ディンプル
膀胱や前立腺の物理的に負荷がかかる現象として、物理学の分野で流体力学が重要です。
膀胱にしろ前立腺にしろ尿道にしろ、尿という流体物質が流れる場所です。当然、尿=水の流体物質が作る流体力学現象が所見として散見できます。
たとえば、膀胱頸部や前立腺部尿道に多数のポリープや尿道に石灰が露出しています。また、膀胱三角部に白苔(はくたい)変性が観察出来ます。また、尿線分裂もみられます。
そのような患者さんの内視鏡検査を行うと、前立腺部分の尿道粘膜にポリープを多数確認できます。専門用語で「炎症性ポリープ」と呼ばれます。
私が研修医の頃に、指導された先輩医師に、そのように教わりました。しかし、内視鏡検査を行う患者さんには、炎症がないから検査ができる筈なのに、「炎症性ポリープ」というのは理屈に合いませんでした。ポリープが多発する理由が不明のまま、とりあえず「炎症性・・・」という病名を覚えました。ずっと気になっていました。
開業医になってから、ある日、ポリープの発生原因を思いつきました。炎症性ポリープや後部尿道炎の所見のある患者さんは、若いのですが調べてみると決まって排尿障害を認めます。排尿障害とこの事実の因果関係を調べていくうちに、あることに気付きました。それは泌尿器科学の分野ではなく物理、特に流体力学と呼ばれる専門分野に出てくる「乱流」という考え方です。流体が液体であれば乱水流、流体が気体であれば乱気流とよばれるものです。
それに基づいて治療を始めました。膀胱出口が排尿時に充分に開かなければ、前立腺尿道内にジェット流が発生し、その結果、尿道粘膜に乱流が生じ陰圧がかかります。すると、その刺激で、前立腺結石やポリープの発生します。前立腺結石もポリープもジェット流による乱流を防いでくれます。飛行機のウィングレットと同じ作用をします。ですから、炎症性ポリープを確認したら、排尿障害の証拠になります。最近のジャンボジェット機などの航空機の主翼の端にウィングレットなる小さな垂直翼を見かけることが多くあります。
ゴルフボールは表面がツルツルではなく、小さな凹みが密集しているディンプルボールです。なぜディンプルがあるのかご存知ですか?理由は、ボールが飛翔している間に、表面に空気の渦ができないようにするためです。
ボールの表面に空気の大きな渦が生じると、ボールの飛翔進行方向とは逆向きの力が作用して、ボールが飛びにくくなるからです。ディンプルがあると小さな渦になり、逆向きの力が弱くなります。流体力学から考えて、泌尿器科医として思いついたことがあります。尿道内のジェット乱流を防ぐために、ポリープができるのであれば、手術後の尿流改善にポリープに変わるものを細工できないか?と考えました。人為的にポリープを作ることはできませんが、ゴルフボールと同じように「くぼみ」、つまりディンプルを作ることは可能です。
この写真は、慢性前立腺炎(膀胱頚部硬化症)の内視鏡手術中の所見です。
電気メスで削った跡に、キノコ型の特殊な形状の電気メスで凹みをいくつも創ります。
この電気メスは、当てた部分を蒸発する作用(蒸散作用)を持っています。
蒸散処置を終えキノコ型電気メスを離すと、処置した跡に凹みができています。
これが、尿流を改善させるために人為的に作ったディンプルです。
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コメント
手術直前の内視鏡所見に於いて、自分の尿道にも
小さなポリープが複数あり、その向こうには立派な
バー・イン・ザ・スカイを認めた訳ですが、その後
先生に施して頂いた処置によって、膀胱頚部及び
膀胱三角部に多くのディンプルを形成して頂き
ました。先生ご自身からも、
「こうやってディンプルを作ってやると、尿流が
スムーズになるんだ」
とライブで解説して頂きました。
その結果、自分の人生の中で、一番スムーズな
排尿を得ることができました!
思春期前ならいざ知らず、大人になってからは
かつて味わったことがないほどのスムーズさです。
今までは、どれほどの障害が存在していたのか‥‥。
思い返すと、その落差に驚きます。
一患者として、本当に感謝しております。
先生の実践されている処置が、間違っていない証拠
だと思います(少なくとも個人的には確信してます)
投稿: NT | 2017/06/12 18:50