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いろいろな患者さん#5

ある年の4月7日(土)朝、いつもの静かな診療が始まる筈でした。…以前ご近所に住んでいた患者さんのご家族の6歳のお子さんが、お腹が痛いので来院しました。先日、東京の馬込から千葉に引越しをしたのですが、昨日の朝からお腹が痛くなりました。引越し先の千葉の開業医に診せたところ、風邪の急性腸炎の診断でお薬をもらいました。しかし、今朝になっても痛みは変わらないので、「高橋先生でなきゃダメだ!」と言って、わざわざ東京の私のクリニックに両親がお子さんを連れてきたのです。

お子さんを見た瞬間、「影が薄い!」のです。6歳というエネルギーが溢れている筈のお子さんが、白く見えるのです。これは一大事です。

 

0611fe7fae2d48d48648b0de8bcf0903 まずは、お腹を拝見しました。お腹がボディビルダーのようなシックスパッドなのです。カッチンコッチンのまるで木の板です。これは腹膜炎の筋性防御の所見です。お臍から下の下腹部を痛がっています。軽くお腹を押すと痛がります。これを圧痛tendenessといいます。臓器の直接の痛みを意味します。左右の下腹部も痛がっています。

次に、圧迫しながら、突然手をパッと離します。その時に出現する痛みを反跳痛rebound tendernessといいます。腹膜炎を意味します。左側に反跳痛が出現しました。虫垂炎であれば、右側の圧痛と反跳痛が著しい筈ですから、それ以外の炎症疾患を疑います。

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次に、超音波エコー検査を行ないます。すると、写真のような、異常に拡張した小腸と腹水を確認しました。あきらかな腸閉塞の所見で、腹水が貯留していることから、かなり時間が経過していることがうかがえます。昨日のお腹の痛みは、腸閉塞の痛みであることが想像できます。小児は予備力がない(キャパが少ない)ので、急性の病気を見つけたら急を要します。大田区蒲田に定期的に通院していた病院があるというので、紹介状を書き、直ぐに車で行ってもらいました。

後日、父親から電話連絡がありました。病院の外科は、私が持参させた「腸閉塞」という紹介状があるにも関わらず、失礼にもそれを誤診と思い、「虫垂炎」の腹膜炎を疑って、緊急手術になりました。虫垂炎の切開後、腸閉塞と分かり、改めて腹部正中切開という二度手間をやらかし、5時間に及ぶ開腹手術になったそうです。結果は予想通り、腸捻転が原因の腸閉塞でした。お子さんは無事だとのこと。開業医としては、それが何よりです。私が誤診をした最初の医師でなかったことは幸運に過ぎません。神様は医師に誤診させるよう、様々な罠を仕掛けるのです。簡単に診断できる時は要注意です。丁寧に論理的に診察して、診断を組み立てなければなりません。

その後、お子さんは無事に退院して、両親に連れられ元気に挨拶に来られました。影の薄さは消え、元気なお子さんになっていました。実は、腸捻転の原因が腫瘍だったとお父さんから聞いていました。病理結果が出るまで2週間かかるということでした。その結果は、…良性腫瘍だったそうです!心から良かった!

 

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コメント

高橋先生
絞扼性イレウスの診断は難しいですね。私の経験ですが、一般病院に勤めていた20年前のことです。20歳半ばの男性が腹痛を主訴にして、内科を受診し、循環器の専門の医師から消化器外科の医師に院内紹介され、CT、血液検査等を受けて、特に重大な疾患が指摘がないということで急性胃粘膜病変とされ、ガスターが処方され受付で会計をされていたようですが、痛みで床に転げ回っている、との事で上司から私に主治医になって入院させなさいと指示を受けました。消化器系の心療内科もやっていたので心の問題も鑑別しろという事かって思って診察したんですが、お腹も柔らかく腹膜刺激症状もない状況でした。何人もベテランと思われる医師が診察しているので、心理的な問題の可能性もありうるかもしれないと考えて、社会的背景も周りの人達から聞かないといけないと思い、次の日となりました。
午前中、外来があったので、早目に出勤して当直医に昨夜の様子を聞くと、痛み止めで静かであったとの事でした。患者さんに会いに行くと昨日と打って変わって穏やかな感じです。しかし、お腹を見ると少し膨れていました。嫌な予感がして、超音波検査してみました。すると、腹水が結構貯留しているではありませんか。大慌てで消化器外科医に連絡し、緊急手術となりました。私もオペ室に入り、見ていましたが、開腹すると血性腹水で、小腸が捻転を起こし、壊死していました。20年経った今でも4メートル29センチ小腸を切除したという事が忘れられません。短腸症候群になっていなければ良いのですが。絞扼性イレウスの超早期では積極的所見がでないというトラップがあると思いました。所見がなくても、尋常でない痛みを訴える急性腹症では造影CTは必須と感じています。
一般的な話しになりますが、所見がない時、心理的な方に持っていきたがる医師が結構いますが、その前に、まだ解明されていない疾病や病態があるかもしれないという謙虚な姿勢が必要ではないかと感じます。患者さんを直接診て、嫌な予感がするのも大事ですね。高橋先生のように影が薄く見えると更に良いのでしょうが、これだけは天賦の才としか思えないので、諦めます。(笑)

投稿: 大塚 | 2019/11/10 11:34

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