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医療サイトの投稿原稿♯3 「オシッコの臭いで悩む若者」

ご自分が「オシッコ臭い」と言って悩まれる患者さんが時々おられます。
解決するために、泌尿器科を何軒受診しても治らず、精神科や心療内科で治療しましたが、やはり治りません。
一例をご紹介致しましょう。
沖縄から、お母さんと一緒に17歳の若い男性が来院しました。
3か月前に突然の尿漏れと頻尿(1日16回)が発症しました。その後、症状は落ち着きましたが、その代わりに、不思議な症状が出現したのです。
排尿後、しばらくしてから、自分の「尿臭」を強く自覚し、気になって授業に出席できなくなりました。そのため、現在、保健室登校になってしまいました。地元の医師を受診しましたが、特に異常を認めませんでした。
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初診時の超音波エコー検査の所見です。
① 白ワク赤い矢印で示す部分が、前立腺周囲の静脈瘤です。いわゆるうっ血・瘀血所見で排尿障害を強く示唆する。
② 緑の矢印は膀胱縦走筋・膀胱三角部・膀胱括約筋の方向を示す。本来は実線矢印に向かっていなければならないのに、尿道括約筋の方向に向かっている。これも排尿障害を強く示唆する。
以上の所見から、この若者には、本人が自覚しない排尿障害が隠れており、膀胱三角部が肥厚したのです。膀胱三角部は尿意のセンサーですから、この部分が肥厚すると、尿意の過敏症状、つまり頻尿・残尿感・尿意切迫感が生じます。

ところが、初診時の患者さんの排尿回数は.1日5回と頻尿症状は消失していました。超音波エコー検査所見と明らかに矛盾します。つまり、出現するべき頻尿症状が出なくなり、その代りに頻尿情報が、脳中枢の「嗅覚中枢」を刺激したために、自分がオシッコ臭くなったのです。いわゆる「幻臭=臭いの幻覚」です。幻臭は鼻の嗅神経で感じているのではなく、中枢そのもので臭いを感じているので、臭いの順応現象が起きずに、いつまで経ってもオシッコ臭さが消えないのです。
そこで、排尿障害の治療薬であるエブランチル(αブロッカー)と頻尿治療薬であるベタニス(β3刺激剤)を処方しました。そして、水分摂取を控えるように指導しました。
1ヶ月経過して、保健室(まだ保健室?)からお母さんと患者さん本人2人から電話がありました。それまで毎日保健室登校だったのですが、現在は短時間ではありますが授業に出席出来るようになりました。感じている尿臭も50%に減ったそうです。今後も、お薬を続けるように指導しました。また、幻臭の原因が排尿障害だという事を患者さんに実感してもらいました。
その後、再度連絡があり、尿臭は完全に消失したとのこと。ただし、他の症状、下腹部の痛みと尿漏れ感覚が出現していると報告がありました。治療している間に症状が変化することがあるので心配いらないと説明しました。

尿意感覚➡➡➡尿臭感覚への転換理由がある筈です。私は以前から脳の海馬に興味を持っていました。海馬は脳内のインターネットのような存在です。
【膀胱三角部➡脊髄➡視床下部➡海馬➡尿意中枢】が本来のルートなのですが、脊髄に流れて来る情報が多過ぎて、恐らくは海馬が混乱したのでしょう。他の感覚神経は視床下部を介して連絡していますが、嗅覚神経は海馬と直接連絡しています。そんな関係で視床下部からの情報が多過ぎると、処理しきれずに海馬が得意とする大脳皮質の嗅覚野に流出させてしまうのです。それが幻臭という現象になるのでしょう。
その結果、【膀胱三角部➡脊髄➡視床下部➡海馬➡嗅覚中枢】のルートが形成されたのです。この海馬の混乱を修正する治療法が、将来発見できることを期待します。
結論として、隠れた排尿障害が、海馬を混乱させて「嘘の臭い」として患者さんを苦しめていたのです。治療目標は排尿障害と膀胱刺激症状です

【医療関係読者の感想】

また、以下には高橋先生の記事の感想をいただきましたので、少し記載させていただきます。
記事は全体の90.8%の方が満足していると回答しており、


・とても興味深く読ませていただきました。患者さんの訴えを解明・解決していくエネルギーを、自分も失いたくないと思いました。
・とても面白く読みました。心療内科マターになりそうですが、こういう切り口に感心しました。続編きたいします。
・こんな話、初めて知りました。参考にします。すごい痛みやかゆみも変換されて、臭いとして感じる事例があるのでしょうか。
・大変興味深い報告でした。ありがとうございました。他にも同様の機序で、幻の感覚が生じている症例もあるのかもしれないとも思いました。
・海馬が処理しきれずに情報が流出する、という考えが面白い。
・匙を投げたくなる症例も丁寧な診察と深い考察で助けてあげることができるのだなと勉強になりました。
・排尿障害と中枢性に尿臭を感じるお話はとても興味深いものでした。勉強になります
・先生の知識を垣間見させて頂き大変感謝致します。
・そのような考え方で治療できるのですね。 私のところに来る患者はすでに薬を飲んでいることが多いので、その説明の仕方使わせていただきたいと思います。


などのお声をいただいております。
今後の執筆のモチベーションにしていただけますと幸いです。

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コメント

高橋先生
お世話になります。
実は、慢性前立腺炎の人に「恥ずかしがり屋の膀胱」というものがあるというのを先生がおっしゃっているのを知って40年来の探索に終止符を打てました。私自身は対人恐怖症なのかなあと思い、色々と心理的な本を読んだりもしてはおりましたが、一部の心理学者がエディプスコンプレックスが原因とか書いているものもありましたが、よくわかりませんでした。
他にも過敏性腸症候群にも罹患し、子供の頃は正露丸をよく飲んでいました。青年期には機能性胃症functional dyspepsiaにもなり、漢方薬のお世話になっていました。中年期になり、過敏性腸症候群と機能性胃症が問題ないようになってきた折に慢性前立腺炎の痛みが発症しました。
この体質から脱却するのはなかなか難しそうです。
一連の疾患は全身の平滑筋の機能不全が存在するのであろうと先生のブログでも拝見し、何故こんな事に気が付かれるのか、いつもその洞察力に畏敬の念を持っております。「恥ずかしがり屋の膀胱」はやはり患者さんの訴えを真剣に聞かれていく中で気付かれたんでしょうか。一度、お尋ねしたく思っていました。これからもいろんなことを気付かせてくれますと幸いです。
★回答
ありがとうございます。
2万人以上の慢性前立腺炎・慢性膀胱炎の患者さんを拝見すると、いくつかのパターンが見えて来たのです。
薬剤で、それらの諸症状が改善します。
薬の影響を受けるのが平滑筋で、それを支配する脊髄神経と、中枢神経の複雑な構造だろうと閃いたのです。
ただし、私の考えは、あくまでも仮説です。

投稿: OO泰則 | 2018/10/24 17:00

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