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七転び八起き#4

泌尿器科教室で、その日に撮影した全ての腎臓・尿管・膀胱の造影剤レントゲン写真をカルテにスケッチして、記録します。先輩の先生たちに確認して頂き、評価を得ます。風景画のように適当な印象で描くと笑われて注意されました。腰椎の何番目に腎臓があるのか正確に描かなければなりません。

泌尿器科の基本手術は、包茎手術とパイプカットです。研修医の頃は助教授や講師の先生から何度も指導を受けました。とても上手い先生もいれば、下手な先生います。どちらも勉強になりました。その後、あらゆる手術の第二助手を務めました。当時は今のように内視鏡手術が多くなく、開腹手術が多かったのです。短い手術で2時間くらい、長い手術で5〜6時間かかります。その間、集中しますから、段々と疲れてきます。特に昼食後の午後からの手術は、疲れが眠気に変わるので、私も含め先輩の先生たちも手術中に居眠りをしてしまい、執刀医の教授・助教授・講師から怒鳴られることもしばしばでした。

研修医の2年間の間に半年だけ他の科に勉強してもよいので、私は麻酔科に研修で行きました。呼吸器外科、消化器外科、形成外科、整形外科、心臓外科、脳神経外科手術の麻酔に関わりました。

ある日ビックリしたことがありました。整形外科の手のガングリオン手術に立会いました。そしたら手術を受ける患者さんが、何と前の彼女だったのです。麻酔科医として慎重に立会い、手術中に『頑張れ〜!』という思いで反対の手を握ってあげました。安心できたかなぁ?

麻酔科の期間に同級生の内科の宇都宮先生も参加していました。内科の研修医で麻酔科を廻るのは珍しいのですが、後に彼は糖尿病内科の主任教授になりました。人とチョッと違う人は、いい意味で化けるのですね。

研修医が終了して3年後頃チーフレジデントになりました。その間に大学病院・関連病院(新橋本院・青戸病院・第三病院・県立厚木病院・佼成病院)で修行しました。チーフレジデントは病棟の責任助手です。朝、教授室に行き、教授に当日の入院患者さんと予定手術を報告します。教授回診の際には、全ての入院患者さんの状況を教授にカルテを見ないで説明しなければなりません。回診が終われば、ナースステーションで患者さんの当日の記録、教授のアドバイスを記憶を絞り出して記録するのです。教授・助教授・講師の手術のすべて第一助手として手術に関わります。

チーフレジデントの時のエピソードをご紹介します。ある代議士さんが膀胱腫瘍(膀胱ガン)で血尿が止まりませんでした。教授からの命令で急きょ手術をすることになりました。緊急手術は大変なのです。何故大変かと言うと、手術室の確保、手術スタッフの要請、麻酔科への依頼をして、許可が得られて初めて手術ができるのです。手術室の婦長さんにはいつも頭を垂れ、手術室の看護婦さんたちには日頃オヤツを差し入れ、麻酔科には半年間所属していたので、容易に緊急手術を受け入れてくれるのです。

A877afef5a8e43a6ba61d30c59f94339 無事に手術が開始で、開腹し膀胱を開けて、比較的大きな(直径3センチ)膀胱腫瘍を確認しました。膀胱の壁ごと膀胱腫瘍を切除しました。切除跡を縫合して、膀胱と腹部を閉じて手術を終えました……ところが、膀胱留置カテーテルを通して膀胱を洗浄すると……!!!真っ赤です。血液そのものです。教授は「大丈夫、大丈夫」と言って手術室から出ようとしています。『え〜!』と思い麻酔科の先輩の先生と目が合ったら、『何とかしろ!高橋!』と目で訴えているのです。夜間に緊急再手術になれば、当直の麻酔科の先生が呼ばれてしまうのです。単なる助手の私が勇気を出して「教授!お願いします。もう一度開けて止血をお願いします!教授!本当にお願いします!」……教授は「高橋、臆病だなぁ〜、仕方がないな〜。じゃあやるか〜。」そしてもう一度開腹して膀胱を開けたら、切除跡の縫合部から動脈性の出血がビュービュー吹いています。止血縫合したら、出血はピタッと止まりました。『ほ〜⤵︎』「ん?たまには高橋の言うことも聞くもんだな」と言って教授は手術室を出て行かれました。世界的にも有名な町田教授の名誉を守ることができ、部下としては義務を果たせたと思いました。

手術は終わり、患者さんは無事に病室に戻りました。私はオペルームのナースステーションでひと休みしました。ところが、この後、驚くべきことを経験したのです。(つづく)

 

 

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