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前立腺ガンの手術後の腹痛

平成27年頃から右の下腹部の痛みがあり、大学病院で検査を受けたら、PSA値が高く針生検をしたら前立腺ガンが見つかりました。その結果、平成28年に前立腺の全摘手術を行ったのです。

しかし、その後も右の下腹部の痛みは無くならずに困っていました。たまたま私の新書を読み、当院に横浜からお越しになりました。年齢は70歳です。

Pcaop37383m70pp 早速、エコー検査を行いました。前立腺は当然ありませんから、所見は普通ではありません。しかし、この所見から推察できることがあります。この写真は膀胱出口の側面像です。膀胱排尿筋が膀胱出口ではない間違った方向に向いています。そのために膀胱三角部が全体的に厚いです。この所見から、手術前より、この患者さんには強い排尿機能障害があったのだろうと推察できます。

Pcaop37383m702pp 次に膀胱の正面像です。膀胱三角部が台地のように盛り上がっています。そして膀胱三角部の粘膜の硬化像も確認できます。粘膜の硬化像は、膀胱出口が十分に開かないで排尿するために、膀胱出口周辺が振動するから硬くなるのです。さらに画面の左端に凸凹が確認できますね。これは肉柱形成です。長期間に渡って排尿機能障害があると、膀胱に負担がかかり、膀胱壁の筋肉のあるところとないところが著しく目立つために起きる所見です。

以上のことから、推理できるのは、次の通りです。以前から排尿障害があつたのです。通常であれば頻尿症状になるはずです。しかしながら、この患者さんは1日の排尿回数は7回〜8回くらいしかありませんでした。体は、この状態を警告するために関連痛=右の下腹部の痛みになったのです。この患者さんの経過は、過剰診断で過剰診療だった可能性が大です。

排尿障害があると、排尿時の膀胱からの圧力が前立腺にかかるのです。そのために前立腺からPSAが滲み出て、PSA値が高くなり、前立腺ガンを疑われてしまったのです。針生検でたまたまラテント癌が見つかり、そして前立腺の全摘手術をされたのです。

前立腺の全摘手術は、前立腺を全部取り除き、膀胱と尿道を吻合するのです。しかし、その際に過敏だった膀胱三角部を残したのです。さらに膀胱と尿道を吻合縫合する時に、膀胱三角部に縫合糸が刺さって傷になります。その傷が膀胱三角部を刺激しますから、当然、再び関連痛=右の下腹部の関連痛がです。

以上の証拠から、膀胱三角部の興奮を鎮めるためにαブロッカー(ユリーフ・シロドシン)とβ作動薬(ベオーバ・ベタニス)を処方しました。すると、1ヶ月後には、それまで悩んでいた右の下腹部の痛みが、面積が小さくなり、痛みの程度も下がったのです。さらに排尿回数も8回から6回に減りました。患者さんは不思議がっています。そして、頻尿でもないのに、何故、過活動膀胱のクスリを飲まなければいけないのですか?と質問されました。…前回お話ししたのに、理解してくれていないのです。…(ー ー;)改めて説明しました。排尿機能障害→膀胱三角部の興奮→頻尿情報→脊髄神経回路→痛み症状に差し替えられた。要するに、患者さんの個性で頻尿ではなく、痛み症状にすり替えられているのです。ですから、過活動膀胱のクスリを止めると、また痛み症状が戻りますよ。真剣に説明しているのに、一般の医師と同じに、治らない常識的な知識しか理解してくれないのです。…ガッカリ。

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