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間質性膀胱炎で苦しむ患者さん

北海道から来院された30代のご婦人です。「間質性膀胱炎」と診断されて、今までに4回も「膀胱水圧拡張術」を受けたのです。しかし、症状は全く治らず、逆にひどくなったのです。

この患者さんの症状は、毎日40回と夜間5回の頻尿と、下腹部痛(膀胱痛)でした。経過の中で頻尿の改善のために、バルーンカテーテルを留置されたのですが、尿意が止まらず、さらにカテーテルの周囲から尿漏れ状態で苦しんでいました。自殺も考えていたのです。


4軒の病院の担当の医師たちに相談しても「他に治す方法がない」と言われたのでした。そこで、ご主人がインターネットで探しまくって、高橋クリニックを見つけたのです。

Ic37149f355pp エコー検査では、予想通りに膀胱三角部が厚くなっていました。膀胱排尿筋が膀胱出口に向かっていなく(白い→)、相対的に膀胱三角部が厚く(赤い↔)なっています。これは、排尿機能障害が原因の結果です。そこで強目のα1ブロッカーとβ3作動薬を処方しましたが、なかなか改善しません。患者さんはどうしても手術をして欲しいと懇願したのです。しかし、手術をしても確実に治る訳ではありません。


Ic37149f353 どうしても手術を希望されたので、12月24日のクリスマス・イブの日に内視鏡手術を行いました。

そこら中の膀胱粘膜に白苔変性が散見されました。赤い部分が正常に近い膀胱粘膜で、白い綿のように見えるのが白苔(はくたい・白いコケの様)です。膀胱バルーンカテーテルの留置期間が長かったためか、4回もの無理な膀胱水圧拡張術の後遺症です。膀胱が過敏な病気なのに、膀胱を傷だらけにする治療は如何なものでしよか?


Ic37149f35 次に膀胱出口を観察すると一見正常ですが、少し狭く見えます。そして完全な円形ではなく、歪(いびつ)な形状です。さらによく見ると、いわゆる「炎症性ポリープ」が確認できました。

Ic37149f352 膀胱出口が十分に開かないで排尿するために、尿流がジェット流になります。流体力学の「ベルヌーイの法則」で、液体の流れが速くなればなるほど周囲の圧力は低下するのです。その結果、膀胱出口の粘膜に極端な陰圧がかかり、粘膜が膨らみ炎症性ポリープと診断されるのです。また膀胱出口自体にも陰圧がかかり、反射的に膀胱括約筋が緊張し続けるので、膀胱出口は次第に硬くなるのです。「炎症性」とは、原因を追求もなしで名付けた理由のない病名です。


D2176b6cb23847f0a515d70f9cb53a30 仙骨ブロックでの手術ですから、筋肉はある程度の動きが可能です。患者さんに腹圧をかけて排尿動作を試みてもらいます。本来ならば、息んだ時には膀胱出口が開くのですが、この患者さんは全く不動で開きませんでした。つまり小さな出口のままで排尿するので、ジェット流になるのです。膀胱括約筋と膀胱排尿筋(膀胱縦走筋)とのバランスが乱れて開かないでのです。つまり膀胱括約筋が弛緩しないで緊張したままなので、開かないでのです。結果、この患者さんは膀胱頸部硬化症・膀胱出口閉塞症だということが判明したのです。

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膀胱出口の6時の方向を十分にTURis蒸散切開しました。膀胱三角部の延長線の終末が膀胱出口6時の位置を通って、尿道内まで及んでいるのです。頻尿・残尿感の主な情報発生場所が膀胱三角部ですから、この場所を可及的に切開するべきです。さらに膀胱内の膀胱三角部まで蒸散切開しました。次に膀胱出口の12時の方向も蒸散切開をします。膀胱出口の12時は膀胱括約筋が一番厚くなっている部分だからです。しかし左右対称に切開すると、もともとの形状に戻るので、時間が経過すると、手術前と同じになる可能性があります。それを避けるために、チョッと工夫して左右非対称にします。

翌日、バルーンカテーテルを抜去しました。術後3日目に症状の変化をお聞きすると、頻尿が40回→20回の半分に減少し、夜間頻尿は何とゼロになったのです。ご主人は「妻がイビキをかいて寝ていました」と報告して頂きました。良かった!

Da35234896b04ca0abd558ed47dde237 北海道に帰られる日に、正月に患者さんにお渡しする干支の土鈴人形を差し上げました。すると来年がご自分の干支なので喜んでおられました。これを御守りにして、新たな人生を始めますとおっしゃっていました。

膀胱が小さくなって行く原因を「間質性」と顕微鏡検査の原因不明の見た目だけの病名を付けて、膀胱を無理矢理と膨らませるのは、どう考えても臓器障害の非科学的な行為です。短絡的発想の著名な泌尿器科医が考えた術式でしょう。何かの原因で胃袋が小さくなって食欲がない患者さんに、胃袋を無理矢理と膨らませる治療が正しいでしょうか?

医師は病気(病名)だけを診るのではなく、患者さんの本質を診なければならないのです。慈恵医大創設者の高木兼寛先生のお言葉です。患者さんは千差万別です。それを限られた病名でいくつかにしか分別しないのは、間違いです。

 

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コメント

お世話になっております。

全くの素人考えでふと思いついたのですが、三角部や頸部の手術の際に組織を採取しておき、生体検査?などで各種受容体の分布を調べたら、どの薬がその人に最適か判明したり、しないでしょうか?
【回答】
手術する時点で、いろいろ工夫したお薬の効果が得られないからです。
受容体の精密検査は、高額な検査です。」

先生がよく話されているユリーフやフリバスが作用する受容体というのは、場所や比率?が一生ほとんど変わらないものなのか気になり、書き込みしてみました。
【回答】
受容体は、変化に応じて体が新たな受容体を作るので、過去の受容体の分布が常に一定ではありません。

投稿: イノマタ | 2020/01/13 19:47

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