夢枕
通院しているある会社の社長さんから直接うかがったお話です。
この社長さんをCさんとします。ある夜、Cさんが眠っていると、実のお兄さんが夢の中に出てきて、実家(青森)の階段の下の納戸を一生懸命に捜しものをしているのです。実にリアルな夢でした。その翌日も翌々日も同じ夢を見たので、Cさんは青森の実家の母親と兄さんのお嫁さんに電話して、階段の下の納戸に何かあるから、捜すように頼みました。
実はCさんのお兄さんは、問題の夢を見る前の2週間前に、ポカポカ陽気の昼間に車の運転中、居眠りをして川に転落して溺死したのでした。そのお兄さんが夢に夜な夜な出てくるのです。
実家で家族が捜しても何も見つかりません。お陰で、お兄さんの出てくる夢を1週間見る羽目になりました。Cさんは堪らずに、青森に帰郷し実家の階段下の納戸を徹底的に調べました。すると、資源ごみとして束ねたあった新聞紙の下から帳簿が出て来たのです。お兄さんは自営で新車・中古車の自動車販売を商っていましたから、二重帳簿?を密かに隠していたのです。その後、階段下の納戸の夢は、ピタリと見なくなりました。
しばらくすると、またまたお兄さんがCさんの夢の中に出てきて、「メガネがない」「メガネがない」の連呼の夢を見るようになりました。実家に電話すると、お棺に愛用のメガネを入れ忘れたとのこと。そこでお兄さんのお墓の中にメガネを納めると、メガネの夢を見なくなりました。
Cさんは、また夢を見ました。今度もお兄さんが出てきて「ジャンバーがない」の連呼です。またまた実家に電話すると、お兄さんが所属していた町内会の野球チームで作ったおそろいのジャンバーを、やはりお棺に入れ忘れたとのこと。早速、お墓に納めると、お兄さんの夢は、二度と見なくなりました。
溺れる車の中で、このお兄さんが『裏帳簿が・・・』『メガネが・・・』『ジャンパーが・・・』と必死に考えながら亡くなられたとは、到底思えません。事故現場に残った残留思念とは考えられない内容です。死後、自身に起きた現実を知ったお兄さんが、時間の経過とともに順を追って思い出し、弟の夢枕に立ったとしか思えない内容です。今回のエピソードからは、死後の世界では成仏するまで考える時間的余裕と意思表示の手段があることが分かります。それが冥途の49日間かも知れません。
身の回りの品々程度で成仏できない仏さんです。もしも恨み辛みを持ってなくなられた場合の仏さんの執念は、・・・恐くて想像できません。
※以前に、日本医師会新聞に採用された原稿です。
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