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医療サイトの投稿原稿♯14 「尖圭コンジローマと誤診されたご夫人」

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この写真は、尖圭コンジローマの患者さんから採取した組織を位相差顕微鏡で観察した画像です。
尖圭コンジローマの特徴的な組織所見として、空胞細胞:コイロサイトーシスがあります。写真のように、様々な空胞細胞が観察できます。

「尖圭コンジローマ」と他の医療機関で診断されたご婦人の多くが、身に覚えがなく、いろいろ悩んだ末にお越しになります。私が再検査すると9割の患者さんが「膣前庭乳頭症」でした。
「尖圭コンジローマ」は、ヒトパピローマウィルス:HPVの感染による性行為感染症の「イボ」です。いわゆる性病、性行為感染症です。
「膣前庭乳頭症」は、膣の細胞が何らかの原因で、外陰部の皮膚から芽が出て来た状態です。中年以降のご婦人が久しぶりに性行為をすると、外陰部に微細な傷ができ、その傷に膣細胞が自家移植されたのが原因と思われます。異所性膣細胞乳頭症と言うべき病態です。

ほとんどの患者さんが、病理組織検査の結果、ヒトパピローマウィルスHPVの感染細胞であるコイロサイトーシス(空胞細胞症)の発見を根拠に、尖圭コンジローマと診断されています。
患者さんの多くが、婦人科の医師に「肉眼的には違うと思うけれど、念のために組織を調べましょう。」と言われ病理検査に出すと、結果が出て、「残念ながら、コイロサイトーシスが発見されたので尖圭コンジローマでした。」と診断されています。
ここに病理学の専門医の誤診があるのです。その原因が空胞細胞=尖圭コンジローマというワンパターン認識です。

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この顕微鏡写真は尖圭コンジローマのコイロサイトーシス空胞細胞です。空胞に見える部分にHPVウィルスがパンパンに充填されています。その他の特徴としては、細胞内の核がとても歪(いびつ)に変形しています。また、核を中心にした車輪のように見えます。
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この顕微鏡写真は膣前庭乳頭症の空砲細胞です。空胞に見える部分に膣内の乳酸菌を育てるためのグリコーゲンがパンパンに詰まっています。その他の特徴としては、細胞内の核が小さく丸くなっています。
どちらの空胞細胞も、一見して同じように見えるので、病理学の専門医が、膣前庭乳頭症の空胞細胞を尖圭コンジローマのコイロサイトーシスと誤診してしまうのです。

それぞれの空胞細胞の発生過程・工程をイラストにして示しました。
上の列が、膣前庭乳頭症、下の列が尖圭コンジローマです。
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【膣前庭乳頭症の病理組織像の観察所見】
①外陰部の扁平上皮に自家移植された膣組織は、次第に成長し大きくなります。
②膣組織の基底細胞は、膣の常在菌である乳酸菌(デーデラン桿菌群)を飼育するために、グリコーゲンを作る細胞です。膣細胞内の核が活発になり、細胞内にグリコーゲンを作ります。
③作られたグリコーゲンは細胞内で空胞として観察できます。その姿が、尖圭コンジローマのコイロサイトーシス空胞細胞症と誤診されるのです。違う点は、グリコーゲンを作り終えた核が変形せずに、相似的に小さく(廃用性萎縮)なるだけです。
④グリコーゲンは細胞内でタップリ蓄えられ完全な空胞細胞になります。核は、細胞端で扁平になるか消失します。
⑤顕微鏡の同一視野の中に、これらの成熟過程の時間的流れが確認できたら、膣前庭乳頭症です。

【尖圭コンジローマの病理組織像の観察所見】
❶HPVウィルスが、皮膚の扁平上皮の基底細胞に感染します。
❷ウィルスは、細胞の核に侵入して、ウィルスを合成します。
❸合成されたウィルスは、核の外に放出されます。それが、空胞に見えます。これをコイロサイトーシス空胞細胞症と呼び、HPVウィルス感染の特徴的な細胞です。
❹細胞内でウィルスの詰まった空胞部分が次第に大きくなります。自然な成熟現象ではないので、本来の細胞構造の想定外の形状変化を受けます。核は、細胞膜といくつかの支持組織で宙に浮いた状態です。その複数の支持組織で区画されたスペースに、無理やりウィルスが充填されるので、核はイビツに変形し、細胞の奥の片隅に追いやられて、空胞細胞の完成型が出来上がります。
❺顕微鏡の同一視野の中に、これらの時間的流れが確認できたら、尖圭コンジローマです。

それぞれの空胞細胞の発生過程を勉強すれば、空胞細胞の微妙な違いが明確に分かりますよね?パターン認識の空胞細胞=コイロサイトーシスという思い込みが誤診を招き、患者さんを悩ませるのです。

誤診の経緯には、婦人科の医師にも問題があります。
「尖圭コンジローマとは思えませんが……」と言っておきながら、病理組織検査の依頼書に「尖圭コンジローマの疑い」と記載します。
病理の専門医は、依頼書を見ながら、顕微鏡所見を検討します。『現場の婦人科の医師が、肉眼的に尖圭コンジローマを疑っている……』と思いながら、「尖圭コンジローマ」と診断するのです。
婦人科の医師は、「病理の専門医が『尖圭コンジローマ』と診断したから、間違いありません。」と言うのです。……無責任ですよね?

【備考】
これで「医療サイトの投稿原稿」シリーズはお終いです。面白かったですか?

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