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医療サイトの投稿原稿#7「前立腺ガンの自然増加」

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最近、前立腺癌の罹患数(発見数)の増加が話題になっています。戦後の食糧事情が改善し、欧米食の高タンパク・高脂質のものを豊富に摂取している等々、いくつか理由が挙げられています。
ここで見方を変えて前立腺癌の罹患数を年代別(年齢階層別)に観察すると、グラフのようになります。(国立がん研究センター・データ2016年統計から) 40歳過ぎてから、罹患数は急激に上昇します。
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さらに、お示しするのは前立腺癌のラテント癌潜伏率(和田鉄郎博士研究データから)と、年代別の増加推移を比較したグラフです。年齢を重ねる毎に潜伏率は増えます。この曲線と前立腺ガン罹患数の増加曲線が類似したものになります。つまり、罹患数の増加は、加齢に伴うラテント癌潜伏率の増加に比例しているのです。
排尿障害や前立腺肥大症でPSA値が高くなると、それを口実に針生検することで、ラテント癌が発見されてしまうのです。ラテント癌には悪性度がピンからキリまであり、顕在ガンとの区別はつきません。たまたま偶然に発見されたラテント癌が、PSA値を高くした顕在ガンとして統計に上がるのでしょう。もしも男性全員に前立腺針生検を実施すれば、罹患数はこんなものでは終わりません。桁数が2桁は多くなります。80代は、930万人存在しますから、ラテント癌は、465万人存在することになります。
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初めのグラフと男性一生涯の男性ホルモン(テストステロン)の推移を比較すると、このグラフになります。
男性ホルモンの下降に沿って、次第に前立腺癌の罹患数が増えているように見えます。前立腺は男性ホルモンの低下、特に60歳を越えた、テストステロンが最盛期の50%~60%に低下した時を境に、前立腺ガンが発生すると考えられます。これから考えると、更年期前後でのテストステロン補充療法が、前立腺ガンの抑制効果を得られるのかも知れません。

要するに、前立腺ガンの罹患率は、
① 年齢によるラテント癌の潜伏率
② 年齢によるテストステロン・レベルの低下
に相関しています。つまり前立腺癌は年齢とともに増加する「自然現象」です。その自然現象に「PSA値が高いから」と言う口実で前立腺針生検を実施すれば、前立腺癌の発見数(罹患数)が増加するのは当然でしょう。逆に、針生検で前立腺癌を刺激することが、スヤスヤと「寝ていたガン細胞」を寿命に影響するような「怖いガン細胞」に変身させるのではないでしょうか?

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医療サイトの投稿原稿#6「酔い止めの秘薬」

Ejis「酔い止め」の薬を服用しても、乗り物酔いを実際に防げないのが現実です。
実は、私が小学生~中学生のころ、長距離のバスで必ず「乗り物酔い」をしていました。薬局で「酔い止め」の薬を事前に購入し服用しても、気持ち悪さや便意・下痢が催してくるのです。大人になってからは「乗り物酔い」はしなくなりましたが、その頃の気分の悪さや恐怖感は今でもトラウマとして残っています。私も含めトラベルミンなどの「抗めまい薬」を処方されても全く効かない患者さんは、実に多く存在します。

慢性前立腺炎の患者さんで、海上自衛隊の自衛艦で勤務している方がいました。
その患者さんがある日「酔い止め」のお薬を希望されました。話の中で、市販の「酔い止め」を服用しても、海が荒れていると、船酔いを抑えることができないと言うのです。そこで、一般的には絶対に処方されないであろう「秘伝の特効薬」を患者さんに十分に説明した上で処方しました。

その2週間後、患者さんが来院され、その結果を教えてくれました。
今回、尖閣諸島近辺に大きな台風が通過したために、海の時化(しけ)は長期間にわたりひどく、当然、船の揺れも半端ではなく、ひどい時には船の傾きが(+)45度から(-)45度の90度の振れ幅だったそうです。自衛艦乗員の猛者も含めて8割の乗組員は船酔いしたそうです。ところが、この患者さんだけは、私の処方した「秘伝の特効薬」を服用したお陰で、全く船酔いしなかったので大喜びです。【参考写真:ピットロード・プラモデル箱絵】

「秘伝の特効薬」に興味をもたれた方も多いでしょう?その「秘伝の特効薬」とは、気管支喘息や尿失禁の治療薬で有名な「スピロペント」です。なぜ気管支喘息の治療薬が「酔い止め」として効くのでしょう?
私が小学生から悩んでいた「乗り物酔い」について、医師になってから、病態生理をいろいろ考えました。そこで思い付いたのです。乗り物酔いは単なる「めまい」ではない!だから、「抗めまい薬」の効果が十分に得られないのだ!と。
ここで「乗り物酔い」をした時の症状を列挙してみましょう。
【1】吐き気がする。
【2】吐く。
【3】お腹がグルグル音と鳴る。
【4】便意を催す。
【5】下痢をする。
【6】顔面蒼白になる。
【7】冷や汗をかく。
【8】めまいがする。
【9】血圧が下がる。
【10】脈が速くなる。
列挙すれば、大体こんなもんでしょう。
Yoidome
これらの症状はプレショック症状です。つまり、「乗り物酔い」は、ある意味「ショック状態」なのです。「ショック状態」は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて、交感神経が立ち直れない時の症状です。
ヒトは、歩行中に常に変化する重心移動に対して、視覚・三半規管・足底深部知覚の3要素を情報源として、歩行中の重心をコントロールしています。ところが、車や船に乗っている際には座っているので、足底の深部知覚情報だけが乗り物の動きと一致しません。乗り物に乗っている際の視覚・三半規管からの情報は、常に目まぐるしく変化しているにも関わらず、足底からの情報は、ほとんど変化しないために情報が不完全で脳中枢が混乱します。
その状態はある意味、緊急事態ですから、交感神経はその対応に追われ緊張・興奮します。常にペアで対応する副交感神経も緊張・興奮しバランスを確保します。その状態が長時間繰り返し起きるため交感神経は次第に疲弊した結果、緊張が一気に低下し、副交感神経が極端に優位になります。そのアンバランスがプレショック状態になるのです。それが「乗り物酔い」です。
気管支喘息や尿失禁の治療薬である「スピロペント」は交感神経を長時間興奮させます。乗り物に乗る前に、「スピロペント」を服用しておけば、交感神経が常に興奮状態にあり、「ショック状態=乗り物酔い」にならないのです。ただし副作用があります。交感神経が興奮状態にあるため、目がパッチリ覚めて眠れないことがあります。海上自衛隊の患者さんも眠れなかったそうです。

「スピロペント」には厚労省の承認の薬効上「乗り物酔い」の適応がありませんから、医師の裁量で患者さんに処方していただければ、「乗り物酔い」で悩み苦しんでいた患者さんは大喜びです。

客船の乗客が船酔いした時には、「デッキを歩いてください」と船員に指導されます。経験上の知識なのでしょうが、理由は理解できます。歩くことで、足の裏の深部知覚が目覚め、重心のバランスが回復するからです。


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医療サイトの投稿原稿#5「太古の医師の地位」

Sekihi
世界最古の法典であるハンムラビ法典(目には目を歯には歯をで有名)は紀元前1792年(3810年前)にメソポタミア文明バビロン国のハンムラビ王によって作られたものです。
【写真:ハンムラビ法典の石碑】
そのハンムラビ法典の石碑には、古代とは思えない、とても具体的な内容の条文が刻まれています。280条からなるこの法律は国民を宗教と正義によって護り統治するために作られたとされています。超古代において、これほど強い意志を持って創られた事実に感嘆します。

さて、このハンムラビ法典の215条~223条に医療に関する条文の記載があります。
●215条:「医師がケガ人をメスで手術した時には、10シェケルの銀を治療費として請求できる」
バビロン一般市民が大麦畑の収穫で1日一生懸命に働いて日当が1シェケル銀といいますから、今の貨幣価値に換算すると1シェケル=8千円くらいでしょうか?
それから計算すると、法典に記載されている医師の報酬の10シェケル=8万円くらいの金額になります。現在の日本の保険診療では、オデキの切開排膿が、初診料込みで保険点数752点、三割負担で2260円ですから、かなり高額な治療費を請求することになります。
ところが、
●218条:「医師がケガ人をメスで手術したが死なせた時には医師の手を切る!」
という条文があります。
医師は患者さんを死なせると2度と仕事が出来なくなるというものです。現在でこの法律が適用されたら、外科医を志す医師はいなくなるでしょう。最近問題になった腹腔鏡手術で患者さんを何人も死なせた外科医は、手足がなくなってしまうでしょう。
バビロンの支配階級であった貴族や武士が戦いに負けて失敗しても、そのような罰則はありません。当時の医師という職業は高給取りですが、社会的地位はとても低かったと思われます。いわゆる今で言う「3K(きたない・きつい・きけん)」の仕事の一つだったのでしょう。
病気や怪我人を治す医師の仕事は、客観的に見れば確かに危険で汚い仕事です。
伝染病の患者さんを診れば感染の危険があります。血だらけの怪我人の傷を縫合する現場を見れば、高貴な貴族・支配階級・英雄が一生をかけて行う仕事には見えないでしょう。

医師の職業としての確立は、世界中さまざまな起源があります。しかし、ほとんどに共通することは、太古の昔では宗教と医療とは密接な関係にありました。
呪い師(まじないし)や預言者などは、それが現在でも有効であるか否かは別として、かなりの医学知識と治療手段を持っていました。キリストはその短い人生の布教期間中に、いろいろな病人を治療したことが「奇跡」として聖書に記載されています。弘法大師空海が創設した真言密教では、病気治療のための法術や護摩焚きなどの秘術があります。チベットでは医師になるために、現在でも僧侶の資格を得てからではないと医師の勉強ができません。
私的見解ですが、争いが絶えなかった古代世界で、病人や怪我人を治すのがとても上手な奴隷を支配階級が重用し、身分を保障したのが医師という存在の初まりではないかと私は思っています。医師は古代において決して不動の特権階級ではなかったことを『肝に銘じ』て、目の前で苦しむ患者さんの診療に誠心誠意励まなければなりません。

【参考】ハンムラビ法典 飯島紀著 国際語学社

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