第119噺(145噺中)「病気を診ずして、病人を診よ・患者さんの訴えを聴け!」
毎日、日本中から、時には外国から様々な患者さんが来院されます。
近所の地元の患者さんばかりではなく、遠方、例えば北海道、青森、富山、新潟、京都、大阪、広島、岡山、四国、福岡、長崎、鹿児島、沖縄などです。
これらの患者さんは、地元ではご自分の病気の症状が医師に理解されず、「気のせい」「治らない病気」と診断されたり、患者さんが納得出来ない治療を強いられたりしている人たちです。
これは、患者さんが悪いのではなく、診ている医師が悪いのです。
私の卒業した慈恵医大の学祖・創立者、高木の基本方針・モットーは「病気を診ずして、病人を診よ」です。明治時代の日本の医学はドイツ医学が主流でした。そのため、病気に関する知識は豊富でしたが、それを目の前の患者さんに当てはめる、ワンパターンの診療に終始していました。全ての既知の病気が、全ての
患者さんに当てはまる訳でもなく、結局、患者さんの病気の本質を見ることなく済ませてしまったのです。
現在の慈恵医大は、昔と違って、倍率は40〜50倍と非常に高く、偏差値も東大・慶應並です。そると、頭の良い、IQの高い医師ばかりになります。結果、患者さん目線ではなく、上から目線になり、病気は診れるが、病人をちゃんと診れない医師が増えています。慈恵医大といえど、気をつけなければなりません。
私の世代の慈恵医大は、倍率が10倍程度で、努力すれば何とか入学できた大学でした。したがって、無知であることを前提に、見聞きすることに興味津々でした。そのため、目の前の患者さんも新たな知識をもたらしてくれるという見方できました。
なぜ、このような現象が起きるのでしょう?
これは、医師の自信とプライドに起因します。幼少期から周囲の子供よりは優秀で期待され、大人たちからもそのことを認められ続けた結果です。そのような環境で成人になり、医師になり、若い時から「先生!先生!」と持ち上げられれば、当然の結果でしょう。自分の獲得した知識が完璧で全てだという自負と自信が、患者さんに対する態度や診療に現れるのです。
しかし、わたしたちが得ることのできる医学知識は、未完成であり、発展途上でしかありません。過去の著名な医師たちが経験した医学知識が、臨床経験の全てを網羅している訳ではなく、中には臨床を経験していない、研究や文献だけで有名な医師や研究結果を偽装する医師も存在します。それら研究結果を教科書や文献で全て正しい事象だと信じて、受け売り的に患者さんに対応するのです。
臨床現場に訪れる患者さんは、私たち臨床医に新たな知識をもたらす恵みです。患者さんの訴える症状は、すべて真実であり、それを理解できない医師は無知なのです。
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コメント
私が小学生のころから60年診ていただいていた内科医は今引退されて93歳ですが、ご自分が患者になって気が付いたのは今の医師は患者の顔を見ないでパソコンの画面ばかりを見ているため何時になっても患者の顔を覚えないとおっしゃっていました。
それと患者の身体にほとんど触れないと嘆いておられます。
それとすぐにレントゲンや検査をするのはその医師が未熟なことで自分の若いころは検査をしなければわからないのかと先輩に叱られたそうです。
診察室に患者が入ってくるところから診察が始まっていると言われます。
患者が100人いればすべて条件が違うのに同じ治療をしてどうするとのことです。
子供のころから診察の時はいろいろな人生の話やご自分の失敗談を聞かせてもらいました。
あまりにも現代の医師とこの掛かりつけだった医師との違いが強烈です。
【回答】
同感です。
投稿: 京都在住 | 2017/03/30 09:06
高橋先生のおっしゃることは、教育者にも同様のことが言えます。本当に嘆かわしいことです。
投稿: カボスワイン | 2017/03/30 14:43
自分自身が初めて前立腺炎に罹患した二十数年前、
某大学病院の泌尿器科の先生は一見優しくて、よく話を
聞いてくれました。ところが色々と症状を訴えても、
「そんなはずはないんだがなぁ‥‥」
と首を傾げるばかりで、お決まりの直腸触診のあとで、
「ほら、何も異常はないもの」
と、取り合ってもらえませんでした。
二年以上通いましたが、結局は「気の持ちよう」と
結論付けられました。
気の持ちようでこんなに苦しいのに、もしご自分がその
症状を発症して「気のせいだよ」と言われたら、どんな
気持になるのでしょうか。それを聞いてみたかったです。
高橋先生のメッセージを拝読し、それが昨日の事の様に
思い出されます。
だからこそ、高橋先生は貴重な泌尿器科医でおられ続け
るのだと思います。
全国の患者さんたちが数多く頼って来るのも、先生を
信頼しての事ですし、当然の事だと思います。
投稿: NT | 2017/03/30 23:05