上海からの患者さん
10月10日水曜日に上海から50代の中国人男性が始めて来院されました。
悩んでいる病気は慢性前立腺炎でした。会陰部の痛みで椅子に座れません。中国でいろいろな医療機関をドクターショッピングしたのですが、治らないで苦しんでいました。日本にいる友人が、インターネットで私のブログを見つけて、印刷し小冊子にまとめて患者さんに送ったのです。それを読み、ワザワザ中国から日本にやってきたのです。
患者さんは、中国の日本企業で仕事しているので、日本語はペラペラです。会陰部の痛みのため椅子に座れないので、私の目の前でしゃがみ込みながらお話しをしました。
早速、超音波エコー検査を行いました。
すると、膀胱縦走筋は変形し、膀胱出口よりも随分手前に位置しています。これは膀胱三角部が厚くなっている証拠です。膀胱三角部は尿意のセンサーなので、これが厚く肥厚=敏感=頻尿になるはずです。
しかし、この患者さんは、1日の排尿回数は8回前後で、そうでもありません。つまり頻尿のエネルギーが別の感覚症状に置き換わっていると推察できます。それが、患者さんの苦しんでいる会陰部の痛みだったのです。
前立腺を正面から見た所見です。
前立腺の周囲に黒く抜けている個所がいくつか確認できます。
黒く抜けた部分は、実は静脈瘤なのです。排尿障害が長期間継続すると、前立腺・膀胱周囲の静脈が排尿の都度圧迫されるので、静脈がうっ血=渋滞するので、静脈血管が徐々に拡張するのです。また、前立腺内に石灰化=前立腺結石も確認できます。
これら全ての所見は排尿障害の証拠です。要するにこの患者さんは、排尿機能障害で膀胱三角部・膀胱括約筋が肥厚し排尿障害が強まり、さらに膀胱三角部の過敏で、本来は頻尿になるところが、患者さんの脊髄神経回路の性格により会陰部の痛みに変換されたのでした。
治療として、排尿障害の治療のためにα1ブロッカーであるユリーフ、膀胱三角部の過敏さを抑えるためにβ3作動薬であるベタニスを処方しました。また当面の会陰部の痛みを取るために脊髄中枢レベルの鎮痛剤であるトラムセットを処方しました。2週間日本に滞在するので、まずは1週間処方し状況を確認することにしました。
【後日談】
初診日から1週間目と2週間目に来院されました。肝心の痛み症状が変わりませんでした。唯一、1日10回の頻尿が5回ほどになりました。痛み症状が落ち着くまで、おそらく1カ月〜3カ月かかるでしょう。2週間目には、私を紹介された友人と来院されました。今回は、その日で上海に帰る事になりました。年末に様子を知らせに来られるそうです。早く軽快することを期待してました。
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コメント
高橋先生へ
ブログを拝見させて頂きました。
彼がこの3年半中国で大変苦しんでおりました。
転々と病院を渡り、まったく効果を得ることが出来ず、精神的にも【もう俺には未来などない】と絶望的に苦しんでおりました。
座れない事が外出意欲をなくし、人との関わる事さえ避け、物理的欲もなくなり、一番大切な心が折れかかる寸前に見えたのです(泣)
日本にいる友人達に日本での治療を勧められ、ずっと静かに暮らしていた部屋から出て日本での治療を受けにいこうと決心して来日致しました‼
彼の願いは3年半24時間一時も起きていても寝ていても痛みから解放されることがない痛み、六時間ても、三時間でも、30分でも痛みから解放されることの薬がほしいです。
ネットで高橋クリニックを拝見してすがる思いで来日致しました。
患者に寄り添って大きい病院でも出来なかったことを成し遂げた経験豊富なお医者様だと。
ブログで彼の病状もとても分かりやすく友人一同拝見しております。
今後も先生のブログをずっと拝見させて頂きます。
上海に帰っても先生のブログを彼に送り、今主治医の先生がどんな医療を発信しているのか安心してもらいたいからです。
いつか以前のようなユーモアがあって明るい彼に戻ってほしいと思います。
彼にとって先生は神様以上の存在です。
本当に神様になってしまっては困るので、どうぞお身体をお大事にしてください。
他の患者さま同様、宜しくお願い致します。
上海の家族、友人一同より
★回答
ご紹介ありがとうございます。
私の考えで、容易に落ち着くのは、8割の患者さんです。
2割の患者さんは、経過を見ながらクスリを工夫しなければなりません。
1週間目では、変化はありませんでした。
2週間目が、どのようになるか?ドキドキしています。
患者さんの期待通りの効果があれば、良いのですが……。
魔法使いでも神様でもない私ですから、医師としても精神的に辛いところです。
投稿: 友人 | 2018/10/19 16:12