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第98噺(145噺中) 「神経因性膀胱と誤診された前立腺肥大症の患者さん」

栃木からご夫婦で来院された60歳代の男性患者さんです。
現在、自力で排尿は50ccほどで、残尿は常に400cc〜500ccも残っています。地元の大学病院では「神経因性膀胱」の診断で、一日6回の自己導尿を指導され実施しています。
しかし、一生自己導尿を行わなければならないことに、患者さん本人はひどく落胆していました。

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いろいろお話をお聞きし、超音波エコー検査を行いました。
前立腺の大きさは32㏄と正常範囲の20㏄前後と比較しても、約1.5倍の大きさです。いわゆる前立腺肥大症の範疇に入ります。

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超音波エコー検査の所見を詳細に観察すると、右の写真の如くです。
赤い矢印の線が、本来の膀胱のラインです。この患者さんは、膀胱のラインよりも膀胱側に前立腺が突出(緑の矢印)しています。いわゆる中葉肥大型前立腺肥大症の所見です。膀胱頚部硬化症の範疇に入ります。

この患者さんが、前の主治医に前立腺肥大症の手術をすれば、導尿しなくてもよくならないか?と尋ねました。
すると、主治医は神経因性膀胱になった膀胱は治らないので、手術をしても無駄だ!と答えたそうです。

前の主治医は試みもしないで諦めてしまう、杓子定規の応用の効かない冒険心のない医師です。前立腺の詳細な検討もしないで出した結果でした。前立腺肥大症でも中葉肥大型は、この患者さんのように強く排尿が障害されます。まずは前立腺肥大症の治療が優先です。

神経因性膀胱はダメになってしまった膀胱の状態を示しているに過ぎません。膀胱がダメになってしまった原因を追究しないで、ダメなものはダメという判断は、医学ではありません。その原因を除去することで、治るかも知れません。この患者さんは恐らく治るでしょう。まずは、排尿障害の治療薬であるユリーフと前立腺肥大症治療薬であるプロスタールを処方しました。この治療で軽快しなければ、内視鏡手術を考慮しました。

下記にセカンドオピニオンの紹介状をお書き頂いた内科の先生への報告書を掲載します。
★ ★ ★ ★ ★ ★

診 療 情 報 提 供 書

◇◇◇◇内科クリニック
◇◇ ◇◇ 先生 御侍史

                     平成28年7月23日
高橋クリニック 高橋 知宏
〒143-0027東京都大田区中馬込2-22-16
TEL:03-3771-8000
FAX:03-3771-8033

●患者様情報:
ご 氏 名: ●●●● 様
生年月日:昭和・・年・月17日
ご 住 所:●●県●●市●●・-・-
電話番号:

セカンド・オピニオンでご紹介頂いた上記の患者さんについて、ご報告を申し上げます。

●傷病名:中葉肥大型前立腺肥大症による二次性神経因性膀胱

平成28年7月23日に、当院を受診されました。
超音波エコー検査で、中葉肥大型の前立腺肥大症(32㏄)が判明しました。写真は、この患者さんの前立腺の側面象です。
Nb34820m612赤い矢印が本来の膀胱のラインです。ところが、前立腺中葉部が、このラインよりも膀胱側へ極端に突出しています(緑の矢印)。
このタイプの前立腺肥大症は、通常の前立腺肥大症に比べて排尿機能が強く障害されます。
機能障害の影響を受けた結果、膀胱の極端な疲弊を二次性と考えないで、原発性の「神経因性膀胱」と診断されることが、多々あります。
大学病院泌尿器科での「神経因性膀胱」の今回の診断も、その事例でしょう。
同じ泌尿器科医でも、内視鏡手術を得意としない医師は、姑息的な対症療法に陥る傾向にあります。
今までにも、この患者さんのような事例は、数多く経験しています。
ひとたび「神経因性膀胱」と診断されると、原因は追究せずに、治療方針は自己導尿の一辺倒です。
患者さんの生活のQOLを真剣に考慮しないのが、現代医療の盲点です。
治療方針としては、排尿障害の原因を取り除くことで、二次性神経因性膀胱の改善を図ります。

まずは保存的治療を開始しました。
排尿障害の改善薬として、α1ブロッカーであるユリーフ錠1日2錠
前立腺の縮小を図って、抗男性ホルモン剤であるプロスタール1日2カプセル
3か月ほど上記の薬剤を服用していただき、排尿に改善が認められなければ、つまり、自尿の増加が得られず、残尿量も変化がなければ、後日、内視鏡手術として経尿道的前立腺切除手術(TUR-P)を行います。

ご紹介ありがとうございます。
今後も、今回のような患者さんがいらっしゃいましたら、ご紹介いただけましたら光栄です。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。

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コメント

この患者さんは高橋先生に
「恐らく治るでしょう。」と、言ってもらい
どんなにか、どんなにか嬉しかった事と思います。
恐らくは絶望の中に一筋の明るい光が見えた事とお察し致します。

きっと帰途は足取りが軽かったと思います。
「良かったですね。」と、私も心から思います。

私はこの病気になってから(症状が出てから)
日に日に欲がなくなり、一日一日働く事が出来る事に(賃金を得る事が出来る事に)心の底から感謝するようになりました。

つまり、人間はどうせ死ぬという事です。

私のささやかな人生で唯一やれた事と言えば子どもをこの世に送り出せた事だけです。
この病気と格闘中の私は子どもを社会に送り出すまで何とか、後10年生きていたい、ただそれだけが唯一の私の希望、神様、どうか私に後10年の寿命をお授け下さいと思うようになりました。

しかし病院で働いてみると決して治らないけれど死ねない、つまり死なせてももらえず、ただ生きているだけの人々が
何と多い事かと腰を抜かすほど驚いています。

10年後、もしかしたら私は簡単には死ねないかもしれない……。
だとしたら私はやっぱり諦めないで、この病気と闘うしかない?と、思い始めています。

私が初めて高橋先生の診察を受けた初診の日、
途中から涙、涙で話も出来なくなった私に
高橋先生は「僕について来てくれれば最後は何とかなります。」と、話されました。

これからも高橋先生の治療についていくだけです。
主治医を変えようと思った事は今だかつて一度もありません。

病気も寿命も神様だけが知る事なのでしょう。
今は全てを神様に預けるだけです。

その患者さん手術、うまく行くと良いですね。
いやいや、きっと、うまく行くと思います。

投稿: | 2016/07/26 20:37

分野は全く違いますが、他機関や病院で門前払いや独善的な判断で、落胆したり、失望したり、途方にくれている方々がおられます。試みもせず諦め「させられる」のですから、閉口します。せめてご縁あってお出会いした方々だけにでもと、お力添えしております。高橋先生のお言葉は、私に勇気と力をくださいます。

投稿: カボスワイン | 2016/07/27 22:20

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