薄い影❶
ある日、前立腺肥大症の術後の66歳の患者さんが、術後報告に来院されました。
手術後の経過は良好で、排尿状態もすこぶる良く、手術をしてもらって良かったと喜んでおられました。・・・しかし、・・・しかしです、その患者さんの「影が薄い」のです。貧血で顔色が悪いのでもなく、とにかく影が薄く見えるのです。
「体の調子が悪くありませんか?」と尋ねると、否定されます。しつこく尋ねると「胃がチョッともたれます。」という返事です。
「地元の大きな病院で、必ず胃カメラを行なってもらってくださいね!」と私に念を押されて、患者さんは帰られました。
その2ヵ月半後、その患者さんが久しぶりに来院されました。患者さんの影が元に戻り、濃くなっているのです!
「先生の言いつけ通り、地元の病院で胃カメラを行なったら、胃前庭部に胃癌が見つかり、手術しました。」
「地元の外科の先生が、胃前庭部に発赤がある。私は様子をみたいと言ったら、主治医が胃癌を疑うので手術をすすめられました。」
「術後の結果は悪性度が中くらいで、浸潤も転移も発見されませんでした。」と喜んで報告されました。
私もホットです。「実は・・・」と言って、カルテを患者さんに見せました。殴り書きのカルテでお恥ずかしいですが・・・カルテには「胃不快」の記載の下に「白い」とコメントをつけています。「白い=影が薄い」の私の隠語です。
患者さんも泌尿器科医である私が胃カメラ検査をしつこく念を押したのが気になっていたんだそうです。
私が過去に体験した事をキッカケに、「薄く見える人」は、原因はともかく、半年後には亡くなるというのが、私の常識になってしまったのです。まるで、命の炎が見える占い師のようです。
この記事を書いてから10年後のある日の朝、顔を洗うために鏡の前に立った時、鏡の中の自分の姿が「薄い」のです。『私の命が半年?』と思い、血液検査をしたら慢性腎不全が判明したのです。
| 固定リンク
コメント
「あなたは90くらいまで生きると思うよ。
そういうふうに見えるよ。」
三回目の診察の際、高橋先生がそう言われ
私はこの病を抱え、90まではとてもじゃないけど
生きたくないな……と、思いました。
高橋先生に出会い死生観というものを常に考えるようになりました。
長く生きれる事が目標や目的ではなく、如何に生きたか?
時間というのは限りあるもので今、この時が愛しい。
私の中で随分、考えが変わりました。
会うべき人に会った。
会うべき人に会わせてもらった。
高橋先生との出会いに、ますます感謝の気持ちが膨らみます。
投稿: | 2017/08/09 13:17