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排尿のメカニズム

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膀胱の構造は、見た目で膀胱体部、膀胱三角部、膀胱出口(膀胱頸部)に分けられます。筋肉の観点から見ると、膀胱体部は二層構造で、内側が輪状筋、外側が縦走筋です。膀胱出口は複雑で、膀胱出口の前面の膀胱括約筋(内尿道括約筋)と、膀胱三角部の膀胱括約筋に区別できます。排尿障害のある人は、どちらの膀胱括約筋が発達・肥厚しています。これは、縦走筋と膀胱括約筋の排尿時の動きのバランスが悪く、縦走筋が収縮する時に膀胱括約筋が緩まないで対抗している証拠です。

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膀胱壁は二層になっていて、輪状筋は膀胱の内側に存在し、膀胱の横方向の直径を小さくするように収縮させます。縦走筋は膀胱の外側に存在し、膀胱の天辺の部分が膀胱出口に向かうように収縮させます。この2つの筋肉の働きで、膀胱は膨らんだり縮んだりするのです。この2種類の筋肉は、ちょうど地球の経線と緯線に相当します。緯線が輪状筋、経線が縦走筋です。さらに膀胱括約筋という名称で、膀胱三角部の真下に尿管由来の輪状筋と膀胱出口周囲に膀胱由来の輪状筋の「2種類」の膀胱括約筋が存在します。

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この画像は、3Dエコー検査で観察した膀胱出口の所見です。
見て分かるように、膀胱出口を中心とした同心円状ではありません。
これを分かりやすく説明したのが、次のイラストです。
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イラストで見えるように、輪状筋は、膀胱三角部を挟んでブーメランの様な形をしています。
何故この様な形状をしているかは、それなりの理由があります。
発生段階で、尿管の原基を囲むように輪状筋が発達したからです。そして、尿管の原基から膀胱三角部が形成したのです。
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膀胱出口の前面周囲の輪状筋は別名、膀胱括約筋です。排尿時には膀胱括約筋が緩み、縦走筋が緊張し膀胱出口を開きます。
ブーメランの両端部分:輪状筋脚の輪状筋が膀胱三角部を挟むように収縮します。膀胱三角部直下の輪状筋が、尿道括約筋に引っ張られると同時に、その下の縦走筋が反対側に収縮して、膀胱出口が漏斗状に開きます。

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膀胱出口周囲の縦走筋は、特に発達しています。これらの筋肉は、自律神経によってコントロールされています。膀胱のほとんどが、ムスカリン受容体で支配されています。膀胱三角部の周辺は、さらにβ3受容体でも支配されています。膀胱三角部は、膀胱の大部分と異なり、「尿管」由来です。ですから、膀胱本来の部分とは違う働きをします。それは膀胱の内圧を監視するための圧力センサーなのです。

膀胱に尿が溜まっていくと、膀胱の圧力が次第に高まります。圧力が極限に溜まると、尿管口が閉じてしまい、腎臓からの尿が流れなくなるか、あるいは尿管口から尿が逆流して腎臓に負荷がかかってしまいます。それを防ぐために、膀胱三角部が圧力センサーとなって、膀胱内圧の情報を脊髄を介して視床下部に伝言するのです。
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3Dエコー画像を元に、下部尿路の基本的構造をイラスト側面像で示しました。
膀胱出口周囲に存在する赤い部分が、どちらも膀胱括約筋です。膀胱内側の肌色の部分が輪状筋で、外側の空色の部分が縦走筋です。
健常であれば、排尿時に、どちらの膀胱括約筋が緩んで、縦方向に収縮した縦走筋の意のままに膀胱出口は開き、オシッコがスムーズに出るのです。
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排尿障害の患者さんは、どう言う訳か膀胱三角部も含め、排尿時に弛緩しないでギューっと収縮します。縦走筋が収縮して膀胱出口を開こうとしても十分に開かないのです。
この経過が長期間に渡ると、膀胱括約筋が縦走筋と筋トレしていることになり、次第にマッチョになります。排尿障害の患者さんをエコー検査で観察すると、膀胱出口前部の膀胱括約筋と膀胱三角部の膀胱括約筋が厚くなり、膀胱側に突出しています。前立腺肥大症の場合だと、中葉肥大型と判断される形状です。
排尿障害の患者さんの内視鏡手術の際には、弛緩しない膀胱括約筋の切開・切除が重要になります。


膀胱・前立腺の病気の頻尿症状は、次の3つの理由で起きます。
①ムスカリン受容体が、何らかの理由で興奮状態・過敏状態にあるため、排尿時でもないのに輪状筋・縦走筋が収縮状態になります。結果、膀胱内圧が常に上昇して、圧力センサーである膀胱三角部が反応して頻尿になるのです。
②膀胱三角部のムスカリン受容体だけが、やはり興奮状態にあり、膀胱内圧がそれほど高くもないのに、圧力センサーが暴走状態に陥り頻尿になります。
③上記2つが共存した場合、つまり膀胱全体と膀胱三角部のムスカリン受容体が興奮する。

治療対策として、
❶先ずはムスカリン受容体の興奮を抑えることです。それが抗コリン剤(ベシケア・ウリトス・バップフォー・ポラキス)です。
❷また、膀胱内圧がそれほど高くなくて、膀胱三角部だけが興奮している場合は、β3刺激剤(ベタニス)を使って膀胱三角部の興奮を抑えれば良いのです。
❸両方が原因の場合には、抗コリン剤とβ3刺激剤の併用で解決するのです。

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副作用について
抗コリン剤を服用した患者さんのうち5%未満の確率で尿閉が起きます。
ⅰ)ただヒトによって、膀胱出口付近までムスカリン受容体が多いヒトがいます。このヒトに抗コリン剤を処方すると、膀胱出口の膀胱縦走筋が収縮しなくなり、膀胱出口が開かなくなります。そのため尿閉になることがあります。
ⅱ)また、β3受容体が膀胱出口の膀胱縦走筋まで及んでいるいると、やはり同じくβ3刺激剤で縦走筋が収縮しなくなり、膀胱出口が開き難くなります。
ⅲ)逆に、β3受容体が膀胱括約筋の輪状筋にまで及んでいると、β3刺激剤で輪状筋タイプの膀胱括約筋が緩むので、尿が出やすくなります。ある意味で、有益な副作用です。

【備考】
頻尿や残尿感などの知覚が、平滑筋に作用する抗コリン剤やβ3刺激剤で緩和することに疑問を感じませんか?
一般的に人体には知覚神経の末端に特有な形状のセンサーがあります。痛みセンサー、圧力センサー、熱センサー、冷感センサー、触覚センサーなどいろいろです。しかし、……しかしです、膀胱には尿意を感じるセンサーが見つかっていないのです。センサーがないのに、何故、尿意を感じることができるのでしょうか?有名な専門医は、そこに「C線維」という神経線維があり、そこに膀胱粘膜から放出された化学伝達物質が、C線維という裸の神経を刺激して尿意を感じると説明しています。……膀胱だけのセンサーだけが、こんな原始的な形状のセンサーとは、考え方に絶対に無理があります。
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平滑筋は、無数にある細胞の一つ一つがつながっているのです。1つの細胞の意識が無数の細胞の意識と同じなのです。それが細胞間結合(電気結合・ギャップ結合)です。その無数にある平滑筋の一部に自律神経が付着しています。自律神経からの情報・命令を一部の平滑筋が受け取ると、その情報を細胞間結合を介して、次々に無数の平滑筋に伝達します。つまり、平滑筋は動力装置としての働きの他に、伝達装置としても働くのです。
Semi2016sensorこの形状を見ていると、何かに見えませんか?……そうなんです、……知覚神経とセンサーの組合せです。実は、平滑筋そのものが「センサー」なのです。ですから、膀胱の平滑筋が緊張すると、尿意が強くなり、平滑筋が緩むと尿意がなくなるのです。抗コリン剤やβ3刺激剤が尿意を抑える作用があるのは、平滑筋の緊張を低下させてくれるからです。つまり、抗コリン剤とβ3刺激剤の2つは、どちらもセンサーに直接作用するのです。同じ意味で、ユリーフ・ハルナール・フリバスなどのα1-ブロッカーも、平滑筋の緊張を低下させるので、頻尿・残尿感を軽快させることになります。


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