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いろいろな患者さん#19 難治性の間質性膀胱炎

2007年の今から12年前の間質性膀胱炎・陰部疼痛症の女性患者のKさんお話しです。間質性膀胱炎・陰部疼痛症は排尿機能障害と膀胱三角部の過敏さが作る病気です。

Kさんは、間質性膀胱炎の診断を受けるまで大学病院を含め4箇所以上の医療機関で治療を受けましたが治らずに、高橋クリニックへ来院した患者さんです。尿が少したまるだけで下半身の強烈な痛みと1回の尿量が100ml、1時間に1回の頻尿、夜間3回の頻尿状態でした。

頻尿症状は子宮筋腫が原因と診断した、ある病院の婦人科で子宮摘出手術までされました。まだお子さんがいなかったのに関わらず、苦渋の選択でした。しかし婦人科の手術後、頻尿の他に痛みがさらに強く出現するようになり、婦人科執刀医に相談したのですが、「あっそうですか。」としか言われなかったのです。……無責任な医師ですね!

そのKさんの強い希望で、平成17年11月に内視鏡手術を行ないました。手術後、頻尿が2時間に1回、夜間が2回にまで減少しましたが、……症状は不安定でした。次第に痛みが再発し増強したため、2度目の内視鏡手術を平成18年1月に行なったのです。

956554bed0214df09a3102d0d38aa9d9 その後、半年間は来院されなかったので心配していました。翌年の7月ある日、突然来院されました「心配していましたよ。どうしてたの?」と質問すると、とっても具合が良かったとのこと。あの毎日の強い下半身の痛みがほとんどなくなり、好きなテニスをガンガンとこなし、たくさんの試合に参加して上位入賞を果たしていたのでした。2週間に1日か2日の頻度で痛みの出ることはありましたが、ほどなく治まるので様子をみていたとのことでした。ところが、平成18年の7月になり痛みが出現、この3日間治まらず、遂に観念して高橋クリニックを再び訪れたのでした。

さて、こうなると痛みのコントロールが難しくなるのです。過去に内視鏡手術を行なって、過敏な膀胱三角部を治療(センサーの破壊)しても、長年の病気で形成された脊髄神経回路の痛みのソフトウェアは絶対に消えないのです。落着いていた時に、膀胱三角部の信号が、その脊髄内のソフトウエアーを起動しないように心掛けていないといけません。ソフトウェアーは起動したくてしたくて仕方がありません。どんなささいな信号でもソフトの起動に結び付けようとします。一度結び付けられると、それを外すのが難しいのです。

手がない訳ではありません。デパスなどの自律神経調節剤の服用や神経ブロックを小まめに行なうことで、外すことが可能と考えています。今だとトラムセットで治療できますが、当時はまだ販売されていませんでした。

そこで7月13日(金)に仙骨神経ブロックを行ないました。翌日に来院されないので落着いているなと喜んでいたら、その日の夜に再び痛み出し、夜の午後10時にご主人の車で来院されました。仙骨神経ブロックを行なうと、激しい激痛が10分ほどで治まり、笑顔で帰宅できるようになります。さぁこうなると、Kさんの脊髄内ソフトとの持久戦です。どちらかが音を上げるまでの勝負です。Kさんは、昨日に引き続き、翌日の22時にも来院され、仙骨神経ブロックを受け、直ぐにお帰りになりました。やはりご主人が自家用車で送迎です。愛されていますネ。この仕事は、根気と忍耐と、たゆまぬ努力です。このような仕事を天命として私に授けていただき、神様に感謝します。

結局、Kさんの痛みはますます強くなり、毎日の仙骨神経ブロックでも12時間ほど位しか痛みを管理できなくなりました。横浜の地元のペインクリニックに依頼したのですが、私ほど上手くはいかなかったのです。本人の希望もあり、7月19日の朝9時に3回目の緊急手術になりました。手術のための麻酔がどういう訳か十分に効かずに、膀胱の刺激で陰部痛のどこが痛がっているのかが判明しました。ある意味ラッキーです。患者さんのご協力で、その痛い個所を電気メスで入念に切開・凝固を行ないました。まるで私は「サド侯爵」です。

手術は無事に終わり、午前11時には帰宅です。Kさんのテニス仲間が4人もお見舞いに来院し、狭い待合室は大騒ぎです。聞こえてくる会話からは、これから昼食でも一緒にという雰囲気です。『緊急手術の後なのになぁ・・・_| ̄|○。』

さてさて、手術の結果、痛みは嘘のように軽減しました。7月21日、Kさん曰く、100%の痛みが1~2%前後になったそうです。毎日行なっていた仙骨神経ブロックは手術後一回も行なっていません。肩の荷が下り、ヤレヤレです。

その後12年以上経過していますが、半年〜1年に1回来院されて、現状を報告されています。落ち着いていて、私としてもとても安心です。

 

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