第49噺 (145噺中) 「血液サラサラにするアスピリン」
頭痛薬で有名なアスピリの由来は柳の木です。紀元前ギリシャの有名な医師ヒポクラテスが柳の樹皮や葉を煎じて熱さましやリウマチの治療に使用したと記録があります。その昔、インドや中国でも柳の枝の断端を細かく裂いて歯ブラシにしていました。柳の成分は歯肉の炎症を抑えました。また、風邪などで熱が出た時には柳の枝をかみしめると解熱効果があることが分かっていました。
1830年に柳の解熱鎮痛成分を抽出し「サリシン」と名付けました。その成分を結晶化したのがサリチル酸でしたが、非常に苦くて胃腸障害の副作用があり、臨床現場では使いにくい薬剤でした。
1897年にドイツのバイエル社がサリチル酸の副作用を軽減するためにアセチル化に成功し、アセチルサリチル酸を合成しました。それが今日の商品名「アスピリン」です。
しばらくの間、鎮痛剤として確固たる地位を築いた「アスピリン」ですが、1985年にアメリカのFADでアスピリンの服用で、心筋梗塞再発率が20%減少、狭心症の再発が50%減少するというデータが報告され、抗凝固剤としての作用が注目されました。現在、世界中で少量のアスピリンが服用されています。
しかし、最近、下記のようなネガティブデータが報告されています。
【一次予防のアスピリン、有意差なく試験中止】
アテローム性動脈硬化症リスク因子を有する高齢日本人患者1万4464人を対象に、低用量アスピリン1日1回投与の心血管イベント予防効果を無作為化臨床試験で検証(JPPP試験)。複合主要評価項目(心血管死、非致死性脳卒中/心筋梗塞)5年累積発生率に有意差は見られなかった(ハザード比0.94)。本試験は無益性のため中止された。
アテローム性動脈硬化症のリスク因子を持つ日本人高齢者への、1日1回低用量アスピリン投与について、心血管イベントの予防効果は認められないことが示された。早稲田大学特命教授の池田康夫氏らが、約1万5,000例について行った非盲検無作為化比較試験「JPPP試験」の結果、明らかになった。試験は、追跡期間中央値約5年の時点で中止されている。JAMA誌2014年11月17日号掲載の報告。
被験者は、2005年3月~2007年6月にかけて国内1,007ヵ所の診療所において、高血圧症、脂質異常症、糖尿病のいずれかが認められた60~85歳の高齢者であった。追跡期間は最長6.5年。最終追跡調査は2012年5月だった。
研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方には常用の治療薬に加えアスピリン100mg/日を投与し、もう一方の群にはアスピリンを投与しなかった。
心血管イベントリスクは低下せず、非致死心筋梗塞リスクは約半減
複合主要評価項目は、心血管死(心筋梗塞、脳卒中、その他の心血管疾患)、非致死的脳卒中(虚血性、出血性、その他脳血管イベントを含む)、非致死的心筋梗塞のいずれかであった。
アスピリン群、対照群ともに、試験期間中の致死的イベントの発生は56件だった。
5年累積主要評価イベント発生率は、アスピリン群が2.77%(95%信頼区間:2.40~3.20%)に対し、対照群は2.96%(同:2.58~3.40%)と、両群で同等だった(ハザード比:0.94、同:0.77~1.15、p=0.54)。
低用量アスピリンは、非致死心筋梗塞(HR:0.53、同:0.31~0.91、p=0.02)や一過性脳虚血発作(同:0.57、同:0.32~0.99、p=0.04)の発生リスクを有意に減少した。しかし一方で、輸血または入院を要する頭蓋外出血リスクを有意に増大した(HR:1.85、同:1.22~2.81、p=0.004)。
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