第102噺(145噺中) 「レセプター」
α1受容体の姿
(資料:The Journal of Urology vol.160,937-943,1998)
生物の細胞の表面にはレセプターというたんぱく質が存在します。
日本語で「受容体」と呼ばれるものです。
交感神経の末端には、アドレナリン・レセプターが存在し、交感神経の情報を受信し、平滑筋を収縮させて血圧をあげます。αレセプターは、アドレナリン・レセプターの一部に過ぎません。
副交感神経の末端には、ムスカリン・レセプターが存在し、平滑筋の弛緩や分泌腺の分泌を促します。
それぞれのレセプターには、様々な亜型が存在し、それをサブタイプと称します。α1a、α1b、α1dなどもサブタイプです。
泌尿器科(膀胱・前立腺)や循環器科(心臓・血管)に関連する平滑筋の表面には、その他にβレセプターが存在し、β1、β2、β3など複数のサブタイプが存在します。
このようなレセプターが人間の体には無数存在し、その解明により新薬が作られています。
例えば、ムスカリン・レセプターをブロックする抗コリン剤は、商品名でベシケア、ウリトス、トビエース、バップフォ、ポラキス、ネオキシテープまどいろいろありますが、すべてムスカリン・レセプターに作用する抗コリン剤です。
しかし、患者さんによって、どう言うわけか効果が異なります。同じ抗コリン剤ですから、作用は全く同じはずです。
αブロッカーにもハルナール、ユリーフ、フリバス、エブランチルなどがあります。これも患者さんによって効果が異なります。主治医としては、いろいろ試しながら、その患者さんにピッタリと合う薬剤を探すことになります。
臨床現場で、そのような経験をたくさんの積むと、今までのレセプターに対する考え方に疑問を感じます。
レセプターはあらかじめ細胞膜に固定した状態で存在するのではなく、侵入してくる薬剤に応じて細胞膜にレセプターが形成されるのでは?と思のうようになりました。
レセプターは変幻自在で、薬剤の刺激に応じてレセプターが、その都度その都度形成されるのです。同じαブロッカーであっても、細胞膜に形成されるレセプターは異なるので、反応が異なると考えられます。ハルナールはハルナールレセプターに反応し、ユリーフはユリーフレセプターに反応するという具合にです。ですからハルナールが結合するαレセプターと、ユリーフが結合するαレセプターは異なるのです。
そうなると、医師は複数個存在する選択肢の中から、ピッタリと合う薬剤を勘を頼りに探さなけれなりません。時間と労力と運が必要です。そこが名医とヤブ医者の境目になります。
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コメント
「時間と労力と運が必要です。」
高橋先生の仰る通りだと思います。
ただひとつ思うのは「時間」と「労力」は
自分の努力だと思いますが「運」は、どうしたら良いのだろう?という事です。
「運」は、どうしたら引き寄せられますか?
「運」が良いとか悪いとかで諦めきれないのです。
【回答】
患者さんサイドの運ではなく、医師サイドの運です。
医師である私に、発見出来る運がなければ、単なる無能の医師になります。
医師である私が、研鑚して運を引き寄せるしか方法がありませんね。
投稿: | 2016/08/12 16:27
熱心な仏教徒だった祖父母に連れられ子どもの頃よくお坊さんの説法を聞きにお寺に行きました。
「運命」とは「命」を運ぶ事、人として良い場所に自分の足を運べ(命を運べ)、そして人として功徳を積む事。その行いにより運命も変わる。
そんなような話を私もずっと信じて生きてきて、しかし、どんなに信仰に邁進しようが解決出来ない病もあるのだと痛切に感じています。
信仰を持つ意味はどこにあるのだろう?
今日は仕事でお盆でも居場所が見当たらない患者さんを見て信仰を何十年もやってきた私は、その意味、答が知りたくてウロウロしてしまっています。
高橋先生、どうぞ良い夏休みを。🍀😊
投稿: | 2016/08/13 16:31