悔やまれる経験
ある日、PSA検査の結果が高く、大学病院で針生検をすすめられたご高齢の患者さんが、バカの一つ覚えの針生検を嫌って高橋クリニックに訪れました。
……ひと目見る👀なり、『影が薄~い!』と思いました。当然、前立腺ガンだろうと思ったのですが、エコー検査や触診でも前立腺ガンは確認できませんでした。おそらく、『ガンが隠れているのかな?』と考えました。取りあえず、前立腺肥大症の治療薬であるプロスタールを処方しました。
その後、定期的に来院されていましたが、前立腺は小さく、ガンの所見はまったく得られませんでした。しかし、影が本当に薄〜いのです。実は、この患者さんは、私の出身大学慈恵医大卒業の小児科の開業医の先生でした。つまり、同窓の大先輩だったのです。前立腺ガンが認められないのに、なぜ、影が薄~く見える???のか疑問でした。
半年以上経過したある日、ご家族からお電話がありました。地元の病院で、貧血と呼吸の状態の悪さを以前からいろいろ検査して診ていただいたのですが、具合の悪い原因がハッキリしませんでした。呼吸状態がさらに悪化して、再度色々検査したら、腎臓に影が見えるという結果が出たのです。最終的に腎臓ガンによる貧血と肺水腫だったのです。その後、緊急入院して治療を始めたのですが、残念ながら、1か月足らずでお亡くなりになりました。
……影が薄く見えたのは、実は腎臓ガンが原因だったのです。前立腺の超音波エコー検査の際に、ついでにチョッと上の腎臓を調べていたら、もっと早く腎臓ガンを見つけることが出来たかもしれません。自分の五感を信じ、もっと検査をするべきでした。悔やまれてなりません。
後日、奥様とお嬢様が、これまでのお礼に参られました。私も正直に、感じていたのに腎臓ガンを見つけられなくて申し訳ありませんと謝罪しました。すると、お二人は、「あの頑固な父親が、定期的に後輩の先生のところに訪れるのを楽しみにしていました。」と感謝の言葉を告げられたのです。……かえって恐縮してしまいました。
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