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実学❷

197ea2d5987e428ebf4305d66873dfaf私の先輩の先生方の研究論文が、臨床に役立つ実学が多かったのです。
❶その昔、完全に止まってしまった尿管結石は、腎臓を守るために手術して除去(尿管切石術)するしか方法がありませんでした。そのために、ワキ腹の皮膚と筋肉を袈裟懸けに大きく斜め切開して除去しました。筋肉を深く傷付けるので、術後の痛みはかなりのものでした。当時の南教授(故人)が、色々考えた結果、ワキ腹を縦に小切開して、広背筋と腹斜筋の合わせ目を開き、さらに腹膜の後ろから後腹膜にある尿管に到達する方法を考案し実践しました。術後の傷も目立たず、筋肉を切らないので痛みも少ない秀逸の手術でした。慈恵医大独自の南式尿管切石術です。臨床に役立つ実学です。
❷尿管結石を確認した際に、自然排石出来るかどうか不明でした。たくさんの尿管結石の症例を集め、レントゲンの所見と経過を検討し、出した結論が今も利用されています。レントゲンフィルムに描出された【結石陰影の11mm✖️6mm以下の大きさの尿管結石は、90%の確率で自然排石する】というものです。臨床に役立つ実学です。
❸血尿の原因を確認するためや前立腺肥大症の閉塞具合を確認するために、当時エコー検査がなかったので、膀胱鏡や尿道鏡をしなければなりませんでした。その際にキシロカインゼリーという尿道粘膜麻酔薬をあらかじめ尿道注入しなければなりませんでした。男性の場合、尿道の体積が分からなければ注入量を決めることができません。そこで、尿道造影をすることで、何mlの造影剤を注入すれば、尿道全体と膀胱出口まで十分に到達できるかという検討を行ない、結果、【尿道麻酔の注入量20ml】と決められたのです。これも臨床に役立つ実学です。
Img_0422❹私が直接指導を仰いだ町田教授は、放射線同位元素を利用して腎機能をグラフで描写し、初めて視覚化画像化することに成功しました。それが腎シンチグラム(レノグラム)です。これも臨床に役立つ実学です。
❺私の1年後輩である和田先生の研究論文が、私の今の考えを支えています。前立腺ガン以外で亡くなられた患者さんの前立腺を摘出して、彼は詳細に調べました。Img_0415すると、かなりの確率で前立腺ガンが潜伏していることが判明したのです。そのガンをラテント癌(潜伏ガン)と言います。70歳代で34.7%、80歳代で50%というかなりの確率です。現在ではそれ以上とも言われています。最近、前立腺ガンの罹患率が急激に増加しているのは、PSA値が高いことを言い訳にして、ただひたすらにラテント癌を陽の当たる場所に出して、手術件数を増やして喜んでいる泌尿器科医が大勢いるからだと、私は思っています。この和田先生の研究論文も臨床にとても役立つ実学です。
❻私は、残念ながら、そのような実学的研究に遭遇することも思い付くこともなく、大学病院を辞めて在野に降りました。好きな臨床に専念しました。大学で研究・業績を残せなかったという気持ちがあり、私にとってのコンプレックスになっています。そのため、『え~い!一生勉強だ!勉強だ!』という開き直りの気持ちがあり、今の自分があります。ある意味、この状況が私の実学なのでしょう。

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