第42噺 (145噺中) 「フケ症・頭皮の脂漏性湿疹」
昔、2001年5月にフケ症の患者さんが来院しました。
その1年半前に、この患者さんは地元の皮膚科で調べてもらっていました。頭皮にカビ(真菌)は認められず、皮膚真菌症ではなく、「脂漏性湿疹」との診断を受け、洗髪とストレスを溜めないこととステロイドのローションを塗ることで治療を続けていたのです。しかし、抗炎症剤であるステロイドのローションで塗れば頭皮の痒みは治まるのですが、止めると直ぐに再発して、フケが出て仕方がないというのが患者さんの悩みでした。
この患者さんを診察すると、髪の毛の間から白い粉がふいているようなひどいフケ症だったのです。ステロイドが一時的に効果があり、中止すると再発あるいは再燃するという現象で有名な症状は、カビ(真菌)です。特に有名なのがカンジダ菌ですが、一般的に皮膚を一部採取し、写真のような菌体・菌糸を確認して治療ですが、検査で必ずしも検出される訳ではありません。私はそう考えて、この患者さんに抗真菌剤、つまり水虫の薬を処方しました。すると、どうでしょう!あっと言う間にフケは止まり痒みがなくなったのです。この患者さんは風邪などで今でも時々来院しますが、その後フケ症の再発はありません。
当時の「脂漏性湿疹」の概念には次のような記載があります。
皮膚分泌機能異常が根底にあり、脂質代謝・ビタミンB2・B6が関与し、ストレス・発汗・pHの影響もあるというのです。注意として脂漏性湿疹を「皮膚真菌症」と誤診することがある(1996年)とまで、丁寧に注意書きされているのです。真菌症の証明は顕微鏡で菌体の直接確認だけと断定しています。
ところが、1998年の皮膚科の専門書には、「脂漏性湿疹」はマラセチアmalasseziaという真菌・カビが重要なカギを握っていると記載されています。マラセチアは通常は写真のような酵母の形をしていて、その大きさは4ミクロン弱の大きさしかありません。恐らく光学顕微鏡では注意して観察しないと判断できないのです。場合によってはゴミとしてしか見えないでしょう。
2002年の皮膚科専門書には、脂漏性湿疹の原因として真菌説を第一候補に上げ、マラセチアについても言及しています。しかし治療に関しては「抗真菌剤で治るという報告がある」程度の中途半端な記載しかありません。
時は過ぎ、2007年の専門書には脂漏性湿疹の原因はマラセチアという真菌・酵母で、治療は抗真菌剤の入ったシャンプーや抗真菌剤のローションと記載されています。最近のテレビCMでも抗真菌剤(ミコナゾール)の入ったシャンプーが当たり前のように広告されています。
真実が公になってから、それが反映されるまでとても時間がかかることが分かります。良いと分かっても、直ぐには実行しないのが、この世界なのです。その間、無駄なステロイド剤を付け、ストレスを溜まらないようにと注意され、生活態度を改善しなさいなどと入らぬお節介を受け、治らないで苦しまれた患者さんがどれだけ多くいたことか・・・。
フケ症・脂漏性皮膚炎の原因であるマラセチアはカビ・真菌・酵母と呼ばれる微生物です。人間の皮膚に常在菌として存在し、皮膚の脂質(油)を餌に増殖する寄生生物です。私たち人間は動物細胞なので本来植物細胞に近いカビを殺すことは出来ません。カビで感染した皮膚を垢として仕方がなく捨てるしかないのです。それが「フケ」という症状になるのです。
【参考資料】
小皮膚科学 金芳堂 1984年版
皮膚科診療 南江堂 1996年版
皮膚科診療プラクティス 文光堂 1998年版
最新皮膚科学体系 中山書店 2002年版
今日の治療指針 2007年版
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