腹圧性尿失禁の患者さん
過去に神経因性膀胱を手術で治した患者さんが、3年ぶりに訪問されました。
有名な国立大学病院で子宮ガンの手術を行い、その後に放射線治療をされたご婦人です。以来、オシッコが出にくくなってしまいました。自尿(自力で出せるオシッコ)が150〜250㎖で残尿(膀胱に残っているオシッコ)も150〜250㎖でした。そのため、毎日3回〜5回の自己導尿を大学病院の泌尿器科で強制されていました。
問題解決のために当院を受診しました。ユリーフを処方したところ、自尿が常に250㎖ほどになり、残尿も100㎖まで低下しました。
私独自の内視鏡手術を知って、大学病院の主治医に相談しましたが、「絶対におすすめ出来ません!」と言われたのですが、固い意志をもって私の手術を受けたのでした。手術後から、自尿が増えて残尿がほとんど無くなりました。その後、自己導尿は行わなくなりました。神経因性膀胱が治ったのでした。
……ところが、過去の神経因性膀胱と診断されていた頃から、腹圧性尿失禁があったのですが、手術後も腹圧性尿失禁が治ってなかったのでした。 前回、「尿失禁と骨盤底筋体操」と言うテーマで解説したブログを読み、意を決して、3年ぶりの久しぶりに訪れたのです。
過去の初診時のエコー検査を再確認すると、膀胱括約筋の走行が本来は赤い破線の→ですが、尿道側(赤い→)に向いています。この時点で、膀胱が尿道側=骨盤底側に位置が引きずられていることが分かります。膀胱が下にズレると、尿道括約筋・骨盤底筋の走行が内部方向になり、尿道括約筋が開きやすくなるのです。これが、尿失禁の原因です。手術を実施した私が一番心配だったのが、手術の後遺症で尿失禁をひどくしてしまったかどうかです。患者さんにお聞きすると、それはないそうでした。ひと安心です。
過去の画像から推理できることは、修正した写真の如くです。
神経因性膀胱と診断される、はるか昔の膀胱は、青く着色された部分です。この際の尿道括約筋・骨盤底筋は、尿道ライン(点線の矢印)とほぼ垂直に交差していました。
ところが、排尿障害が続き、膀胱の位置が下にズレたこと(赤く着色)により、尿道括約筋も下にズレてしまいました。そのため、尿道括約筋・骨盤底筋は垂直に交差しなくなったのです。、
対策としては、まずは有名な骨盤底筋体操です。一般的には医師も含めて、骨盤底筋の筋力だけを鍛えることに終始しますが、これは誤解です。本当の目的は、膀胱を本来の上の位置に戻してあげることです。その証拠に、尿失禁の外科的手術は、膀胱吊り上げ手術だからです。
膀胱の下の尿道にテフロン製のテープを通して吊り上げる手術です。一見、尿道だけを締めているように見えますが、実は、間接的に膀胱を吊り上げているのです。その結果、尿道括約筋の位置が高くなって締まりやすくなり、尿失禁が落ち着くのです。この手術を行っている執刀医の中には、尿道を締めているから、尿失禁が落ち着くのだと勘違いしている医師もいます。そのように勘違いして手術をされると、逆にオシッコが出にくくなってしまいます。
骨盤底筋体操の際のポイントは、骨盤底筋を鍛えるだけではなく、膀胱が上の位置に持ち上がるようなイメージでトレーニングしてください。骨盤底筋を収縮させると同時に、下腹部を凹ませて、骨盤内の臓器を上に持ち上げる感覚です。
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