第101噺(145噺中) 「尿は無菌は嘘だった」
インターネット配信のニュースで興味ある事例があったので、ここでご紹介します。
「尿は無菌」はウソだった! :研究結果© 株式会社メディアジーン 提供
尿には、尿素、水分、ナトリウム、カリウムやその他の化学成分が含まれています。無人島やジャングルなどを舞台にしたサバイバル番組を見過ぎた人だけでなく、医師までもがこれまでずっと、尿は無菌だと考えてきました。ところが、尿は体外に排出された時点で無菌状態ではないことがわかったのです。
米国微生物学会の学術誌『Journal of Clinical Microbiology』で発表された研究によると、健康な女性と、過活動膀胱(膀胱が過敏になり自分の意思に関係なく収縮する)を患っている女性の両方から尿サンプルを集めて検査した結果、健康な女性であっても、膀胱と尿に生きた細菌が存在することが確認できたそうです。
これまでは、尿サンプルから細菌が検出された場合、医師は何らかの尿路感染症だと判断していました。しかし、「尿は無菌である」という見方が誤りであることが研究で証明されたのはこれが初めてではありません。
尿は無菌という通説が生まれたのは、検査室で実施される通常の検査環境であれば、健康な人間の尿サンプルから「臨床的に有意な」数の細菌コロニーは検出されないだろうという考え方があったからです。細菌が検出されたとしても、皮膚や、滅菌されていないものと接触したせいだとみなされていました。
同じ研究チームがさらに研究を行ない、その結果を米国微生物学会に報告しています。この追跡研究では、84人の女性から尿サンプルを採取し、一般的な検査手法と、より有用なEQUC(Expanded Quantitative Urine Culture)と呼ばれる手法で培養しました。その結果、サンプルの70%以上に細菌が含まれていたのです。ところが、見つかった細菌の90%は、一般的な検査手法であらかじめ「陰性」とされていたもので、従来の手法には限界があることが示されました。
こうした結果からさらに明らかになったのは、過活動膀胱を患う女性の膀胱内に存在する細菌は、健康な女性の膀胱内にある細菌とは異なっており、種類も多様であったことです。研究チームは、膀胱に存在する細菌は消化器官で見つかる菌とかなり似た働きを持っており、正常な菌バランスの変化が過活動膀胱の発症の背後にあるのではないかとの仮説を立てています。これにより、尿路感染症や失禁といった膀胱疾患の予防や治療に対する医療関係者や研究者の取り組み方が変わると、泌尿器学学会誌『European Urology』に掲載された論文で研究チームの1人が述べています。
Urine is not sterile: use of enhanced urine culture techniques to detect resident bacterial flora in the adult female bladder | Journal of Clinical Microbiology
Stephanie Lee(原文/訳:遠藤康子/ガリレオ)
【備考】
細菌が原因でない過活動膀胱や間質性膀胱炎の患者さんが、過去の既往の中で、尿中に細菌が認められるからと言って、その都度、その都度、細菌性の膀胱炎と診断され、繰り返し繰り返し抗生剤や抗菌剤を処方され続けている患者さんが多く存在します。
また、細菌が検出されないからと言って、心因性頻尿と診断されることもあります。
細菌の有無が誤診を生んでいることに、今頃気づいたことになります。陰部から排泄される尿が無菌だと考えることに無理があります。デジタルな机上の空論です。もっと細やかな想像力が医療には必要です。
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