細胞の寿命と臓器の寿命
人間の寿命は、各臓器の寿命に影響を受けます。
例えば、慢性肝炎→肝硬変→肝癌などは肝臓の寿命に依存していると言えるでしょう。
動脈硬化→心筋梗塞・脳梗塞も動脈硬化によって臓器の血液供給が寸断したために、臓器の寿命が途絶えたと考えられます。
私のように慢性腎不全=腎臓の寿命が尽きた状態ですから、透析技術がなければ、2年前には私は死んでいました。
泌尿器科で一番問題なのが下部尿路症です。下部尿路症で重要なポイントが、平滑筋のあり方です。病的な平滑筋は、細胞の核が消失し1年以内に自滅(アポトーシス・枯死・予定死・自然死)を起こします。細胞が脱落した箇所に骨髄から幹細胞が供給されます。しかし、幹細胞は到達した臓器の近辺の細胞をコピーして平滑筋に変身して、病的平滑筋と同じ動きをします。「朱に交われば赤くなる」という状況です。その現場の興奮している平滑筋を治療薬を使って興奮を抑えて上げないと、興奮は死ぬまで続くのです。それが、健常ではない病的変化となるのです。
細胞の寿命を調べると、次のような数値が得られました。
・胃腸の粘膜などの上皮細胞が1日
・皮膚の扁平上皮が28日
・赤血球が120日
・骨が3年〜10年
・心筋と神経が数十年〜一生
【注意】文献によって数値はいろいろです。
排便(ウンコ)の中には、毎日胃腸の粘膜の半分の死骸が含まれていることになります。
調べてもハッキリしないのが、膀胱の粘膜と平滑筋の寿命です。
そこで、上記のデータから推理してみましょう。まず、膀胱の粘膜は、上皮細胞と扁平上皮細胞との中間でしょうから、その間を取って寿命は14日=2週間でしょう。膀胱炎を繰り返す患者さんの訴えで、尿に白いカスが混じるというのは、膀胱炎で粘膜の寿命が速まり、粘膜が次々と排泄されるからでしょう。
次に膀胱平滑筋はどうでしようか?平滑筋の細胞分裂の回数は、30回が限度とされています。細胞分裂と次の細胞分裂までの時間がどこにも記載されていません。1回の細胞分裂が24時間されていますから、休みなく細胞分裂するとすれば30日=1ヶ月ということになります。しかし、それでは平滑筋が働く暇がありません。細胞分裂と細胞分裂の間が分かれば、平滑筋の寿命が分かるはずです。赤血球よりも長く、骨よりも短いと考えて約1年と考えます。また、平滑筋は一定の条件がなければ、普段では細胞分裂をしない可逆性分裂細胞群(肝細胞もこの部類)に入っています。つまり、肝細胞が極端に細胞分裂するのは、慢性肝炎やアルコール性肝炎で肝硬変になる時です。膀胱も同じように負担が継続すると、肝細胞と同じように過剰分裂を行ない、結果的に様々な膀胱の病気になるのかもしれませんね。
【参考資料】http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~hirofun/2011cb1213.pdf
以上を元に、病気治療の期間とタイミングを計ってみましょう。
長期間に渡って排尿障害が続くと、平滑筋が疲弊して、平滑筋の細胞核がダメになります。
ダメになった平滑筋は細胞分裂しませんから、1年以内に自滅(アポトーシス)します。
核がなくなり、しかも1年以内の平滑筋は、核の制御が崩壊したため自制が出来なくなり、過度の緊張、すなわち尿意切迫感、頻尿、痛み症状、排尿障害になるのです。そして、核を失った平滑筋は通常の寿命よりも短命ですから、新たな細胞補給を待つしかありません。通常、骨髄か、幹細胞という万能細胞が供給されて、膀胱平滑筋の場に到着すると万能細胞が平滑筋に変身するのです。この時点で、周囲の既存の平滑筋が興奮状態にあると、万能細胞はその性格をコピーしてしまうので、その時点で平滑筋の興奮を抑える治療を行っていないと、病気は永遠に続くのです。
α1ブロッカーやβ3作動薬で治療を開始しても、病的平滑筋が完全に消えるまで、恐らく3ヵ月〜半年はかかるでしょうから、少なくてもその間は治療を休止することは出来ません。半年を経過すれば、すべての平滑筋が正常になるので、服用するクスリを減量することができるのです。実際、減量しても病状が落ち着いている患者さんが多数います。しかし、減量できるのは治療患者さんの半数ほどしかありません。治療を始めた時点で、どの位の平滑筋が傷んでいたかによる事と、平滑筋の寿命以外にも他にも要因があるのかも知れません。
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