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見えないもの

現代医療は、従事している医師たちが誰でも均一にできる技術しか推奨されません。ある意味、名人芸は否定されるのです。
昔の外科医であれば、人差し指が挿入できるくらいの2センチの小さな腹部切開で、指一本を挿入し、指の感触だけで化膿した虫垂を引き出し、虫垂炎を手術していました。今では、大きく切開を入れ、直視下で手術をします。
Img_0095胸水の溜まっている胸腔部分を指の胸壁打診音で確認して、ワンポイントで針を刺し胸水を吸引できる名人がいました。今では、レントゲンや超音波エコーで胸水を確認しています。

名人芸は、ご覧のように視覚に頼らず、五感をフルに使って治療に従事します。名人芸が否定する現代の医療は、視覚だけに特化した現状ですから、奥行きのない見えているだけの薄っぺらな医療になっていきます。

データを「見て」、異常がなければ、「気のせいです。」と診断し、それ以上の検査をしません。しかし、そのような患者さん、例えば、慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の患者さんをエコー検査や排尿機能検査で排尿障害が見つかります。そして、排尿障害の治療を積極的に行なうと、患者さんは、苦しみから解放されます。
逆に、検査で少しでも異常があれば、例えばPSA値が少しでも高ければ、「前立腺ガンの可能性が高い!」と言って針生検を行おうとします。前立腺ガンでPSA値が高くなる可能性は30%以下であるのに、今「見えていない」残りの70%の可能性を調べもしないで、破壊検査である針生検を実施します。理由は、前立腺ガン細胞を「見たい」という気持ちが一心にあるからです。

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先日、ある有名大学の講師が、最先端の生命工学について講演をされました。講演終了後会場からの質問に立った人々が、口々に「素晴らしい!」と感想を述べていましたが、私にはそのように思えませんでした。もちろん、私に出来る訳もない、最先端の高等技術でしたが、ある意味で有機体で作られたLEGOブロックをいかに工夫して、生体構造に近づけるかを論じているとしか思えませんでした。だから何?という感想です。その研究室に3年間で1億8千万円の研究予算を国からもらっていると聞き、国も見えている物にしか金を出さないのだと思いました。

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現代人は、見えているものしか信じません。しかし、昔の人は、見えていないものにも興味を持ち、信じていました。例えば、収穫・実りの神様や河川の龍神様など目に見えない八百万(やおろず)の神様を信じています。見た事も会った事もないお釈迦様やキリスト様を信じています。
また、理論物理学者、例えば、アインシュタインは、頭の中で考えた理論を数字化し「相対性理論」を創り上げたのです。


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コメント

私が60年間診てもらっていた現在93歳の引退された内科医は自分が患者になってみて現代の医師の質に驚いておられます。
聴診器を当てない、パソコンの画面しか見ない、患者の顔を覚えない等昔の医療とはあまりに違うことに驚愕されています。
検査の数値はあくまでも参考で自分の勘と経験を大切にされていました。
私が子供のころ先生は私の身体に手のひらを当てながらいつもじっと目を閉じて診察をされていました。
先日お会いした時に自分も何人かの誤診をしたと静かに語られました。
医師は自分の誤診は一生忘れないものなのですね。
【回答】
その通りです。
私にもいくつか経験があります。

投稿: 京都在住 | 2017/07/04 08:49

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