神経因性膀胱 導尿の後遺症「膀胱のカビ感染」
平成25年4月に大学病院で脊髄疾患の手術を行った岩手県在住の患者さんです。その後、尿が思うように出なくて、さらに尿意切迫感と尿失禁が治らず、神経因性膀胱と診断されました。泌尿器科に自己導尿の指導を受けていました。2年後、高橋クリニックを見つけ来院しました。
初診時の所見は、自尿が90ml、残尿が98mlでした。前立腺は大きくはないので、経験の少ない泌尿器科医であれば、神経因性膀胱と診断されても仕方がなかったでしょう。
超音波エコー検査で膀胱三角部が肥厚し、前立腺内に石灰化を認めます。膀胱頚部硬化症による長年の排尿障害の所見です。おそらく、脊髄手術以前からこの患者さんには排尿障害があったと推察できます。まずは排尿障害の治療を優先し、ユリーフとザルティアを処方しました。
治療により症状は軽快しましたが、完全ではなかったので、患者さんの強い希望で内視鏡手術を行ないました。
写真は、内視鏡手術直前の所見です。予想通り膀胱出口が6時から12時に向かって盛り上がり閉じていて、明らかに膀胱頚部硬化症の所見(いわゆる柵形成)です。
その際に、患者さんの尿の臭いが独特で、とても違和感を感じました。そして膀胱内を観察したら、いつもと全く違う風景でした。膀胱粘膜全体に黒いものがたくさん付着しているのです。まるで海底の「岩のり」のようです。臭いの元凶は、おそらく、この黒い物体なのでしょう。おそらくカビ・真菌でしょう。
内視鏡手術で膀胱頚部を十分に切除し、前立腺は手を付けずに無事に手術が終わりました。手術後、通常の抗菌剤の他に、抗真菌薬ラミシールを処方し服用してもらいました。膀胱の粘膜に相当の菌糸塊があるし経過が長いので、直ぐには効果が出るとは思えませんでして。
ところが、その翌日、「尿の悪臭がなくなった」と患者さんが喜ばれました。私からすれば予想外の効果です。
さて、なぜ膀胱にカビが感染し繁殖したのでしょうか?おそらく自己導尿によってカテーテルでカビを押し込んだのだろうと、私は思いました。ところが、患者さんに話しを詳しくお聞きすると、ご自分では自己導尿していないことが分かりました。導尿指導で、すべて医師と看護師が実施したと言うのです。つまり、医原性、医療行為によって感染したと思われるのです。あくまでも、私の予想です。
ここで一つ私が反省することがありました。泌尿器科医からすると、尿臭の存在価値を認識していませんでしたから、考えを改める必要があります。私からすると排尿障害を自覚していない患者さんは、実際には臭わないのに臭う(幻臭)という症状があります。当院に来院する患者さんの多くが、排尿障害が潜在しています。その排尿障害を治療すると、幻臭が消失するという患者さんを多く経験したので、幻臭は大したことはないと思い込んでいました。たから、患者さんから尿臭の訴えを聞いても、「ハイ、ハイ」と軽く考えていました。尿臭を訴える患者さんに遭遇したら、カビも念頭に置くように心がけようと思いました。
【後日談】
術後1ヶ月が過ぎて、患者さんが術後報告に来院しました。
オシッコがよく出るようになり、排尿回数も少なくなりました。もっとも喜ばしいことが、患者さんがトイレを済ませた後に、トイレが臭くないと家族に喜ばれることです。
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