何でもかんでも骨盤骨折?
遠方から来院された若いご夫婦のご主人のエピソードです。
以前に事故があり、受傷し骨盤骨折しました。骨盤骨折では、一般的に出血量は2リットル以上で絶対安静です。当然動けないので、尿道からカテーテルを留置され、2週間後にカテーテルが抜けました。その後オシッコは出ていたのですが、ある日突然陰嚢近くが膿んで穴が開き、そこから尿が漏れ出て来たのです。主治医に相談すると、骨盤骨折の影響だと診断されました。さらに入院が長引き、傷の炎症が治り、リハビリのため他の病院に転院しました。
ところが、転院してから、しばらくして、だんだんと尿が出なくなってしまいました。治療のために尿道からカテーテルを入れようとしても入らないのです。仕方なく、膀胱に直接カテーテルを留置しました。いわゆる膀胱瘻という処置です。その後も排尿しようとしても、わずかにしか出ないのです。
主治医の泌尿器科医に聞くと、骨盤骨折の後遺症で尿道がズレたと診断されました。
骨盤骨折が原因ですから、ズレという段差は治せませんから、一生の膀胱瘻ですという医師団の雰囲気です。この時点で、インターネットで私を見つけ、少しでも明るい未来を望むべく、ご夫婦がセカンドオピニオンで高橋クリニックに来院しました。
ここで私だ気がついた問題を指摘しました。
❶骨盤骨折の影響で尿道皮膚瘻という事例は、私は聞いたことがない。
❷尿道の段差で排尿出来ないとすれば、骨盤骨折直後の入院した当初であれば納得できるが、そうでないので理解出来ない。
❸2箇所の病院の主治医の対応は、自分たちの責任ではなく、患者さんの骨盤骨折が全ての原因で、治すことは困難であるという判断である。ただ逃げているだけの印象を受ける。
【指摘理由】
❶骨盤骨折は、尿道まで及ぶ訳がない。一般的に尿道皮膚瘻は、尿道に長期間カテーテルを留置したために起きる後遺症である。
長期間留置の場合、カテーテルを腹部側に固定し、陰茎を上向きにしないと、カテーテルが尿道の血行を悪くし、尿道が腐る(壊死)ことだ。ご主人曰く、カテーテルを足側に2週間も置いていたという。最初に入院した病院の責任である。
❷骨盤骨折で尿道に段差が生じたとすれば、カテーテルを抜いた直後から自然排尿が出来たとは考えられない。原因は、尿道皮膚瘻の治癒過程で尿道が狭窄した。内視鏡検査で尿道の段差か、尿道狭窄かを確認するために主治医に意見を言うようにアドバイスした。
❸尿道皮膚瘻が生じるのは、尿道の球部から振子部にかけてです。尿道括約筋から相当距離の離れた場所です。にもかかわらず、尿道括約筋のすぐそばに尿道皮膚瘻が存在するのは無茶苦茶な理論です。尿道皮膚瘻の原因は、初めの病院の医師の責任である。尿道の段差と主張したのは、面倒な事を回避するための逃げである。どちらの主治医も自覚しているか否か不明であるが、手っ取り早く骨盤骨折に原因を求めて短絡的に自分たちでは手に負えない立場を取ろうとする。どう考えても、患者さんの立場に立って物事を考えていない。
たまたま現在の病院に紹介状作成のため検査入院予定だったので、内視鏡検査を実施してもらいました。日を改めて再度セカンドオピニオンのためご夫婦で来院しました。
内視鏡検査の結果、予想通り、尿道の段差はなく、尿道狭窄でした。しかし、穴は開いていなく、もう1つ少し別の穴が確認された。この穴は尿道皮膚瘻の痕跡と言われた。尿道とおぼしき瘢痕は見えている状態で肛門を締めてもらいましたが、見えている尿道括約筋が動かない。尿道括約筋が瘢痕化、あるいは麻痺していて普通の尿道狭窄の手術をすると、尿道括約筋が損傷し一生、オシッコが垂れ流し状態なると判断されました。主治医は、自分たちには出来ない治療なので、専門の病院を紹介すると言われました。
ここで、また問題が見えて来ました。
❶肛門の筋肉と尿道括約筋、いわゆる骨盤底筋は8の字に繋がっています。どんなにひどい瘢痕化したとしても、動きが確認出来ないことはあり得ない。また、肛門が締めたり、排便できるのですから、麻痺している訳がない。
❷自分で排尿すると、一回に40ml程尿が自力で出るという事実があります。それからすると、完全に閉じている部分は尿道ではなく、尿道皮膚瘻と思われた穴が本来の尿道でしょう。
❸主治医は、面倒くさいことは極力避け、それらしい理由を付けて、他の病院に治療の責任が転換しようと思われます。
入院施設のない高橋クリニックでは治療は難しい事を告げました。そこで、次に紹介される病院で、患者さんの経過を詳細に告げて、紹介状の経過との矛盾を悟ってもらいましょう。利口な医師であれば、容易に判断出来るでしょう。
結局、この患者さんの今の苦しみは、骨盤骨折が原因ではなく、治療中の対処の仕方の不手際が原因です。骨盤骨折は長期間安静にするためのキッカケでしかありません。
福沢諭吉翁の漢詩の如く、離婁(りろう)のような何でも見通せる眼力と、麻姑(まこ)仙人のような巧みな手で、人を助けなければなりません。
このエピソードは、患者さんからお聞きしたお話しを私なりに解釈し、私の考えを加え脚色し作成しています。間違っていましたら、ご指摘ください。
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