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医療サイトの投稿原稿♯11 「禁句:病は気から」

Ki
私の診療科が泌尿器科ということもあって、様々な不定愁訴の患者さんが全国から来院されます。中には10軒以上の病院や医療機関をドクター・ショッピングされたにもかかわらず、不定愁訴を理解してもらえない患者さんも多くおられます。例えば、頻尿や陰部痛の症状のある人が、尿検査の結果、異常がないと、「気のせいです!」と前医に診断されてしまうのです。どこに行っても簡単な検査だけで異常が認められないと、しまいには「病は気から」と言われてしまいます。一般の人にも、さらには医師にも誤解があると思われるので、「気」について私見を述べます。
本来、漢方や中国医学で使用される「気」とは、精神的な気持ちの「気」ではありません。日本には「気」という明確な概念がなく、蒸気の「気」のように、実体のない存在、つかみ所のない物、あるいは、いい加減な存在という意味で、「こころ・気持ち・精神的」と理解され、意志・意識の強さや程度を表現しています。根気、短気、気合、気力、覇気などに使用される「気」です。
ところが中国の漢方においては、「気」という「エネルギー」が体の中をくまなく流れていて、生命活動を営でいると考えられています。その「気」を「先天の気」と「後天の気」に分けます。「先天の気」は元々その人が持って生まれた「気」のことで、「元気(原気)」といいます。後天の気は呼吸や食事によって得られた「気」のことで、「宗気(大気)」といいます。「宗気」は心肺で血管内を流れる「営気」と血管外を流れる「衛気」に分けられます。「営気」は主に内臓を、「衛気」は主に体表を流れる「気」です。漢方にもいろいろあり、流派や時代によっても考え方が微妙に違いますから、以上のことは大雑把な概念としてご理解ください。
気が五臓六腑を流れることで、心気、腎気、神気、脾気などに変化します。
気の流れがとどこおったり(気滞)、気が減少したり(気虚)、気がたまったり(気実)することで病気になると考えます。「病は気から」というのは、正にこの意味なのです。十分な「気」がスムースに流れないから病気になるのだと考えるのです。日本のように「気がおかしい」から病気になるのではありません。
病気で悩んでいる人に対して、周囲の人や主治医までもが、「気のせい」「気にし過ぎです!」、「気にしないようにしましょう!」、「病は気からと言うでしょう!」などと無責任な言葉を浴びせることがあります。この言葉は、「患者さんの病気は全て患者さん自信の精神の弱さや心のもろさが原因だ!」と言っているようなものです。医師は、このような言葉を決して発してはいけません。逆に、このような発言をする医師側にこそ「気のせい」なのです。
人間は精密機械です。それも自己修復能力のある生身(炭素系)の超複雑な精密機械です。遺伝子レベル・分子レベルの極微に至るまで合目的な仕事を担った精密機械ですから、「複雑系」理論に登場するような別次元のパターンが発生します。これは金属系・シリコン系の精密機械と似て異なる行動パターン・作用パターンを取ります。
理系の人間の考え方は、代表的なパターンのモデル(理論・仮説)を作り、それが何度繰返しても再現される(再現するといっても80%程度ですが・・・)ことで、そのモデル(理論・仮説)が正しいことを実証します。この考え方は科学そのものですし、ある意味正しいことです。しかし、そこで立証された数々のモデル(理論・仮説)同士が横のつながりや縦のつながり、前後左右のつながりへと発展しないのが、今の科学の悪い所です。
医師たる者、患者さんの「訴え」は、常に真実で正しいものと考えましょう。医師の理解できる訴えだけを信じて、理解できない訴えを「気のせい」とするのは、医師の無能をさらけ出しているようなものです。患者さんの訴えから、医師の持っているあらゆる知識や経験を総動員して、基礎医学(生物学・発生学・解剖学・生理学・病理学)や化学・物理学・地学、はたまた民族史までを考慮して整合性をとろうと理解・努力しなければなりません。そうすれば、悩める患者さんに対して、安易に「病は気から」などと口にしなくなります。しかし、どうしても理解できない場合には、プライドを捨て正直に「ゴメンなさい!分かりません!」と回答しましょう。プロフェッショナルの医師が「病は気から」と言って、素人の患者さんに丸投げする行為だけは是非やめてください。難問クイズの出題者が、患者さんだと思いましょう。医師はその難問に対するベテラン回答者です。その答えが「気のせい」では、・・・回答者として、どう考えても失格でしょう。

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コメント

高橋先生
お世話になります。
以前、歯周病の始まりの奥歯が痛んで何回か診察してもらっていた歯科医から「先生の専門の方とちゃいますか?」と言われたことがありました。ちなみに心療内科医です。わからない病態ならそう言ってもらって、どこか紹介するなりしてくれれば良いのですが、何故、患者に原因を押し付けるのでしょうか。歯周病専門医でないならそう言って欲しいですね。プライド高いと「すいません。わかりません」と言えないのでしょうか。あるいは「もう来てくれるな」の遠回しの婉曲表現なんでしょうか。8年前に慢性前立腺炎になった際は高橋先生のブログを見ており、同僚に薬も出してもらえるので、高橋先生以外の泌尿器には行きませんでした。おかげさまで「気のせいでしょう」といった医師のモラルハラスメントにも合わず、ドクターショッピングもせずに済みました。助かりました。本当にありがとうございます。

投稿: ○○泰則 | 2018/11/19 09:32

昨晩のNHKスペシャルで人工透析を受ける様子を観ました。
高橋先生はこんな大変な思いをされながらも人を救おうとしている。
言葉もありません。
どうかご無理をされませんように ...それに尽きます。

投稿: さらさ | 2018/11/19 10:35

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