« 膀胱三角部から見た二足歩行と四足歩行 | トップページ | 勉強会 »

去勢抵抗性前立腺ガンCRPCの対応

前立腺ガンの一般的な治療は、男性ホルモンを徹底的に抑えるホルモン治療です。通常、脳下垂体から下垂体前葉を刺激するLHRHホルモン関連(アゴニスト・アンタゴニスト)を注射するのです。すると、次第に睾丸が刺激ホルモンに対して抵抗を示し男性ホルモンを作らなくなります。結果、男性ホルモンがほぼゼロになるのです。

前立腺ガンは、男性ホルモンに依存して増殖しますから、男性ホルモンがゼロだと、ガン細胞は次々に死滅していきます。……しかしながら、この治療を5年ほど続けると、ガン細胞にも新しいアイデアが湧くのです。『そうだ!巡って来る男性ホルモンをじっと待って頼らないで、自分で男性ホルモンを作ればいいんだ!』とガン細胞が自らの力で男性ホルモンを作るのです。

それが、去勢抵抗性前立腺ガンなのです。では、このような状況にならないように治療すればいいのです。現在の治療は、徹底的にガン細胞を殺そうとするからいけないのです。

Cell2

細胞は一般的に細胞周期と言われる時期があり、細胞分裂の時期は細胞周期の5分の1つまり20%になります。がん細胞は分裂を繰り返せば繰り返すほど、突然変異して悪性度が増加するのです。しかし、その分裂時期がガン細胞にとっては恐らく弱点の時期です。抗がん剤やホルモン剤が届きやすいのは、毛細血管に接しているガンのそ外側表面に位置するガン細胞です。ですから、1日1回の抗がん剤投与で、表面に位置するガン細胞が20%の分裂期の細胞だけ死滅するでしょう。この程度の死滅量であれば、深部に位置するガン細胞たちは気がつかないので、悪性度が増加する機会を防ぐことになります。

Cellmass 前立腺ガンの細胞分裂は、文献的には45日に1回のペースです。ですから、少なくても45日に1回の投与でガン細胞に気付かれなくガン細胞の増加は抑えられるでしょう。しかし、それではガンを小さくすることは出来ませんから、投与頻度を上げればいいのです。30日に1回、14日に1回、7日に1回と投与すれば、ガンに気付かれずにガンは確実に小さくなります。そこで実際にガンが小さい患者さんには2週間に1回、ガンの体積の大きい患者さんには1週間に1回、クスリを投与すると確実に小さくなります。病状が落ち着いてきた患者さんには1ヶ月に1回1カプセルの方もおられます。

一般的に前立腺ガンの治療は、男性ホルモンをブロック抑えるクスリが使用されています。確かに男性ホルモンに依存する前立腺ガンは、ブロックされることで死滅します。しかし、生き残った男性ホルモンの依存度の高い前立腺ガンは、『イライラ💢、……何とかしなければならない!』と思うに決まっています。それが、前立腺ガン自らが男性ホルモンを作る去勢抵抗性前立腺ガンの由来なのです。

そこで、男性ホルモンをブロックしないで、そのままにして前立腺ガンにダメージを与えるクスリを使用すればいいのです。それが、女性ホルモンと抗がん剤の合剤である「エストラサイト」なのです。女性ホルモンの受容体=レセプター=スイッチは前立腺ガン細胞の表面にも存在します。女性ホルモンがガン細胞の表面に接すると、レセプターを介してガン細胞内に侵入してガン細胞にダメージを与えるのです。抗がん剤も同様です。男性ホルモンをブロックすることで、ガン細胞に飢餓感を与えずに死滅できるので、去勢抵抗性前立腺ガンを作る余裕をなくすことができます。

通常エストラサイトは、毎日4カプセル投与ですが、それを私は1週間〜2週間に1回1カプセルしか処方しません。正式投与量の1/28〜1/56です。それでもガンは確実に小さくなります。また投与量が極端に少ないので、クスリの副作用もわずかです。一石二鳥です。もちろん作用は正式投与量に比較すれば、速度は遅いですが、副作用は極端に少なく去勢抵抗性前立腺ガンの発生も遅延します。

前立腺ガンに効果のある抗がん剤を発見して、有効血中濃度を決め投与することは間違ってはいません。しかし、その発想工程はガン細胞の生き物としての個性を無視して物として扱っています。ガン細胞は人間の細胞で出来ている訳ですから、患者さんが頑固であれば、ガン細胞も頑固に決まっています。クドければ細胞もクドい、研究熱心であれば細胞も研究熱心、短気であれば細胞も短気に決まっています。患者さんの個性を見ることで治療法をより繊細に対処しなければなりません。

これほど工夫しても、患者さんによっては去勢抵抗性前立腺ガンになるのです。その場合は、治療薬を工夫して、イクスタンジを選択します。 イクスタンジは前立腺ガン細胞内で作られた男性ホルモンをブロックする作用があるのです。前立腺肥大症の治療薬であるプロスタールで治る患者さんもおられます。

【備考】内容についてのご質問やご相談は、コメントもしくはお電話(03-3771-8000午前中のみ)でご連絡ください。

|

« 膀胱三角部から見た二足歩行と四足歩行 | トップページ | 勉強会 »

コメント

いつも先生には大変お世話になっております。名古屋の内科医です。先日○○輝彦さんが亡くなられましたが、
2011年にオペし、2017年に再発、最新のPSMA治療も受けられたのに・・・
ほかのがんは5年もたてば治癒と判断されますが、6年で再発してしまった原因また今後導入されるであろうPSMA治療についてご意見いただけると嬉しいです。
回答 ガン免疫治療したからと言っても完全ではないでしょう。ガン細胞の一部が、外面を正常の細胞に近い状態にして、免疫細胞をダマスのでしょう。

投稿: 平松幸治 | 2023/02/04 13:01

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 膀胱三角部から見た二足歩行と四足歩行 | トップページ | 勉強会 »