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第41噺 (145噺中) 「高血圧」

最近、血圧やコレステロールの正常値の範囲についてマスコミで話題に上がっています。
日本人間ドック学会が提案した正常値と内科学会のそれとが少し異なり、専門家の意見が食い違うことに興味が持たれたのでしょう。それぞれに言い分があります。人間ドック学会は現時点での正常値を示しているのであって、内科学会は将来的に病気にならないための正常値を決めているのだと解説しています。

Omron高血圧に関しては、日本人間ドック学会は148/95以上が高血圧としたのに対して、日本高血圧学会は従来通り140/90以上を高血圧として指示しています。素人が聞くと高々わずかの差とお思いでしょうが、専門家にとっては死活問題になるのかも知れません。
何故かと言えば、血圧の1mmHgの違いで何十万人の人が高血圧と診断され、定期的な検査と治療を受ける訳です。5~8mmHg違ったら、相当の人数になります。医療業界における経済効果は測り知れません。

俗っぽい話はこのくらいにして、もう少しアカデミックなお話しをしましょう。
加齢とともに血管が硬くなるのは仕方がないと思われます。血管が硬い、つまり柔軟性がなくなる状態、動脈硬化です。血管は体の隅々までに網目のように張り巡らされています。その膨大な距離の血管に血液を送っている心臓は、血管が硬くなることで更に圧力を強く高くして血液を送らなければなりません。柔軟性のない血管は圧力になお一層抵抗します。つまり血圧が上がることになるのです。

As高血圧が何故悪いのかというと、遠い将来、血管が段々硬くなり血管内腔が狭くなったり血管壁がもろくなったりするので、心筋梗塞・脳梗塞・解離性動脈瘤・くも膜下出血などの血管病変のリスクが高くなるからです。(図L:血管内腔、図LC:コレステロール沈着)

Hypertensiondragこの図を用いて治療について考えましょう。
現在の治療の主流は、ARB(アンギオテンシンⅡ・レセプター阻害薬)です。動脈壁の平滑筋の緊張を弛緩させることで血圧を下げます。
それまでは、カルシウム拮抗剤が主流でした。平滑筋はカルシウムを取り込むことで収縮しますから、カルシウムの流入を抑えることで血圧が下がるという仕組みです。
単剤だけでは効果が上がらない患者さんもおられるので、ARB+カルシウム拮抗剤の合剤が最近では流行になっています。

大昔の治療法は、交感神経の興奮を抑えるためにレセルピンや精神安定剤を利用しました。さらに利尿薬を使って循環血液量の体積を減らすことを行っていました。
次にβブロッカーという心臓拍出量を抑える薬剤で圧力を下げるのが欧米で主流になりました。日本ではβブロッカーはそれほど流行りませんでした。なぜなら副作用として高齢者の喘息発作を誘発するからです。
日本では血管平滑筋の緊張を緩める目的でα‐ブロッカーが多用されましたが、降圧作用は今ひとつでした。その後、カルシウム拮抗薬とACE阻害薬(アンギオテンシン酵素阻害薬)が日本の高血圧の治療の主流になりました。

【参考資料】
今日の治療薬 南江堂
オムロンHP

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