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風邪には抗生剤が効かない?

Img_0324今年の6月に厚労省が次のような通達をしました。
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 「厚生労働省の有識者委員会は6日、軽い風邪や下痢の患者に対する抗生物質(抗菌薬)の投与を控えるよう呼びかける手引書をまとめた。抗生物質を使いすぎると薬剤耐性菌が増え、治療に有効な抗生物質が将来なくなる事態が懸念されているため。早ければ今月中にも、日本医師会などを通じて全国の医療機関に配る。

 手引書では、一般的な風邪の原因となるウイルスには抗生物質が効かないことから、「投与を行わないことを推奨する」とした。医師が患者に説明する際に「抗生物質は効かない」と告げた上で、症状が悪化する場合は再受診するよう指示しておくことが重要だとしている。」
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この内容を聞くと『なるほど』と思いますよね?
風邪は、ほとんどウィルスが原因だから、細菌に効く抗生剤は効かないと言うのは『なるほど』と思えます。ところが、この論理は表面的な短絡的な考え方です。

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この理論が正しいとすれば、その昔、なぜ肺炎や髄膜炎や扁桃腺膿瘍などで多くの人が死んだのでしょうか?実際、私が幼少の頃、風邪を引いて、その結果、肺炎を起こし大学病院に入院しました。瀕死の状態でした。この時、大学病院の医師から両親に「保険の利かない抗生剤があるのですがどうします?」と提案されました。高額でしたが、両親は貯金をはたいて治療してもらい、65歳の今の私があるのです。

風邪の症状は、外気から体内に侵入したウィルスと、体内に以前から潜んでいる細菌との「共同作業」です。ウイルスは、積極的に人体に侵入して、自分たち増殖に目がありません。ところが細菌の方は、常在菌で人体の中で共生しているだけです。
ところが、ウイルスが侵入すると、人体の免疫システムが素早く察知して、白血球の中のリンパ球が免疫抗体を作り始めます。しかし、直ぐには抗体を量産できません。抗体が十分に出来るまで3日〜5日の時間を要します。その間、人体は手をこまねいてジッと待つ訳にいきません。そこで、活躍するのが白血球の中の顆粒球です。顆粒球は、ウィルスが侵入した咽頭部に集まります。ウィルスはいますが、顆粒球は攻撃することができないので、咽頭部にいる細菌に対して一斉に攻撃をかけるのです。細菌とはいえ常在菌ですから、顆粒球と戦う術を持っていません。仕方なく、細胞分裂を行い、細菌は極端に増殖します。その増殖が引き金になり、白血球はますます興奮し、たくさんの白血球が自爆します。自爆すると、白血球内の毒が咽頭組織を破壊し化膿します。これが扁桃腺膿瘍です。この状態が負の連鎖で次々に悪くなります。現場では血管が増生充血していますが、白血球の暴走で血管は破綻し、そこから増殖した細菌が大量に血流に乗り、肺や脳に流出します。その細菌こと常在菌が、肺炎双球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌なのです。量産された免疫抗体が現場に駆けつけた時には既に遅く、化膿性細菌性の炎症が周囲の臓器に散らばり、対ウィルスの免疫抗体では対処出来なくなるのです。

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これが、ウィルスが原因の風邪が重症化する原因です。では、なぜ風邪が重症化することが少なくなったと思いますか?理由は簡単です。栄養状態が良くなって、免疫抗体の原料であるタンパク質が豊富で、免疫抗体の量産体制が昔に比べて速く良くなったからです。そして、風邪をこじらせたり、重症化した時には、「体力が落ちていたから」、「たまたま細菌が原因の風邪だったのだろう」と安易な診断をするのです。

では、重症化しないためには、どのようにしたら良いのでしょうか?
まずは、疲れをためない、充分な休息と睡眠を取ることです。そうでないと白血球特に顆粒球が常に興奮していて、チョッとした事で常在菌に攻撃をかけるからです。医師も患者さんをひと目見て、『この患者さんは日頃疲れている』とか『充分な休息が取れていない』などと推察できません。ですから、ウィルスに効かない抗生剤を少量、3日ほどの短期間だけ処方するのです。すると、抗生剤が白血球の興奮を抑え、常在菌の数を減らしてくれます。免疫抗体は3日〜5日で増産できますから、ウィルスを攻撃した事を確認して、白血球は手を引きます。免疫抗体が量産できるまでのタイムラグの対策が抗生剤の投与なのです。

その昔、イギリスで子供の風邪に❶抗生剤を処方したグループと❷処方しないグループに分け、臨床治験を実施しました。結果、❶❷の有意差を認めなかったので、風邪には抗生剤は無用という文献がありました。これをまるで「錦の御旗」にして論じる医師がいますが、そこには盲点があります。昔のイギリスでは、貧富の差があり、医師に掛かれるのは、栄養状態が良い金銭的に余裕のある子供たちだけでした。

以上の理由から、【風邪には抗生剤が効かない】は、ある意味、真実で、ある意味、真実ではありません。
抗生剤はウィルスの治療薬ではないという常識から、風邪に抗生剤は意味がないという結論は、素人でも思い付くことです。病気の専門家が、病気の本質を考えもしないで、短絡的に同じ結論を出すとは本当に情けない。I.Qの高い厚労省の医官が、このような通達するとは……。
たかが風邪、されど風邪です。単純な病気に対しても、時代背景や社会背景を念頭に置いて患者さんを診察しなければなりません。現代人は栄養状態の良いので、重症化することは少ないですが、ゼロではありません。インスタント食品ばかり食べている子供とか、タンパク質の摂取量が少ないご老人とか、基礎疾患があり顆粒球免疫が高揚している人には、重症化する可能性が高いのです。重症化してから、後出しジャンケンのように、「バイ菌が原因の珍しい風邪だった」とか、「免疫力がなかったから」などと医師に言って欲しくはありません。「病気を診ずして、病人を診よ!」です。


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コメント

水分の過剰摂取はこの記事には関係ないのでしょうか?
水毒?による体の反応?
☪️回答
水分を多く摂取する人の白血球・顆粒球は、常に興奮しているので、炎症が起きやすいのです。

投稿: m | 2017/09/03 01:46

いつもブログ楽しみに読んでいます。

更年期に入ってから2~3ヶ月に1回膀胱炎を繰り返しています。
その度にクラビットやセフゾンなどの抗生剤を服用していますが耐性菌ができてしまいいつか効く抗生剤がなくなってしまうのではと危惧していますがどうなのでしょうか。
☪️回答
本当の膀胱炎は、性行為の後に起きます。
そうでなければ、膀胱炎症状だという事で、本当の膀胱炎ではありません。
排尿障害がある人に、時々膀胱炎症状が出るのです。
「3つの膀胱炎」をお読みください。
http://hinyoukika.cocolog-nifty.com/kobore/2017/08/post-67e9.html

投稿: さらさ | 2017/09/03 14:00

印刷して、熟読させていただきます。
感動しました。

投稿: カボスワイン | 2017/09/05 20:30

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