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なかなか治らない神経因性膀胱の患者さん

治らないと思われている神経因性膀胱の患者さんを、これまで何人も治して来ました。

一般的常識では、言葉の通り膀胱の神経が壊れたから治らないと、誤解されているのです。以前にも詳細に解説して来たように、膀胱出口が単純に開かないから、オシッコが出なくなり、神経因性膀胱と誤診される患者さんがほとんどです。
詳細は、下記のブログ
http://hinyoukika.cocolog-nifty.com/kobore/2018/10/post-01b4.html

前立腺肥大症があれば小さくしたり、開かない膀胱出口を緩めるα1ブロッカーを処方したり、内視鏡手術で膀胱出口を開放すれば、これまで神経因性膀胱と診断されていた患者さんは全て治りました。

しかし、今回、神経因性膀胱の手術を2回も実施したのにもかかわらず、なかなか改善しない患者さんを経験しましたので、隠さずに、ここでご紹介します。
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患者さんは50代の男性患者さんです。新潟から通院されています。自尿が100㎖前後で残尿が300〜500㎖とかなりの残尿があります。毎日、6〜7回の自己導尿を主治医に指導されていました。
エコー検査の所見は、一見、正常に見えますが、膀胱三角部が全体的に厚くなっています。おそらく、患者さんが自覚する以前から排尿障害があったのでしょう。

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α1ブロッカーの服用で保存的治療を行っていましたが、自尿と残尿量は、ほぼ同じでした。そこで、患者さんの強い希望で手術することになりました。
1回目の手術では、写真の通り明らかに膀胱頸部硬化症でした。膀胱出口が十分に開きません。
術後の射精障害を回避するために、膀胱頸部の6時の位置だけを切除しました。

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術後の射精障害を回避するために、最小限の手術にしました。
膀胱出口の6時位置だけを切除しました。これで、大丈夫!と思いました。

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ところが、半年を経過しても、自尿と残尿の量が変わりません。
エコー検査で手術の跡を観察すると、側面画像では十分に開放されています。

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ところが、前立腺の正面画像では、本来V字に開いていなければならないのに、V字の部分が左右から盛り上がっているように観察できます。

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そこで、前回の手術から9カ月目に2回目の手術を実施ました。
写真のように、残っている前立腺が前立腺部尿道の上半分を左右から圧迫しています。上のエコー検査所見の通りでした。

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そこで、圧迫部分を切除しました。前立腺を削ったという事です。
写真のように、十分開放されました。写真の大きな穴の向こう側に見えるのが、膀胱の壁(後壁)です。
もちろん、患者さんに承諾を得て実施しました。

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術後のエコー所見でも、以前の圧迫所見はありません。
しかし、患者さんからお聞きすると、自尿も残尿も術前と同じなのです。今後、数カ月経過を見て、改善が得られなければ、ギリギリの手術をしなければ改善が得られないかも知れません。今度は、尿道括約筋のすぐ手前の部分を切除して、さらに前立腺被膜ギリギリまで切開するしか方法がないでしょう。
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ただし、切り過ぎると前立腺に穴🕳が開いたり、尿道括約筋を誤って切ってしまい、たれ流し状態=尿失禁の状態になる危険性があるのです。しかしながら患者さんは、毎日数回も自己導尿をしているのです。自分だったら?自分の子どもだったら?どうしようと思います。助けて上げなければなりません。

もう1つ考えられる事は、この患者さんの分厚い膀胱三角部です。通常、膀胱三角部が厚ければ、頻尿・残尿感・尿意切迫感が生じる筈なのに、この患者さんには膀胱刺激症状がないのです。それらの症状がないので、手術の際には、膀胱三角部は手をつけませんでした。……もしも……もしかするとです。実は、膀胱三角部がかなり過敏になって、脊髄神経回路に情報を大量に流しているかも知れないのです。すると、情報が多過ぎて神経回路が混乱し、排尿機能の神経回路をブロックしたのかも知れないのです。その結果、排尿のメカニズムである、膀胱括約筋の弛緩→膀胱輪状筋の収縮+膀胱縦走筋の収縮の連携プレイが阻止されてしまったのかも知れません。

膀胱三角部の刺激症状は、色々な症状の元を作ります。
❶陰嚢がかゆい
❷睾丸が痛い、重い
❸尿道から分泌液がたくさん出る
❹陰嚢がベタベタする
❺肛門がかゆい
❻足が痛い、シビれる
❼胃が痛い
❽首が痛い、手がシビれる
❾舌が痛い、喉が乾く
➓オシッコの臭いがする
等など、症状のバラエティの多さには切りがありません。
11番目に「オシッコが出ない」でも当然不思議ではありません。

もしも、患者さんが私を信じて希望されれば、次回の手術の際には、手をつけていなかった膀胱三角部を処理して、隠れた敏感さを消去すれば、情報量が軽減して、神経回路の誤作動が止むかもしれません。


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コメント

高橋先生
お世話になっています。
難しい方もいらっしゃるんですね。
膀胱三角部は感覚センサーということでしたが、私のような慢性前立腺炎の場合には痛み刺激を出していると理解しています。「膀胱頸部硬化症に人間様が早く気づかないかなあ」としつっこく痛み刺激を出力し続けています。中学生頃から排尿障害を自覚していましたので、30年の未病期間があり、その後、おそらく徐々に膀胱三角部が肥厚し、ついに我慢の限界までやってきて痛み刺激を発生させたのでしょう。一旦、ハルナールで改善し、8年間維持できていましたが、今年再燃しました。本当にシツコイです。
病気と性格が似ているという話もありますので、そうかもしれないと妙に納得してはいますが、、、
膀胱頸部が固くて尿の通りが悪いことは気づきましたから勘弁してください、と心の中で叫んでもどうも届かないようです。
一方、新潟の神経因性膀胱の方は未病期間なので症状が出ないのでしょうか。いやいや、神経因性膀胱までなっているので先生のおっしゃるように相当の刺激を中枢に発信しているのかもしれません。症状が前面に出る前に膀胱自体が痛みや膀胱刺激症状などでQOLを低下させないように、あまり激しく争わないように戦意喪失してるのかもしれないですね。この方も私と同じ50代と比較的若い方なので良くなるように祈っています。
今後も、高橋先生には病気の仮説を検証して頂いて真理を発見してくださるよう願っております。
★回答
本当に難解です。
まさか、自分がこの世界で、こんなに苦労するとは思いませんでした。
難しい事を考えるのが嫌いだったのに……。
これも、患者と同じように私の運命だったのでしょう。

投稿: ○○泰則 | 2018/10/29 19:07

光免疫療法の事を テレビで知りました。

楽天の 三木谷社長が 全面的にバックアップしているそうです。

先生は 光免疫療法について どのような意見を お持ちでしょうか?
【回答】
まだ完成された治療法でもありませんし、私も詳細は存じません。
今までも、ニュースになるような画期的な治療法は多数公表されてきましたが、どれも未完成でした。
完成されてから、飛びついても遅くはないでしょう。

投稿: | 2018/10/30 20:37

先生この間内科に行ったら波動検査というものを無料で受けさせられました。
あれはドイツで主流ということですが、調べたのですがよくわかりませんでした。
先生は知見をお持ちでしょうか?
★回答
代替医療の範疇でしょう。
存じません。

投稿: | 2018/10/31 00:05

「もしも、患者さんが私を信じて希望されれば……。」

患者さんの苦しいお気持ち、高橋先生の辛いお気持ち、両方、理解出来る気が致します。

私も高橋先生には何度も手術をしていただきました。おまけに麻酔が効かず高橋先生には本当にご苦労をお掛けしました。

痛みが酷い時には再度の手術をやってもらいたくなります。完治は無理でも少しでも楽になりたいからです。
これも真実だと思います。

しかし、私の主人は私に言いました。
「治るかどうかわからない手術をやらなくてはならない人の気持ちを考えた事ある❓」

もしかしたら、高橋先生は患者の私より遥かに辛いのかも知れない。

このような事に気付くまで四年かかりました。

人生は選択の連続です。
その選択にサラリと、英知を貸して下さる高橋先生の事は、やはり信頼せずにはいられません。


投稿: | 2018/11/01 17:34

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