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透析室の思い出

Img_0465私が大学病院のチーフレジデント(病棟責任者)だった頃のお話しです。

教授の執刀するある手術の第1助手として付いていました。その患者さんがVIP(代議士)で膀胱癌の開腹手術でした。膀胱癌を含めた膀胱部分切除でした。膀胱を縫合して下腹部を閉じて手術は無事に終わりました。術後に膀胱留置カテーテルを洗浄すると、すごい出血です。何回洗浄しても出血は改善しません。
教授は、「大丈夫だろう」と気にも留めてくれません。『マズイだろう!』と私は思い、さらに麻酔科の先輩の先生が目配せしながら私に『何とかしろ!』とサインを送るのです。

E7f389a5d0674f6ba38197f6976499d9医師も徒弟制度ですから、下っ端の助手の私が教授に逆らえる訳もありませんが、出血か止まらずに夜間に緊急手術になれば、私も麻酔科の先生もてんてこ舞いになるのは必至です。そこで、気弱な私が勇気を出して教授に「先生!再度開けて出血を止めましょう!お願いです!」と懇願しました。教授は「何だ、高橋は弱気な奴だな?」と言いながらも、シブシブ再度膀胱を開けてくれました。

すると、切除した部分からビュービューと血液が吹いていたのです。出血部位を止血縫合して無事に手術は終わりました。教授は「たまには、高橋の言うことも聞いた方がいいな」と言って、手術室を出て行かれました。
(翌日病室で、このVIPの患者さんは、教授にとても感謝していました。昨日懇願した私に一べつもありませんでした。教授以外は白衣を着た単なる黒子ですから……。『この政治家は人を見る目がないただの人だ』『大した政治家ではないな』その時に思いました。)

Img_0367私も手術室を出て、手術準備室でやれやれと思って一息ついていました。そこに、下の医師から緊急電話があり、直ぐに透析室に来てくれとのこと。急いで行くと、腎臓内科の透析室の責任者の医師が待っていました。泌尿器科の入院患者さんで、腎癌の術後に腎不全になり、今日の透析中に突然死したと言うのです!
Img_0287「透析室の外でご家族がお待ちだから、状況をお話して、なるべく静かにご遺体に会わせてくれ」と言うのです。
「騒がれると、他の透析中の患者さんたちが、そのうち自分たちも......と思われるから」
そして、「ご家族には、まだ説明していない」と言うのです!
『さっきの手術で精神的にクタクタの俺に?』『現場にいたコイツではなく、今来たこの俺に?責任回避のコイツは大した医師ではないな』と思いながらも、透析室の前でお待ちになっていた患者さんの奥様に状況を説明しました。「透析中の患者さんがいますから、お静かにお願いします。」
透析室に入っていただいて、心臓マッサージ中の亡くなったご主人に会っていただきました。ご主人を見るなり、奥様は、「ぎゃ〜!あなた〜!うわ〜!」と叫ばれてしまいました。先ほどの透析室の責任者から、鋭い目で見られてしまいました。

その日は大変な日でした。まさか、自分が35年後に透析室のお世話になるとは想像もできませんでした。神さまからのヒントだったのかもしれません。


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