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非常識な医師から常識的な医師への返信報告書

遠方から来られた前立腺ガンの患者さんが、私の考え方と治療方針に納得して、従来の主治医にお断りしたのでした。よくあることです。さらに、前の主治医から何と診療情報提供書が送られて来たのです。そこで、下記の報告書をお送りしました。

【診 療 情 報 提 供 書】
公立○○病院
 ○○○○ 先生 御侍史

平成30年8月◯日
●患者様情報:
ご 氏 名:○○○○  様
生年月日:昭和22年10月◯日

上記の患者さんのご報告申し上げます。

●傷病名:前立腺癌、ステージⅡ
私の想定外の治療で、先生にご迷惑をおかけして申し訳ありません。

患者さんの当院での経過をお示しします。
・平成25年6月当院初診、PSA値12.6
触診と超音波エコー検査で前立腺癌は認められませんでした。
前立腺に排尿障害の所見が認められた。
ハルナール・アボルブを処方。

Pca30027m702
・平成28年11月再診、PSA値28⤴
触診と超音波エコー検査で、写真の如く前立腺右葉に前立腺癌を確認。
癌の陰影は0.49㏄
アボルブ→プロスタールに変更するも、副作用のために自己中止し、アボルブを再開された。

@・平成30年1月再診、PSA値40⤴
触診と超音波エコー検査で、前立腺右葉に前回よりも明確に前立腺癌を確認。癌の陰影は0.4㏄
アボルブ・プロスタールで抑えられなかったので、悪性度グリソンスコア7以上と考えました。そこで、私独自の間欠的超低用量治療を開始。

① エストラサイト:1カプセル毎週1回(標準は毎日4カプセル)
② イクスタンジ:1カプセル毎週1回(標準は毎日4カプセル)
③ ワンアルファ:1錠毎日(ビタミンD3の抗腫瘍効果を期待)
④ タガメット:4錠毎日(抗腫瘍効果を期待)
⑤ メトグルコ:1錠週1回(抗腫瘍効果を期待)

間欠的超低用量治療の背景をご説明いたします。

前立腺ガンに対して真正面から攻撃(針生検・ホルモン治療・抗がん剤)を行えば、ガン細胞はモノではなく生き物ですから、対抗処置を取るのは当然です。その結果か、「去勢抵抗性前立腺ガンCRPC」の出現です。

ホルモン治療で低男性ホルモンの環境や抗がん剤の浸潤で、毛細血管の間近のガン細胞は次々に死滅します。しかし、深部に存在するガン細胞たちは、死滅するまでにタイムラグがあります。その間に表面のガン細胞の死滅情報は深部に伝わります。深部のガン細胞たちが現状を黙ってジッと見ている訳がありません。ガン細胞に何が出来るかと言えば、細胞分裂して仲間の数を増やすことしか方法がないのです。ガン細胞の細胞分裂は、健常の細胞分裂のように完全な瓜ふたつのコピーではありません。不完全な細胞分裂を行います。すると、ふたつ出来た、それぞれの細胞の核内の染色体数はバラバラになることは、周知の事実です。結果、悪性度の高い、男性ホルモンを作ることの出来るガン細胞、つまり「去勢抵抗性前立腺ガン」が誕生するのです。

前立腺ガンに対して、標準的な正面からのあからさまな攻撃が、逆に患者さんの命を縮めることになり兼ねないのです。イメージで言うと、前立腺ガンに、ナイフや鉄パイプで対峙して攻撃をかけようとすれば、ガン細胞からは相当な「反撃」を喰ったとしても不思議ではありません。そうではなく、ガン細胞と一緒に仲良くお茶を飲んだり食事をしたりして談笑しながら、影でコッソリと毒を盛るようなイメージでガン細胞の暗殺(攻撃)を図るのです。
その方法が、極少量のホルモン剤や抗がん剤を間欠的に投与するという私独自の方法です。

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このグラフは、1998年臨床泌尿器科増刊号の前立腺癌の悪性度と生存率の比較を示したものです。前立腺針生検をすることで早期に前立腺癌を見つけ治療するべきと言う意図で、このグラフが作成されたものと思われます。
しかし、見方を変えれば、悪性度の高いグリソンスコア8~10の前立腺癌の患者さんは、針生検をきっかけに生存率が一気に低下しているように見えます。グリソンスコア8~10の患者さんの5年生存率は約33%にも低下するのです。
針生検という安易で「原始的な」破壊的検査で前立腺ガンの確定診断をせずに、触診とエコー検査などの非破壊的検査だけで、前立腺ガンの悪性度(グリソンスコア6~10)とステージⅠ~Ⅳを診断するべきです。それこそが智恵とテクニックを駆使した医師の行うべき本来の文明的な医学です。

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このグラフは、日本での前立腺ガンの罹患数と死亡数の推移と時代背景を示したものです。最近の日本で、前立腺ガンが急激に増加した理由は、PSA検査の普及・一般化と安易な針生検が原因と思われます。つまり、医師による正当な理由で前立腺ガンを探索したために起きた、医原性の前立腺ガン増加とそれに伴う死亡数の増加としか考えられません。1976年から2012年までに前立腺ガンの罹患数は32倍以上も増えています。これを自然増加や食生活の欧米化と言われていますが、疑問です。日本人男性にはラテント癌(潜伏ガン)が、少なくても60代で23%、70代で34%、80代で50%以上存在します。また、ラテント癌には、グリソンスコアのすべてが揃っています。たとえ悪性度が高くてもラテント癌はラテント癌なのです。悪性度が高いから前立腺針生検して確認しなければ、と言うことにはなりません。
PSA検査をして針生検すればするほど、前立腺ガンで悩む患者さんを増産していることは、泌尿器科の医師たちには増収増益になりますが、前立腺ガンの患者さんからしてみれば、ある意味で、犯罪です。標準診断・治療に何も考えずに受け入れる姿勢は、医師として疑問を感じます。PSA検査の先駆者であるアメリカ本国では、PSA検診をすすめていません。もしもPSA検査を行う際には、その不利益を十分に説明する義務があるのです。アメリカの真似をして行っていた日本のPSA検診を未だ止めていません。日本だけは違う特有の患者さんの利益があるからと言うのです。……統計の操作としか思えません。

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この表は、前立腺癌の5年生存率を示したものです。悪性度に関係なく5年生存率は、ステージⅠ~Ⅲは、ほぼ同じです。さらに前立腺癌ではない健常者の5年生存率と全く同じなのです。つまり、ステージさえ確認できれば、針生検で悪性度を確認せずに治療を開始すれば良いことになります。触診と超音波エコー検査でステージⅠ~Ⅲの分類は可能です。PSA値が異常に高値であれば、ステージⅣの可能性が高く、骨シンチやMRI検査で診断可能でしょう

Gsdiag
触診と超音波エコー検査でのグリソンスコアの目安は次の表の如くです。

もちろん、私の考えは標準的なものではなく、失笑されるような考え方です。でも、標準的な治療することで患者さんを追い詰めても、誰も責任を取らない現状の泌尿器科学会の方針に、私はとても疑問を感じます。

今後とも、宜しくお願い申上げます。

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コメント

この診療情報提供書というのは医学の発展のために医者同士で情報交換するような場合に使われるのでしょうか?
★回答
この情報提供書を送られた医師は、変人の医師から偏屈な内容を送られた、と思うか、目からウロコが落ちたと感激のどちらかでしょう。

投稿: | 2018/08/04 15:47

私の曾祖父も曾祖母も家で亡くなった。
あの頃の老人たちは家で亡くなるのが当たり前で遠く離れた町から診療所の医師と思われる人が死亡診断書を書きに来ていた。
警察が入る事もなく、ごくごく当たり前に何処の家もそのようにしていた。

私が私の母から聞いた話です。
ほんのほんの5,60年前の話です。

あの頃は60代で亡くなる人も多く、又、過疎も進んでいなかった為、集落の中では頻繁に葬儀が行われていたと
、これも母から聞きました。

穏やかで緩い時代、緩い土地柄であったのが容易に想像出来ます。

あの時代の人間であったなら、私も後10年位で死を迎える事が出来たかも知れません。

私は愚かで我が儘で自分勝手な人間です。

「高橋先生、私より先に死なないで下さい。
私は高橋先生より先に死にたいです。そうじゃないと不安で不安で生きた心地がしないのです。」

高橋先生は笑っていらっしゃいました。
しかし、私は本当にそう思っているのです。


夏休み、どうぞ、楽しいお時間をお過ごし下さいませ。

投稿: | 2018/08/07 17:48

2017年12月31日、大晦日だというのに私は高橋先生に電話を掛けた。
突然の発熱、嘔吐でパニックになった。
ノロか?インフルか?
二週間後に息子がセンター試験を控えている為、私は慌てた。

幾らなんでも非常識?
流石に呆れられるかな?

恐る恐る電話を掛けた私に高橋先生は殊更、可笑しそうに
笑ってらした。

「僕とあなたはそういう運命を背負わされているんだよ。
神様から選ばれた人間なんだよ。」

大晦日の電話を咎める事も非難する事も一切なさらず
私に安心感を与えて下さった。


高橋先生、診察券NO.32159です。
本当にいつもお世話になっております。

毎日の痛みが酷くやっとの思いで生活しています。
次は8月17日に診察をお願いしたいと考えております。

生きて行く為には決断しなければならない時があります。
お盆休みに夫婦で、家族で相談致します。

それを持って8月17日にお伺い致します。

どうぞ、宜しくお願い致します。

投稿: | 2018/08/10 12:54

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