薄い影❷
午前の早い時間帯の診療中、50台の男性が、「昨日から風邪のようだ」と言って、診察室に入ってきました。『!』・・・愛想の良い笑顔の患者さんですが・・・その笑顔が白いのです。・・・私の見え方でいえば、「影が薄い」のです。
風邪の症状をお聞きすると、体がだるく胸が少し痛いとのこと。風邪のウィルスで胸肋関節(胸骨と肋骨の関節)の軟骨が炎症を起こすと痛みます。痛みのある部分を押しましたが患者さんは痛がりません。通常、胸肋関節炎は自発痛と圧痛があるので容易に判断できますが、この患者さんには認められません。
しかし、お顔を見ると・・・「影が薄い」のです。・・・胸の痛みなので、心電図を取りました。すると、見たこともない心電図の所見です。典型的な心筋梗塞であれば、容易に診断できますが、心筋梗塞の心電図所見でも狭心症の心電図所見でもないのです。
地元の医師会の循環器の専門医を紹介し、すぐに行ってもらいました。
診察室を出るときに患者さんは、「大丈夫ですよね?」とニコニコしながら私に尋ねました。さすがに「影が薄い」とは言えずに、「風邪のウィルスで心内膜炎や心嚢炎になることがあるので、専門医に診ていただきましょう。」と告げました。
午後の診療中に紹介先の循環器の先生から電話連絡がありました。その先生も診察した時点で急を要すると判断し、近くの赤十字病院へ紹介しました。即刻入院、ICU(集中治療室)で治療を受けているそうです。
月曜日に循環器の先生から連絡がありました。患者さんが風邪で来院したのは、木曜日です。当日に赤十字病院に入院しましたが心臓の働きが次第に悪くなり、土曜日に急遽、最新高度医療病院に転送になり、緊急バルーンパンピング(機能不全に陥った心臓を助けるために、心臓・大動脈に特殊な装置を挿入し心臓を補助する)をしましたが、残念ながら日曜日に亡くなられました。診断は「劇症型心筋炎」だそうです。何らかの原因(風邪のウィルス?)で、心臓の筋肉が炎症を起こし、炎症を起こした心筋は死にます。心臓全体の筋肉が炎症を起こした時点で、心臓が停止するというものです。(日本心臓財団HPを参照)始めの心臓の炎症が引き金になり、患者さんの免疫システムが暴走して自分自身の心臓を攻撃するという悪循環な病気です。治療法としては、早期の免疫コントロールです。一般医が、心臓の症状のある患者さんに免疫抑制剤やステロイドの大量注射は、出来るものではありません。
私が感じている「薄い影」は、現時点から半年後の将来の間の生命の危機を暗示します。絶対的な運命ではなく、生還される可能性が多々あります。
しかし、患者さんをぼんやりと診察していたり、検査やデータだけに注目していると見逃すのです。最近の若い医師は検査データ至上主義です。また、患者さんを直に見ないで、電子カルテのコンピューター画面ばかりに視線が釘付けです。患者さんの雰囲気を見逃してしまいます。有名な井原さんの霊感ではないけれど、もっと感性を高めましょう。そのような覚悟で患者さんを観察すれば、見えるようになるのです。何事も訓練・鍛錬です。
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コメント
私はあまり注意しないでいると瞼のたるみを見逃すことがいつもありますが、本当に注意してみるとわかることがよくあります。
理由は素人なのでわかりませんが本当に身体に異常がある人には現れるのです。
きっと眼科医さんは経験からなにか昔から知っているのではないかと思います。
人が巨大化する現象は、わからなくなりましたが、瞼のたるみは今でもわかります。
☪️回答
この後、薄い影❸❹❺❻と書いていきます。
症例を1つ1つ記録すると、見えて来ます。
瞼に関しても記録したらいかがでしょうか?
投稿: 京都在住 | 2017/08/11 09:24
薄い影…興味深いです。
私も万能ではないですが感じることがあります。17歳の時に薄く見えた男の子はその2ヶ月後で不慮の事故で亡くなりました…って、これは医学的根拠がないオカルティックな話ですね(笑)
投稿: まさこ | 2017/09/08 06:15