術後「早期離床」の弊害
大病、例えば、食道ガン、胃ガン、大腸ガン、肺ガン、前立腺ガンなどの癌の手術後、翌日には早期離床をすれば、患者さんが早く元気になるので、大病院では率先して勧められるのです。
この「早期離床」は、アメリカから持たされたシステムです。では、アメリカでは、なぜ早期離床が広まったのでしょうか?
実は、アメリカの保険制度が関与しているのです。アメリカの保険制度では、手術と入院費用は定額なのです。つまり、手術した患者さんが早く退院しても、術後の合併症で止む無く長期入院しても、保険会社から病院に支払われる治療費は全く同じなのです。病院の経営者からすれば、長期入院させれば利益は少なくなるに決まっています。術後に少しでも早く退院させるために、いろいろのパターンで企画し治験を実施し確立したのです。
アメリカの事情も考えずに、新しい方法を直ぐに取り入れて、現在があるのです。
ここまでは、特に何の問題もないとお思いでしょう?ところが、教科書的な常識を鵜呑みにしてはいけないのです。
例えば、中村勘三郎さんが食道ガンの手術後に縦隔洞炎で亡くなられたのは、ご存知でしょう?
手術の翌日には早期離床で歩いている姿がテレビで映っていました。ところが、その後直ぐに縦隔洞炎を併発して、病院が変わっても縦隔洞炎が悪化し、敗血症で亡くなられたのです。偶然で仕方がないものとお思いでしょう?
日本人は、白人に比較して感染症が起きやすいのです。なぜならば、日本人の白血球(顆粒球)が白人のそれと比べて興奮し易いのです。顆粒球が興奮するために察知する情報源は、手術した部位の痛み情報と、人間の活発な動きです。本人の自覚していない患部の痛みと、早期離床による活動により顆粒球は活発に反応します。その結果、手術の際に損傷した縦隔洞に炎症が起きて縦隔洞炎になったのです。たまたま偶然ではないのです。執刀医の無知が引き起こした医原性の合併症です。
人間はみんな同じ、白人の詳細なデータは、黄色人種の日本人にも当てはまると誤解するにです。海外で研修を受けた人は、その意識が特に強いのです。海外の白人の手術は、出血も少なく手術時間が速いのです。白人のテクニックが素晴らしいとお思いでしょう?実は、白人は日本人に比較して、出血が止まりやすいのです。日本人の手術中に見られる、見えない血管からのウージングという出血がほとんどないので、時間のかかる止血操作が省けるのです。
では、中村勘三郎さんの合併症を未然に防ぐにはどうしたら良かったのでしょうか?早期離床を中止して、術後3日くらいは、ベッド上で安静にすべきでした。早期離床によって、活発に動くため交感神経が興奮します。当然、交感神経の支配下にある顆粒球が興奮して、手術した患部に集まります。その結果、炎症を誘発するのです。
また、手術は全身麻酔が当然ですが、手術が終了して麻酔を切ると、手術部位の患部組織がビックリするので、眠っていた中枢が気がつくのです。それを避ける意味で、全身麻酔と同時に患部の神経支配の硬膜外神経ブロックを処置すべきでした。ワンショットのブロックでもいいですし、細いカテーテルを使った持続硬膜外神経ブロックでもいいのです。術後の患部に怪我をしたと自覚させないのです。手術後麻酔が切れる状態をパッと切れるのではなく、斬減的にユックリ切れるようにするのです。飛行機の着陸時のハードランディングすれば、機体や乗客に被害が出ますが、ソフトランディングにすれば、乗客も「エッ?着陸したの?」という具合になります。
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コメント
早速のご回答ありがとうございました。
朝の珈琲専門店での京大の医師たちの会話でよくこのことが話題に上ります。
医師一人一人は現在の医療問題に批判的なのですが、大学組織になるとなかなか改善されません。
私の親しい名誉教授も京都の医学界では大変な有名人なのですが京大を退官してからはご自分でイベントを開いて現代の医療の矛盾点を広くアッピールされています。
現在は診療所の理事長をされていて81歳の現役医師をしています。
何か医療問題が報道されるとテレビのニュースで解説をされています。
息子さんがいないのでいつも本当のことを言えるのだそうです。
日本の過剰医療を最も危惧されています。
病気で亡くなるのと同じぐらい過剰医療で亡くなるのではと思うそうです。
投稿: 京都在住 | 2017/10/03 09:31
先生、こんばんわ。術後の経過は順調でしょうか?。。。茨城に嫁いだ姉のご主人が、今、事前の検査中で、その後、肝臓がんの手術を受ける予定です。入院する病院の術後の扱い方が判りませんが、姉には、先生のブログ内容を見せて、術後直ぐに、病院で体を動かすように言われても、数日間は、出来るだけ安静にしている様にって、話そうと思います。貴重なお話をありがとうございます。。先生がお元気に、診察に復帰される事を、お待ちしています。
投稿: 静岡県 | 2017/10/03 19:04